1999年6月9・10日

日本共産党第四回中央委員会総会

不破委員長の幹部会報告


 六月九、十の両日にひらかれた日本共産党第四回中央委員会総会で不破哲三委員長がおこなった幹部会報告はつぎのとおりです。


 みなさん、おはようございます。幹部会を代表して第四回中央委員会総会にたいする報告をおこないます。

いっせい地方選の総括と今後の課題

(1)議席数でも得票でも躍進の流れを実証

 まず、いっせい地方選挙の総括から報告をしたいと思います。

 議席総数は4403名――第一党の地位をさらに強化

 こんどの選挙の結果は、全体として大きな躍進でした。

 当選者は二千四百十二名で、前回にくらべて二百七十八名の増でした。内訳をみますと、前半戦で道府県議五十四名、政令市議二十八名、計八十二名の増加で、後半戦で市区町村議百九十六名の増加でした。

 得票は、道府県議選で前回比七四%の増、政令市議選で四七%の増、区議選で二三%の増、一般市議選で二三%の増、町村議選で二四%の増と、全体にわたって躍進の流れを実証しました。

 その結果、いっせい地方選挙が終わった時点での日本共産党の総議席数は四千四百三名で、地方議員総数で第一党という地位をさらに強化しました。

 女性議員数でも躍進――日本の民主主義への貢献

 今回の選挙では、全体として女性議員の進出が特徴とされましたが、党派別の内訳をみますと、当選した女性議員二千三百八十一名中、共産党議員が七百四十名で全体の三一%を占めました。他の五党の合計が五百八十六名でしたから、他党の当選総数をかなり上回っています。

 党の女性議員総数(非改選をふくむ)は、一千二百五十一名で第一党の地位をさらに大きなものとしました。とくに都道府県議では、全国に百五十五名の女性議員がいるうち、七十名が共産党議員です。

 女性の進出が特徴とされた今回の選挙のなかでも、わが党の役割は抜群であり、この面でも日本の民主主義への貢献をしめすものだということができます。

 90年代の流れでみると躍進の意味がいっそう浮きぼりになる

 今回の選挙の結果を九〇年代の流れ全体でみると、今回の躍進の意味がいっそう浮きぼりになってきます。

 九〇年代の冒頭では、地方議員の総数は、自民党が四千五百四十八議席で第一党、日本共産党が三千九百四十一議席で第二党でした。その他の全国政党は、当時は社会、公明、民社の三党でしたが、合計で七千七百三十九議席でした。

 それが、三回のいっせい地方選挙をふくむこの間の選挙戦で、わが党は四百六十議席を増加させ、先ほど申しましたように四千四百名を突破しました。

 自民党は、この間約千議席の減で、現在三千五百議席台ですから、わが党が、自民党に八百から九百の大きな議席差をひらいての第一党に躍進したわけであります。その他の全国政党は、この間に政党の離合集散がかなり激しくあったので、あえて合計でいうわけですけれども、この間約二千二百議席を減らし、五千五百台の議席に全体として後退しています。

 こういう流れのなかで、九〇年代に、日本共産党が地方議員総数で抜群の第一党に躍進したわけで、ここに大きな意味での政治の流れがはっきりあらわれていることを強調したいと思います。

 道府県議選――他の野党と肩をならべる議席を獲得

 今回の成果を、地方議会の段階にそってみてみますと、とくに都道府県議で、他の野党と肩を並べる議席数に達したのは、大事な前進であります(公明党百九十四議席、民主党百八十七議席、わが党百八十五議席)。政令都市の議席でも、総数百三十議席で、民主党を抜いて第三党になりました。とくに川崎市では、九議席から十四議席に躍進して、第二党に前進をしました。

 一般市議でも、実は昨年度の自治省の発表で、町村議につづいて自民党を抜いて第一党になっていましたが、今回の選挙でその差がさらにひろがりました。

 議案提案権をもった議員団も三百九十自治体から四百六十自治体に増えました。このなかには、都道府県では東京、京都、兵庫、高知の四都府県、政令市では札幌、川崎、千葉、名古屋、大阪、神戸、京都、北九州の八市がふくまれています。

 第二十一回党大会決議では、地方議員、地方選挙での前進の意義を強調するなかで、「とくに議員数がまだ少ない都道府県議会、政令市議会、市・区議会で力関係を大きく変えることは重要である」という課題を提起しましたが、大会が提起したこの課題は、ほぼ達成されたということができます。

(2)総選挙での躍進への有力な政治的条件をつくった

 つぎに、この躍進が何を意味するかですが、九六年総選挙、九七年都議選、九八年参議院選挙につづく連続的な躍進であって、きたるべき総選挙でのわが党の躍進にとって有力な政治的条件をつくったものと評価することができます。

 躍進の根底には党への期待の高まり、自民党政治と国民との矛盾のひろがりがある

 この躍進の根底には、日本共産党への期待の高まりとともに、自民党政治と国民とのあいだの矛盾のひろがりがあります。また、現在の政党のなかで、自民党政治との対決者が日本共産党しかないという認識が、国民のあいだにひろがりつつあることも大事なことであります。

 このことは、地方政治では、開発優先の自民党政治への批判、住民中心の自治体らしい政治への切望という形で、とりわけ強くあらわれました。

 また、この躍進を、政党の組織という面から考えてみますと、わが党は、全国に二万六千の支部をもち、支部が主役の活動をしている政党です。この党が、政党として、国民とむすびついた草の根の力を発揮しているということが重要であります。

 現在、政党の離合集散がいよいよ激しいなかで、国会議員はかなりいるけれども地方議員は弱いという逆立ちの現象が珍しくなくなっています。そのなかで、わが党が、政党がもつべき本来の力を発揮しえているということは、日本と政党の前途を考える上でも重要な要因とみることができます。

(3)反共攻撃とそれを打ち破っての前進

 公明党の反共攻撃の特徴と弱点

 今回の選挙では、反共攻撃とそれを打ち破っての前進が、選挙戦の一つの特徴をなしていました。いろんな党派がそういう攻撃をおこないましたが、もっとも激しかったのは公明党からの攻撃であります。

 今回の選挙戦を振り返りますと、公明党の反共攻撃の論点は、いわばすべて中央から”配給”されたもので、それぞれの地方・地域の政治の現実のなかから生まれたものではないということが特徴であります。その攻撃の最大の弱点もここにありました。

 大きくいって二つの論点がありました。一つは、地域振興券をめぐってのわが党への攻撃であって、”日本共産党が地域振興券を自分の手柄として宣伝している”という、ほんとうに事実無根のねつ造した非難を、中央の責任者がまず口火をきってふりまき、それを全国でいっせいにくりかえしたというのが、特徴であります。

 わが党はもちろんこれにたいして事実にもとづいて反論しましたが、結局、公明党の側は、”日本共産党が自分の手柄にした”という事実がどこにあったかを、選挙戦の全期間中、そして今日にいたるまで、ついにあきらかにできなかったというのが特徴であります。

 第二は、”学校の荒廃はうそだ”という攻撃であります。しかし、現在、学校が施設の面でも運営の面でも予算不足に悩まされて、程度の差はあるが多かれ少なかれその荒廃が子どもと親を悩ませているというのは、全国的な現実であります。地方によっては、公明党自身が加わって切実な意見書を決議している議会もあります。

 それをついたわが党の提起にたいして、”うそだうそだ”ということは、結局は、わが党を攻撃すればするほど、公明党自身が各地の悪政の擁護者であるという立場になってしまう、こういう性質の攻撃でした。

 相手側の支持者も理解できる反論に努力

 私たちは、そういう特徴をふまえて、必要な反撃をおこないましたが、そのさい、感情的な非難合戦ということにならないように、相手方の支持者でも理解できる説得力をもった反論を展開することに努力しました。相手はまともな反論ができないところまで追い込まれました。このことは、これからも、あれこれの反共攻撃への反撃にあたって注意する必要がある点です。

 なお、今回の選挙では、反共攻撃が、民主主義のごく初歩的なルールもふみにじる悪質な選挙妨害――正当な宣伝活動にたいする物理的な妨害や謀略ビラなどの形でもあらわれました。ここにも、こんご警戒すべき点があります。

 無法な攻撃は党の躍進と相手陣営の衰退の過程でこそ起こる

 だいたい、相手側が無法な反共攻撃にでてくるというのは、日本共産党の躍進と相手陣営の衰退、そして民主政治の実現への過程ではかならず起こってくることであり、ここに、以前から指摘してきた政治闘争の弁証法があります。選挙後の様子をみても、実際に、日本共産党の躍進をいかにしてくいとめるかが、いま悪政を擁護する諸勢力の思惑の最大の中心点になっています。そのことは、政府・自民党の一部幹部の選挙後の政局論などの論調にもでています。

 私たちは、攻撃にたいしては必要な反撃を的確におこないながら、そこにしめされている情勢の新しい特徴――日本共産党の躍進がいわば政治の中心問題になりつつあるという情勢の特徴を正確にとらえ、これを前進のバネにしてゆく積極的態度が大事であります。

(4)躍進の選挙でこそ弱点の真剣な総括を

 つぎに、問題点の分析にはいりたいと思いますが、こういう躍進をした選挙のときこそ、われわれの選挙戦の弱点について、事実にもとづく真剣な総括が大事であります。

 全体の躍進の成果は先ほどいいましたが、個別にみるとさまざまな失敗もあります。たとえば、全国で議席増をかちとった自治体は二十五道府県、十政令都市、三百三十八市区町村、合計三百七十三自治体でした。一方、議席減になってしまったという自治体は、二県、百三十六市区町村、合計百三十八自治体でした。これだけの明暗の結果がでているわけであります。

 自民党政治と住民の矛盾の現れ方には地方、地域の特殊性がある

 いくつかの大きな問題点についてのべますと、まず第一に政治戦の問題です。自民党中心の地方政治がこれだけ破たんして住民との矛盾をひろげ、そのなかでわが党が住民本位の政治の立場を明確にしめす、この対照がたいへん明りょうにあらわれ、そこを正確にとらえての政治戦が選挙戦のすばらしい力になったということは、どこでも共通していわれている今回の選挙戦の最大の特徴の一つであります。

 ここでよくみる必要があるのは、この自民党政治と住民本位の政治との二つの流れの対決というのは、大局的には全国共通ですが、その具体的なあらわれ方には地方、地域の特殊性がある、ということです。また、その悪政のもとで、住民がどこに切実な要求をもっているのか、これが政策の出発点であります。その住民の切実な要求が地方政治でなぜとりあげられないのか、どこにそれを妨げる政治の誤りやむだ遣いがあるのか、その実態を具体的に分析し、もっとも広範な有権者がなるほどと腑(ふ)におちるところまで問題をつめてつかむ、これが、政治戦にとって決定的に重要であります。そこまでつめきれば、党の政策は、演説のさい、あるいは「しんぶん赤旗」号外その他のビラの内容になるだけではなく、有権者にはたらきかけるいわゆる組織戦でももっとも有効な材料となり、力を発揮するものであります。

 ですから、前半戦では、多くの地方で、「政策論戦の威力を今回ほど感じた選挙はない」という声が広くでていますし、「政策論戦をやればやるだけ支持がひろがる」というのが全国に共通する実感だとされました。

 このことはこんごとも選挙戦の力にしてゆく大事な点ですが、同時に注意すべき点があります。

 それは後半戦で、一部に、この基本的な仕事が弱いまま、いわば全国的な政策を図式的にあてはめてそれに役立つ材料をさがすといった傾向が、部分的にあらわれたことであります。開発優先政治を批判するという問題でも、住民の利益、要求の立場から一つひとつの開発の内容をよく吟味し、これがむだな、そして住民に背をむけた大型開発なのか、それとも住民の要求にこたえる自治体として必要な仕事なのかの内容を分析しないまま、ただ規模の大きさだけで問題にして、見当ちがいの批判になったという場合もあります。また、住民の要求の中心点をとらえきれないで、最後まで住民の気分とかみあわない政策宣伝となったという場合もあります。

 後半戦の得票ののびが前半戦におよばなかったことは、この弱点が少なくとも一つの要因になったと思いますが、そのことを重視する必要があります。

 前半戦は道府県議選と政令市議選および知事選、政令市長選ですから、政治戦の主要なにない手は都道府県委員会でした。後半戦はなんといっても基本的には地区委員会の任務です。第二十一回党大会では、党建設の重点的な努力方向として、「第一。その地方・地域で日本共産党を代表しての政治活動・大衆活動を重視する」、「第三。選挙戦の推進・指導に熟達する」という任務を強調しました。この分野で地区委員会の力量を高めることを、こんごとくに重視してゆきたいと思います。

 それには、選挙のときだけでなく、日常的に議員団とよく討議し、地方政治や住民要求の問題にとりくみ、その分野での指導性を発揮できるよう、知識と経験を蓄積する不断の努力が大切であります。

 複数選挙、共倒れの失敗について

 二番目に、複数選挙――同じ選挙区に複数の候補者をたてる選挙の問題をとりあげたいと思います。

 わが党が全国的に議席増の課題に意欲的にとりくんだということはしばらくぶりの経験であります。それだけに先ほど数字を報告しましたように、躍進的な成功もあれば、失敗もありました。

 とくに共倒れがかなり大きな数字にのぼったのは重要であります。なかには、金沢、熊本の県議選が特徴的ですが、得票の総量が少なくて失敗したところもあります。これらの県議選では、参議院選挙の比例の得票と対比したときに、全国にくらべて得票の度合いが低かった。そういうところでは、二人たてたから失敗したという単純な反省ではなしに、なぜ全国なみの得票がとれなかったかというそのことの分析が大事だと思います。

 もっとも多いのは、得票は必要な水準に、あるいはそれ以上にのばしたのだが、候補者ごとの得票にばらつきがでて、一方で高位当選者をだしながら、他方、惜しくも敗れた惜敗の落選者をだしたというケースです。その一つひとつを分析してみますと、これまでの選挙戦で試された鉄則が軽んじられて失敗したという場合も多いのですが、新しい問題としては、この反省を、複数候補のあいだでの地域割りがよかったか悪かったかなどの戦術的技術的反省にとどめないことが、大切だと思います。

 いまの躍進の流れのなかでは、わが党の支持票が大きくひろがりますが、そのうち、党が人と人との結びつきという形で具体的接触をもっていない支持者の比重がかなり大きくなっています。ですから、党の側では地域的にうまく割ったつもりでいても、実際の支持者の流れはそれにそっていないという問題が、以前の選挙以上につよくでているのです。

 それだけに、候補者一人ひとりの活動を魅力的なものにし、その候補者が実際に活動している地域で、わが党を支持する有権者が、党の声がかかるかかからないかにかかわらず、その候補者に具体的に票をよせるような、活動の積極的な位置づけが大事であります。

 日常の議会活動、大衆活動の大切さ――神戸、徳島の経験にてらして

 三つ目の問題として、日常の議会活動、政治活動の問題をみたいと思います。

 こんどの選挙では、全国で、かなり顕著な前進をした地方がいくつかありました。一、二の例をあげますと、たとえば兵庫県では、県議会の議席を七議席から十四議席に倍増しましたが、とくに、神戸選出議員は前回の二議席から八議席へと四倍増しました。神戸市には九つの選挙区があるのですが、三つの二人区をふくめて八つの選挙区で勝利しました。また、神戸市議会では、十議席から十三議席に前進し、九つの選挙区の全部で一人あるいは複数の当選者をだしました。

 こういう躍進の背景には、大震災以来のわが党の震災救援と復興の活動、ほんとうに住民の要求をになっての活動がありました。また、神戸空港の是非を問うという大きな住民投票の運動が起きたときに、これに積極的に参加して、党としてその役割をはたしました。こういう活動が、兵庫、とくに神戸での前進の大きな力になったことはいうまでもありません。

 もう一つ例をあげますと、徳島県で、こんど県議を長年の一議席から二議席に増やしましたが、二人が立候補した徳島市の選挙区で、わが党は一位と二位を占めるという大躍進をしました。後半戦の徳島市議選でも、四から五に全員当選するという成果をあげました。

 ここには、環境破壊など大きな問題を起こしている吉野川可動堰(かどうぜき)の是非を問う住民投票の要求での党の大きな活動がありました。これは、十年越しに党が努力してきた問題ですが、住民投票の署名運動では、徳島市の居住二十支部のすべてが署名をあつめる受任者を組織し、経営やタテ線の支部・グループもいろいろな組織に結集して、文字どおり党をあげて運動に参加しました。徳島ではまた、部落解放同盟の乱脈・横暴が大きな問題になっていたのですが、これもわが党が年来活動してきた問題で、「解同」の横暴、乱脈を追及すると同時に、彼らが「部落差別撤廃条例」の名のもとに彼らの横暴を固定化する条例を提案するのにたいして、これに反対する県連絡会議を組織するなどの活動が、こんどの選挙に実ったものです。

 こういう経験のなかでみても、わが党が積極的に議会活動でいろいろな住民の要求をとりあげると同時に、大衆活動でもおおいに役割をはたすこと、とくに切実な要求にもとづいて住民が現に起こしている運動にすすんで参加し、その発展に貢献する活動が大事なことをしめしています。

 この面で失敗した事例もあります。たとえばある地域で、大型開発が問題になった、それにたいして議会でがんばって部分的な譲歩を認めさせた。そこまではよかったのですが、部分的な譲歩を認めさせたことを理由に賛成に回ってしまったために、選挙でこの政治を問う段になると、党としての立場を失ったという例もありました。また、なかには、議員のいちばん基本的な仕事である議会報告をいっさいしないとか、議会のなかでがんばっていても住民に知らせないとか、住民との接点になる要求運動でのとりくみが弱いとかの弱点が、選挙戦での審判をむかえて非常に重大な意味をもってきたという経験も、各地にあります。

 そういう点で、選挙戦でのたたかい方と同時に、日常の議会活動、大衆活動での議員団と党の役割をしっかりみる必要があります。

 前半戦を全力でたたかいながら、後半戦をぬかりなく準備する

 つぎにとりあげたいのは、前半戦と後半戦の関連の問題です。

 いっせい地方選挙は、全国どこでも都道府県および政令市の首長、議員の前半戦と市区町村の後半戦、という形でたたかわれます。前半戦を全力投球でたたかいながら後半戦をぬかりなく準備するというのが、鉄則であります。そして、前半戦の結果が、いい場合もあれば悪い場合もありますけれども、それを後半戦の前進のバネとして活用することがかなめです。

 運動的には、どこでも前半戦に力をつくすのが当然ですが、そのなかでも、後半戦の政治戦の準備は、十分にやっておく必要があります。その準備を十分にやったうえで全力投球してこそ、前半戦の前進を後半戦に生かすことができるわけです。この点は全国でこんごの教訓にすべきことです。/P>

 前半戦が知事選だけという東京の特殊な問題

 そのなかでとくにのべておきたいのは、東京の問題です。東京には、全国のなかでも前半戦が知事選挙だけで、党派の支持を争う議員選挙がないという、きわめて特殊な状況があります。そして、東京で革新統一が壊れて以後は、いつも知事選では、党の全力を反映した結果がなかなかでません。そして、その結果を受けて、後半戦までの一週間のあいだに、どうやって気分を一新して後半戦の体制をきずくかということが、いつも問題になります。

 今回の知事選は力戦奮闘して、前回にくらべると票を大きくのばしました。ところが、選挙結果が五位にとどまったというので、票をのばしながらも、そこからの気落ちの気分を克服することが、かなり大事な力のいる仕事になりました。全国的にも、なぜ、東京でああいう結果になるのかという声もありますので、若干の解明をしておきたいと思います。

 自民党が東京と大阪で、もう自分の候補で当選を争うだけの力を失ったことは、一つの大きな問題です。そして、東京では、わが党が三上満さんを推し、民主党が鳩山氏を推すなどのことはありますが、あらわれる形はすべて無所属同士の争いになりました。そうなりますと、たとえば、自民党とわが党が推している候補が対決しているところでは、法定ビラでも、相手陣営への的確な批判もできますし、有権者がわかる形で自分の陣営と候補者の政策の宣伝もできます。ところが、全体が無所属という形になってくると、たとえば、法定ビラでわれわれがある候補者を念頭において批判しても、読む人には、だれを批判したものかわかりません。つまり、大事な大量宣伝という舞台では、候補者同士の論戦ということがほとんど不可能になるのです。それができるのは、いわば候補者カーと宣伝カーがまわるところだけ、あとは「しんぶん赤旗」などの機関紙でやるしかないということになります。候補者カーと確認団体カーは、人口百万に満たないところでも、東京のように千二百万のところでも、同じ台数、それぞれ一台という枠ですから、そういう形の宣伝戦で、有権者全体の規模で訴えるということがほんとうに困難になります。そういう条件があるのです。そうなりますと、選挙戦は知名度だけの争いになりがちですし、そのなかで、よりましな候補者を模索するという傾向が、参議院選挙でわが党に支持票を投じた百万の有権者のなかにも広くひろがる―という特徴を、もってきます。

 そこに、選挙戦の性格からくる特別な困難があるわけで、とくに東京などの場合には、知事選のこの特徴をよくみてたたかわないと、前半戦と後半戦の関連をたたかっている部隊自身が的確にとらえきれないという問題を、あとに残すことになります。ここのところは、今後、よく掘り下げた見方が必要だと考えます。

(5)「日の丸・君が代」をめぐる問題について

 最後に、これは地方政治だけの問題ではありませんが、いっせい地方選挙の時期に提起され、討論も展開してきた問題だけに、「日の丸・君が代」問題について、のべたいと思います。

 わが党のこの選挙での躍進には、この問題での日本共産党の態度、方針への信頼、共感も大きくふくまれていました。

 現状の民主的解決策として二つの提起――わが党の提案

 私たちが批判してきたように、「日の丸」、「君が代」は日本の国民のあいだには「定着」しているのだという、いわゆる「社会的定着」論による問答無用のおしつけ、とくに教育現場へのおしつけは、深刻な社会的矛盾をひろげ、広島での校長先生の自殺事件や、最近おきた大阪での、やはり校長先生への傷害事件のような、さまざまな悲劇を生みだしてきました。

 これにたいして、わが党は政策を発表しました。これは、この現状の民主的な解決策として提起したもので、その柱は二つあります。

 一つは、この問題で国民的な討論を起こし、国民的な合意を追求する、そして国旗、国歌をきちんと決める法制化の問題では、その討論を広く十分にやったうえで、国民的な合意を前提にして、結論にすすもうという提案であります。この国民的討論にのぞむわが党の態度は、「君が代」を国歌にすることにも「日の丸」を国旗にすることにも反対で、いまの日本にふさわしい国旗、国歌を生みだそう、というものです。私たちは、この態度を、「しんぶん赤旗」の全戸号外でも大きくうちだしました。

 この、国民的討論と国民的合意を追求するということが第一の点であります。

 第二の点は、この問題を国民に、ましてや、教育現場におしつけないという問題です。すでに解明しているように、たとえ、国旗、国歌を公式に決めた場合でも、それにたいしてどういう態度をとるかということは、国民の良心の自由、内心の自由に属する問題であって、この分野でいっさい強制はしない、というのが、近代社会の原則であります。戦争中の学校への強制、国民への強制をそのまま引きずって、戦後もおしつけてきている政府のやり方に、最大のまちがいと問題があるわけで、この点でもよるべき基準・原則をはっきりさせよう、この二つがわが党の政策提案の中心であります。

 タブーが事実上打ち破られて、国民の自由な討論がはじまった

 この問題は、国民一人ひとりにかかわる問題だけに、私たちは大変重視をして、特別に「しんぶん赤旗」号外をだして、全国で配布してきました。日本には現在四千六百万あまりの世帯がありますが、現在までの「しんぶん赤旗」号外の配布枚数は、四千百四十四万枚ですから、約九割の世帯にあたる全戸配布をおこなってきました。離島をはじめ、残っている部分がまだかなりありますので、党中央としてもいろいろな援助をしながら、残っている部分についても最後まで届けきろうというとりくみをやっています。

 この号外の反響は、大変広範なものがあります。党本部に手紙、はがき、電話やファクス、インターネットなどで送られてきた声はすでに約千二百にものぼっています。

 私は、現在の状況の大事な特徴は、わが党のこういう提起もふくめて、これまでマスコミでも非常につよくあった、「日の丸・君が代」問題をタブーにする傾向が事実上打ち破られて、国民のあいだでかなり自由な討論が展開されるようになったことだ、と思います。この討論を真剣に発展させることが重要であります。

 こんど調べてみましたが、マスコミ各紙が、社説とか論説などで、新聞社としての態度を表明していることももちろんありますが、投書欄に「日の丸・君が代」問題での投書が多く登場するようになりました。この間、全国の六大紙にでている投書をずっとみてみますと、「日の丸・君が代」問題の投書は八十通、そのなかで、政府がいうようにいまのままでの法制化に賛成だというのは十九通しかありませんでした。四分の一に満たないわけです。なかには、どちらも困るというのもあれば、「日の丸」はまあいいじゃないか、しかし、「君が代」は困るというのもある。国民的討論が必要だというのもある。ある新聞にけさでていた投書は、私は前はいいと思っていたが、どうもこのごろおかしいと考えるようになった、という内容でした。そういういろいろな意見が実に率直にだされています。そして、わが党が提起しているように、国民主権の原則との矛盾や、侵略戦争の反省が欠けていることを、多くの国民が憂い、心配しているということも、これらの投書が実証しています。

 問答無用で国会の多数での法制化強行は許されない

 そのなかで先日、日本の在外公館が「君が代」を「天皇の統治・治世」と説明する文書を多年にわたって各国で配布してきたという事実が発覚しました。政府はあわててこの文書を回収したようですが、しかし、「君が代」の歌詞の説明にかんするかぎり、これはまことにことの真相をついた説明であって、文書を回収したからといってその説明がいままでまかりとおっていたという事実は消し去ることはできないのです。

 こういう状況にもかかわらず、政府は依然として「社会的定着」論に固執して、問答無用でこんどは法制化しようと図っています。これは、肝心な国民的討論を恐れる、そして”なんでもあり”という国会のいまの多数で、国民的討論ぬきのおしつけという現在の非民主的な体制を法制化しようということで、社会的矛盾をいっそう悪化させるものです。

 このくわだてにたいして、中央、地方の多くのマスコミが批判の論陣をはったのは、私は大変道理のあることと思います。

 各界著名63氏のよびかけは日本の良識

 この問題で、多くの人びとと声をあわせながら、こんごさらに本腰を入れて活動してゆくことが大事であります。

 ―政府の問答無用の法制化のくわだてに反対し、国民的討論を起こし展開する先頭にたつこと

 ―教育現場へのおしつけという前近代的なやり方の撤回をもとめること、これがかなめであります。

 先日、知識・文化人の九人の方が、国会での「日の丸・君が代」の法制化に反対するよびかけをして、それに五十四名の方が賛同し、六月七日、記者会見がおこなわれましたが、この各界著名六十三氏の訴えは非常に大事であって、ここに日本の良識があるということを、とくに強調したいと思います。

日本とアジア、世界の平和の問題――戦争法成立以後

 つぎに第二の主題として、戦争法の成立以後の日本とアジア、世界の平和の問題について報告します。

(1)米国の戦争に日本を動員――攻撃的な軍事同盟の本質をむきだしにした戦争法

 国会で強行成立させられたガイドライン法=戦争法の危険性は、すでに多くの角度から私たちは指摘してきました。

 これは、これまでともかく「日本の防衛」ということを表むきの建前にしてきた日米軍事同盟が、アメリカの戦争に日本を動員する攻撃的な軍事同盟だという本質をむきだしにしたものです。「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」という憲法の前文も、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という憲法第九条も、明々白々の形で正面からふみにじられました。それが、国民的な合意はもちろん、まともな国民的討論もなしに強行されたというのが、ことの危険性をいっそうつよくしめしています。

 日米軍事同盟の是非が本格的に問われる段階に

 アメリカの戦争に日本を動員するというこの体制と国民との矛盾、ここまできた日米軍事同盟と国民との矛盾は、これからいよいよ大きくならざるをえません。日米軍事同盟の是非二十一世紀もこれを存続させるのか、それともここからぬけだすのか、そのことがいよいよ本格的に問われる段階にはいりました。

 私たちは戦争法の廃止を要求してのたたかいをひきつづき強化すると同時に、安保条約反対の国民的多数派をめざすという任務に正面からとりくむ、これを大きな課題としたいと思います。

 そういう大きな展望にたちながら、戦争法成立後の具体的課題にとりくむことが重要であります。

(2)戦争法反対、戦争協力を拒否する国民的たたかいを

 まず、戦争法反対の声を圧倒的な国民世論にするたたかいです。

 政府は、国民のあいだに真相が知れる前にこれを強行しようということで、国会の採決を急ぎましたが、ことの内容が知られたところでは、どこでも圧倒的な反対の声がひろがりました。

 とくに、最終段階で陸・海・空・港湾の二十団体と宗教者のよびかけで、五万人の大集会が明治公園でひらかれました。これを主催した陸・海・空・港湾の労働団体というのは、海員組合のように連合に属する組合もあれば、中立系の組合もある。それこそさまざまな立場の組合で、この運動がはじまるまでには、おたがいにほとんど接触がなかったという組合があつまったのですが、このあいだ、集会などへの協力のお礼ということで代表者がみえました。三月の初めによびかけを発して、三カ月もたたないうちに、あれだけの大集会・大運動になったということにたいして、やってきた人たち自身が大変感動的に驚いていました。そして、強行成立させられた後も、ずっといろんな団体をまわるんだが、どこもがっかりしたという声がない、これからがんばるという声でいっぱいだったということを口ぐちに話し合っていました。まさに、戦争法反対のたたかいはこれからつづけるんだというのが期せずして共通の声となりました。これは非常に大切な点であります。

 このたたかいは、具体的課題をいろいろともっています。戦争法というのは、それだけで成り立つわけではなく、有事立法その他の法制的な具体化がこれからつぎつぎでてきます。また、民間の協力という場合に、たとえば、今回の集会の中心となった陸・海・空・港湾などを動員する実態的な具体化もこれからどんどんすすめられます。五月二十一日の五万人集会では、「この法律にもとづく戦争協力を拒否する」ということを大きくうちだしましたが、戦争法の具体化に反対するたたかいを、切実な実行課題として提起し、これにとりくみながら、共同のたたかいを継続・発展させることが大事であります。

 さらに、もっと先を考えれば、われわれの国会での追及にたいして、政府は”これは自動参戦ではない、そのときの政府の自主的な判断によるのだ”という弁明をさかんにおこないました。つまり、「周辺事態」なるものが起こった場合、戦争法を発動するかどうかは、そのときの政府の判断によるということです。そうである以上、「周辺事態」での戦争法発動を許さない国民的たたかいが、当然、これから大きな問題となってきます。

 そういうさまざまな課題が、このたたかいのなかで提起されてくるということを、正面からみて、戦争法の廃止を大きく展望しながら、また日米安保条約をなくす方向も大きく展望しながら、具体課題にとりくむことが重要であります。

(3)憲法擁護の広大な戦線をきづきあげることに特別の努力

 そのなかで、憲法擁護の戦線をきずきあげることに、私たちは、特別に力を入れたいと思います。戦争法による憲法第九条の全面的な蹂躪(じゅうりん)とともに、自民党内では、二〇一〇年の改憲を旗印にして派閥づくりをすすめる動きもあらわれています。国会で憲法調査会をつくろうという動きもあれば、憲法改悪の手続き法を先につくってしまおうという提案もあります。

 ガイドライン法=戦争法の成立を足場に、憲法の制約を全面的になくしてしまおうという危険な動きが表面化している今日、憲法の改悪に反対し、憲法の平和条項の完全実施を要求する広大な戦線をつくりあげるために、国会の内外であらゆる努力をつくす必要があります。そしてこの一点で、平和と民主主義の立場にたつあらゆる個人・団体の共同がいま特別に重要になっていることを、この中央委員会総会の名において強調したいと思うのであります。

(4)外交分野のたたかいについて

 さらに、外交分野でのたたかいも重要です。アジア・太平洋地域に、紛争問題がこれからもいろいろ起こりえますが、その平和的解決を要求し、アメリカなどの先制攻撃戦略や干渉戦争の発動を未然に防止する活動は、われわれの外交的活動としていよいよ重大な意義をもってきます。

 代表質問で北朝鮮との関係での二つの提案――半年間の経過はその的確さを証明

 朝鮮問題については、一月の国会での代表質問で、私は二つの問題を提起しました。一つは、北朝鮮との交渉ルートを日本がきちんとひらくこと、もう一つは、日本がどんな形でも北朝鮮にたいする先制攻撃にくわわらないという宣言をすることです。いろんな問題があるが、いまの悪循環におちいっている北朝鮮との関係を打開するためには、この二つが大事だということを提案しました。その後、半年近い経過は、これが的確な提言であったということを証明していると思います。

 日本が北朝鮮といっさい外交ルートをもたないまま、こういう状態にあることについては、まわりの国からもなんとか打開しろという声がきわめて痛烈にあげられています。北朝鮮をめぐって危機だ、紛争だといいながら、日本が交渉ルートをもたないまま、軍事対応だけに狂奔しているということへの懸念がひろがっているわけです。

 戦争法に警告の声をあげる韓国のマスコミ

 もう一つ、先制攻撃の問題では、私はガイドライン法が衆議院を通過したときの韓国のマスコミの反応に非常に注目しました。政府はガイドライン法案を通すときに、朝鮮半島でなにか起こったときに韓国を見捨てていいのかみたいな議論をよくやります。ところが、その韓国のマスコミ、ハンギョレ紙という新聞ですが、四月二十八日に、「日本の周辺事態法の問題点」という解説で、”ガイドライン法ができあがって、こういう心配がでてきた。米国はいまや、日本の確固たる兵たん支援を確保した以上、われわれの望んでいない戦争を一方的に起こさないという確実な保障はない”と書きました。つまり、五年前の北朝鮮の核疑惑のときには、日本の支援の条件がないということで、アメリカが先制攻撃をあきらめたのは、周知のことだが、こんど、ガイドライン法ができたということになると、アメリカが安心して、韓国社会の意思に反して、北朝鮮に先制攻撃をやるかもしれない、その危険がつよまった、そういう警告の声をほかならぬ韓国のマスコミがあげているのです。ここに私はガイドライン問題の非常に重大な問題点が指摘されていると思います。

 こういうことをふくめ、私たちは朝鮮問題について、問題を解決するかなめとして何が大事かということをふまえての外交活動を、こんごともおおいに強化する必要があります。

 中国問題――台湾海峡への軍事介入は危険な干渉攻撃

 中国問題では、台湾海峡への軍事介入が危険な干渉主義の攻撃であることを、日本の国民のあいだでもっと広く、外交の原則問題として解明してゆく活動がいちだんと重要になっています。

 これらの点をふくめ、日本とアジアの平和をまもる外交分野でのたたかいを、私たちは党大会の方針にもとづいていっそう重視してゆく必要があります。

(5)戦争法の発動を許さない政府をめざす

 もう一つ、政府・政権の問題が大事になってくるということを強調したいと思います。先ほどいいましたように、戦争法では「周辺事態」なるものが起きたときの対応を政府のそのときの判断にゆだねています。このしくみのもとでは、憲法をまもり、戦争法の発動をゆるさない民主的な政府を樹立するかどうかという問題が、日本とアジアの平和にとって、いよいよ緊迫した意義をもってくるのです。戦争法は国内法であって、アメリカにたいする条約的義務ではありません。ですから、自主的な判断ができる政府が樹立されるならば、安保条約と戦争法が存続するもとでも、アメリカの要請を拒否して、憲法にしたがった日本の立場をまもることができるわけです。

 こういう意味で、平和をまもる意思をもつ政府をつくるかどうかという問題が、日本とアジアの平和と前途にとって、これまで以上に決定的意味をもってきます。

 政権の問題は、情勢の展開に応じて、安保条約の廃棄の立場にたつ民主連合政府の成立以前にも、さまざまな形で日程に上ってくるし、いろいろな角度からの接近が問題になるということは、以前からあきらかにしてきました。どんな段階で、どんな形態の政権を問題にするときでも、私たちは、戦争法にたいする態度の問題を、政権の性格にかかわる基本問題として位置づけ、重視する必要があります。これは、戦前から侵略戦争に反対することを一貫した伝統としてきた党として、当然のことであります。

(6)米国の干渉と先制攻撃に反対し、平和の世界秩序をまもるたたかい

 以上が、日本の国内でのこんごのたたかいの問題でありますが、ここでもう一つとりあげたいのは、現在の国際的な課題の問題です。

 戦争法の根源がアメリカの干渉戦略、先制攻撃戦略にあり、戦争法がそのアジア・太平洋での具体化であることはすでにくりかえし強調してきました。

 NATOの「新戦略概念」――米国の介入戦略のヨーロッパでの具体化

 いま、同時に重視する必要があるのは、アメリカがその同じ干渉戦略、先制攻撃戦略を、ヨーロッパで、NATO(北大西洋条約機構)の新しい戦略方針として具体化したことであります。日本の戦争法の衆議院通過に前後して、NATOでは四月二十四日、「新戦略概念」という新しい軍事方針、戦略方針が決定されました。

 NATOの条約には、第五条という条項があって、NATOの加盟国が外部から武力攻撃をうけたら、NATOという軍事同盟の集団として共同の反撃をするというのが、これまでのNATOの軍事的建前でした。それを変えようという動きは、これまでもいろいろあったのですが、こんどの新戦略概念は、その決定版として、「第五条事態以外の危機」、つまり攻撃をうけない事態での「危機」でも戦争行動にでるという方針にふみだしたのです。NATO加盟の国ぐにへの攻撃が問題ではないわけですから、NATO諸国の外の地域で起きることにたいする「危機対応作戦」として、本格的な戦争行動にでるということです。

 まさに、日本の「周辺事態法」、戦争法と同じ戦略的立場から、ヨーロッパでの具体化をやったわけです。

 NATOの場合には、日本の憲法のような制約がありませんから、日本の場合とくらべるとものごとをごまかさないで、問題の核心をはるかに明りょうにのべているのが特徴です。たとえば、「周辺事態」とはどんなことが問題になるのかについても、はっきりとあげています。NATOの周縁地域での「地域危機」――周縁地域とはどこかというと「ヨーロッパ・大西洋地域とその周辺」とされています。そこでの「地域危機」とはどんな内容のものかというと、「民族的、宗教的抗争、領土紛争、不適切な改革努力やその失敗、人権侵害、国家の解体」などから起こってくる「地域危機」だ、というのです。全部これは他国の内政にかかわることです。それにたいして、それが、欧州、大西洋地域の安定をおびやかすとNATOが判断するときには武力で介入する。文字どおり、他国にたいする内政干渉の戦争や、他国で危険なことが起こるんじゃないかと判断したら先制攻撃にでるという戦争の方針を、きわめて明りょうにうちだしたのです。

 全世界的規模で先制攻撃戦略を確立した米国

 しかも、この方針をうちだす前に、アメリカのタルボット国務副長官はドイツで演説して、「われわれは、NATOが、いかなるものであれ、他の国際機関の下位におかれたり、みずからの指揮命令体系の統合性を危険にさらしたりしないよう、注意深くなければならない」という方針をうちだしました。「他の国際機関」とは、なによりもまず国連のことです。だから、この演説がうちだしたのは、”われわれは国連の下位にはたたない。われわれがやろうとすることが、国連によって邪魔されることを望まない”ということで、NATOが国連を無視して行動するということを事実上宣言したものでした。

 こういう戦略方針をヨーロッパで展開しながら、アジアでは戦争法を日本につくらせた、ここにアメリカの戦略の到達点があります。

 ソ連が崩壊したとき、この事態をこれまでの米ソ軍事対決の脅威から世界を解放する機会とみる歓迎と期待の声が世界でかなりひろがりました。ところがアメリカは、核を中心とする巨大な軍事力と軍事同盟の網の目をそのまま握りつづけて、それで世界をおさえようという「世界の憲兵」戦略にふみだしました。しかし、この「世界の憲兵」戦略というのはなかなか大義名分がたたなかったのです。だからいろいろ苦労して「ならず者国家」論をとなえたこともありましたが、いま到達しているのが、「地域危機への対応」ということで、他国への内政干渉も、先制攻撃も同盟国を動員して集団でやろうという新戦略です。

 ことしそれを、大西洋地域と太平洋地域で具体化した。NATOの「新戦略概念」は「ヨーロッパ・大西洋地域」、日本の戦争法は「アジア・太平洋地域」、二つをあわせるとアメリカを除く地球の全部がふくまれるしかけです。そういう形で、干渉戦略・先制攻撃戦略をたて、全地球規模でその体制を確立した。

 そしてこの体制というのは、国連憲章が定めた平和の秩序、平和のルール――各国の内政には干渉しない、国際的な武力の行使は国連の決定による、各国の勝手な軍事行動は、侵略への自衛反撃以外には認めない――、第二次世界大戦の反省から、国連が世界平和のルール・秩序の基本として定めたすべてを正面から否定して、いわばアメリカの覇権主義を世界の新しい原理にしようとするものです。

 私はここに、二十一世紀の世界の平和をおびやかす最大の脅威があるし、この脅威から平和をまもり、平和の世界秩序をまもり確立するたたかいこそが、二十一世紀の国際的なたたかいと課題の中心を占めるということを、強調したいと思います。

 ユーゴ問題――空爆中止と国連の積極的役割が重要

 いまおこなわれているユーゴにたいする空爆は、まさにその発動でした。私たちは、このユーゴ問題について、NATOによる空爆をただちにやめることを要求して、NATO加盟諸国をはじめ各国政府にはたらきかけました。四十数カ国の大使館を直接訪問して、中央委員会の申し入れを渡しましたし、そのほか八十余りの国にたいしては手紙でこれを送りました。日本の平和の世論をふまえての外交活動は、こんごとも重視して展開する必要があります。

 いま、ロシア政府やフィンランド政府の仲介努力などのなかで、平和解決にむかっての動きが進行していますが、これがほんとうに公正な解決をもたらすためには、第一に、三月から始められた無法な空爆の中止を前提にすることが大事であります。第二、こんどの合意のなかには、コソボへの駐留軍の問題でも、暫定統治機構の問題でも国連の決定によるということで、いままでの、国連を無視したNATOの勝手な行動としてやられたしくみのなかに、初めて国連の役割がでてきています。それをふまえて、国連が積極的な役割をはたすこと、NATOの勝手なルールではなく、国連での合意を問題解決の基軸にすることが、非常に重要であります。

 私たちはそのことをひきつづき主張し、アメリカやNATOの干渉戦略によって平和解決の道がくつがえされないよう、国際世論へのはたらきかけ、そしてまた国際世論による監視をつよくもとめて活動してゆきたいと思っています。

(7)外国の諸政党との関係の発展のために

 国際問題の最後に、外国の諸政党との関係の発展という問題をとりあげたいと思います。

 わが党はこれまで、外国の政党と関係をもつさい、自主独立、対等平等、内部問題相互不干渉という三原則にもとづいて対処してきました。これらの原則は、一九六〇年代に、外国の共産党との関係を律する基準として提起し、実践してきたものであって、ソ連、中国などの覇権主義、干渉主義とたたかううえで、きわめて積極的な意義をもってきました。昨年の中国共産党との関係正常化にあたっても、わが党はこの三原則を歴史問題の解決の基準とするし、同時にこんごの両党関係の基礎とする態度をとりました。

 この間、わが党は、国際活動のなかで、共産党以外の外国の諸政党とのあいだで、より広範な友好関係をむすんできました。そのさいにも、わが党としては三原則を基準として対処しました。

 さまざまな政治的・理論的な立場にたつ諸政党との交流、友好、協力は、当然の方向として、こんごの党の外交活動のなかでいっそう大きな比重を占めてくることになるだろうと思います。この情勢のもとで、三原則を、外国の諸政党との関係を律するわが党の側の一般的な基準としてあらためて位置づけ、確認することにしたいと思います。

 わが党は、相手の党が保守的な政党であれ革新的な政党であれ、また、その国の与党であれ野党であれ、双方に交流開始への関心がある場合、自主独立、対等平等、内部問題相互不干渉の原則にもとづいて、外国の諸政党との関係を確立し、率直な意見交換をおこない、可能な場合にはアジアと世界の平和のために共同の努力をおこなうものであります。

不況の打開と国民生活の防衛のために

 次に、国内の経済問題ですけれども、日本経済と国民生活の分野でも、「自共対決」はいよいよ鮮明になりました。不況打開をはじめ当面の日本経済の諸問題を解決するわれわれの基本方向に変わりはありませんが、この中央委員会では、いくつかの、いま重大になっている諸問題についてのべたいと思います。

(1)不況打開の闘争で、雇用拡大の課題を重視する

 一つは、不況の打開をめぐる闘争で、雇用拡大の課題を重視するという問題であります。

 いまの失業情勢の深刻化は、戦後の混乱期を除けば過去最悪のもの

 不況の長期化、ひきつづく経済困難の根源が、国民の個人消費の圧縮と国民生活に背をむけた政府の誤った経済政策にあることは明りょうであります。そして、この面では、消費税増税などの個人消費圧迫の政策に加えて、リストラの横行による雇用の削減が不況を深刻にするきわめて重大な問題になりつつあることが、今日とりわけ重視すべき点であります。

 六月一日に総務庁が四月の失業統計を発表しましたが、完全失業率は三月につづいて四・八%という戦後最悪の数字、そして実数は、完全失業者三百三十九万人(三月)から、さらに三百四十二万人に増えました。文字どおり失業情勢の深刻化は、戦後の混乱期を除けば、最大の規模に達しています。

 失業をひきおこすリストラを歓迎・促進・援助する小渕内閣

 ところが政府は、大企業の国際競争力の増強を旗印にして、いま失業を大規模にひきおこし深刻化させつつある最大の根源――大企業のリストラにたいし、これを歓迎し促進し援助するという政策をとっています。

 三月分の失業統計が発表されたのが四月三十日でした。これをアメリカ訪問中にきいた小渕首相は、シカゴ大学での学生との懇談のなかで、「企業が競争力をもつためには、残念ながら失業率はまだ増えざるをえない」という、これからの失業増大を当然視する言明をおこないました。文字どおりのリストラ歓迎、促進の立場であります。

 秋の臨時国会には、それを具体化した法案を用意するとされています。内容はまだ不明ですが、その方向が、国際競争力の増強の名のもとにリストラへの政府の支援をもとめてきた経団連など財界の要望にこたえるものとなることは、まちがいありません。そこでは「過剰設備」、「過剰雇用」の解消ということが旗印にされているわけですから。

 日本ではもともと、リストラ的な大量解雇にたいする法的な規制、雇用の保護が非常に弱いのが特徴ですが、それをさらに大幅に悪化させる措置がふくまれる危険も多分にあります。

 雇用の防衛と拡大のための三つの中心点

 こういうなかで、消費税減税、中小企業をまもるなどの要求にくわえ、雇用の防衛と拡大の課題が、労働者の切実な要求であるとともに、不況の打開のための国民的な課題になっているということを、重視する必要があります。

 そこにはいくつかの中心点があります。

 第1――労働時間の短縮で雇用を構造的にふやす

 一つは、労働時間の削減の問題です。残業の規制をはじめ、労働時間を制度的に削減することによって、雇用を構造的に増やすことは、いまや避けることのできない課題になっています。

 社会経済生産性本部という、財界を大きなバックにした組織がありますが、この組織が五月二十六日に、この問題で注目すべき発表をしました。残業をゼロにしたらそれだけで二百六十万人の雇用が拡大する、サービス残業をなくすだけでも九十万人の雇用が拡大する、という発表です。財界に近い機関でも、いまやここに雇用拡大の中心問題があることを認めざるをえなくなっているわけです。二百六十万人の雇用拡大ということは、四月の完全失業者三百四十二万人にあてはめますと、その七六%を吸収するという大規模なものです。ここに第一の問題があります。

 第2――解雇・リストラの規制にふみだす

 第二に、解雇・リストラの規制にふみだすことです。

 いま日本では、解雇については法的な規制はなくて、裁判所の判例で、「解雇四要件」といって、解雇の必要性が認められるか、解雇を回避する努力がつくされたか、解雇対象の選定は合理的か、労働者側への説明協議が十分か、などが事実上の制約となっているという程度です。この「四要件」さえもはずして、経済的必要ということから、一方的な大量解雇への道をさらにひろげる危険もあります。

 ヨーロッパ諸国とくらべても、日本ほど大量解雇が自由勝手におこなわれる国はないわけですから、リストラ、大量解雇にたいするきちんとした法的な規制を確立し、この面からも雇用をまもるしくみをつくることは、たたかいの重要な分野となります。

 第3――福祉・教育・防災など国民生活の分野での雇用拡大

 第三に、福祉・教育・防災など、国民生活の分野での雇用拡大の問題があります。

 昨年十月に、アメリカのガルブレイスという経済学の教授が、日本の不況対策にたいする勧告という形で、日本経済新聞に文章を発表していました。そのなかで、彼が不況対策での政府の義務としてあげているのは、公共サービスや教育などでの雇用の拡大で、これを最優先の課題としてあげています。

 ところが日本では、政府はこの不況の時期に、「行政改革」といって公的雇用を減らすことに熱中している。これぐらい逆立ちした話はないのです。現実には、日本というのは、公務員による公的サービスが世界のなかで極端に少ない国です。たとえば一番新しい一九九四年の統計でみますと、人口一万人あたりの公務員の数は、日本は三百二十一人です。ところがサミット諸国の現状をみるとフランスは千六十二人で日本の三・三倍、イギリスは七百三十五人で日本の二・三倍。ドイツが六百七十八人で日本の二・一倍。アメリカは六百四十三人、イタリアは六百二十八人で、どちらも日本の二・〇倍、カナダだけが三百人で、日本よりすこし少ないという状況です。これは、日本の国民は、公務員による公的サービスを、ヨーロッパやアメリカの二分の一から三分の一しかうけていない、ということです。だから、外国の研究者と話しますと、公的サービスがこんなに少ない国で、政治家はどうして公務員を減らすことにばかり熱中するのかという批判をしばしばうけます。これが実態です。

 こういう現実にもかかわらず、民間ではリストラをすすめ、政府と自治体は福祉・教育の切り捨ての人員削減を大方針にする、これでいったい、何をもって雇用危機に対応しようというのか、まさにそれが問われています。

 政府は景気が「横ばい」とかいろいろいっていますが、まさに国民消費の現実からいえば、消費税増税などによる一般的な圧迫から、雇用問題という消費の主体そのものをおびやかす危機にまで、いまや事態は深刻化しようとしています。ここでも、大企業の高利潤のための政治なのか、雇用拡大・不況打開のための政治なのかが、まさに国民的争点になりつつあります。

 こういう立場で、政策的にも、大衆運動分野でも、おおいにたたかってゆきたいと考えます。

(2)介護保険問題――緊急の4つの提案と要求

 十カ月後の実施を前に深刻な事態――全国の三分の一をこす自治体から痛切な要請

 もう一つの問題は、実施を十カ月後にした介護保険の問題であります。

 私たちは以前から、介護保険をめぐる事態の大変な深刻さを憂慮して、昨年も実施二年前の時点で政府に要求をだしました。

 ことしは三月十五日に五つの緊急要求をだしました。

 第一に、大幅におくれてしまっている介護基盤の整備に国と自治体が全力をあげること。

 第二に、低所得者が排除されないよう、保険料・利用料の減免措置を国・自治体の責任でおこなうこと。

 第三に、介護保険が導入されるからということで、これまでやっていた自治体の福祉施設への補助を打ち切ったり、自治体が福祉事業から撤退したりすることを中止すること。

 第四に、特養老人ホームから低所得者を追い出すことは絶対しないこと。

 第五に、介護が必要かどうかの認定はいまの機械的なやり方でなしに、高齢者の生活実態を反映したものにすること。

 この五つであります。

 その後、各分野から多くの警告もだされていますし、全国の自治体からの意見書も増えています。去年からことしの四月までに意見書をだした自治体の数は約千二百にのぼり、自治体総数の三分の一をこえるにいたりました。

 その中身をみますと、”保険料や利用料を払えないということで低所得者を排除することがないようにしてほしい””介護基盤の充実をはかるため国庫補助制度を増やしてほしい”とか、”介護の認定は身体的機能だけで決めるのではなく、介護の必要度を総合的にみてもらいたい”とか、まさに私たちが五つの緊急要求で提起したことをずっと裏付ける内容となっているのが、特徴です。

 介護の問題がなぜこういう深刻な事態になっているか。私たちは、もともと、介護保険導入にあたって、福祉と保険の結合という方針を提起しました。政府が、それをしりぞけて保険一本にしたうえ、財政負担の軽減を優先させ、十分な準備もなしに保険化を強行したというところに、いまの重大な事態が生まれる根源があります。

 実際、来年介護保険が導入されますと、国と地方の公的負担は、これまでとくらべて四千五百億円も減らされることになります。二〇〇〇年度での予想ですが、国が三千七百億円負担が減り、地方の負担が八百億円減ります。それを優先させて、準備がないのに介護保険を強行したというのが実態です。

 もし国民から保険料を徴収しながら、それにこたえるサービス提供の体制がとれないとしたら、これは保険としてはまったく成り立たないわけで、国として取り返しのつかない誤りをおかすことになります。

 私たちは、いま緊急に重要なこととして、次の四つの点の実行をもとめたいと思っています。

 第一 実態の全国調査

 第一は、実態の全国調査です。政府が介護と保険の準備状況の問題点についてただちに調査をおこない、国民に責任ある説明をおこなうこと。少なくともいまのやり方を強行したら「認定はずし」になる人がどれくらい生まれるか、またどれくらいの介護体制がとれるか、そういうことを市町村ごとにとらえた全国調査が緊急に必要です。このことを政府に要求すると同時に、政府待ちにならないで自主的に実態を調査する住民の運動もよびかけたいと思います。

 第二 要求にこたえる是正の措置

 第二は、是正の措置です。基盤の整備を促進するために新たな助成措置をとることをふくめ積極策をとる。また整備目標そのものが低いわけですから、目標も介護の要求にあわせて引き上げをはかる。また低所得者への減免、保険料の全体的な引き下げ、認定のしくみの改革などいまあきらかになっている問題点について、最低限必要な制度改定をおこなう。こういう是正の措置の実現です。

 第三 保険料の徴収延期

 第三は、保険料の徴収延期です。保険料の徴収は、一定の介護サービスを提供できる基盤ができ、制度の問題点の改革ができるまで延期すること。

 第四 サービス提供の過渡的措置

 第四が、サービス提供の過渡的措置です。保険料の徴収を延期する期間の介護サービスの提供とその負担の問題については、現状より後退させないこと――つまり低所得者を排除しないなどの問題です――を前提として、過渡的な措置を講じること。

 この問題では、中央委員会総会の後、この四つの方向をふまえてのまとまった提案をおこなうつもりですが、こういう緊急措置は、十カ月後の介護保険実施を前にしてほんとうに緊急にもとめられているものであります。

 この問題では、多くの党が問題点をとらえての発言や提案をいろいろおこなっていますから、私たちも政党間の協力を重視し、国民の要望にこたえる積極的で有効な問題の解決をはかりたいと思います。

(3)経済・財政政策の転換のための闘争

 こういうことをやるためにも、経済財政政策を根本的に転換する、以前からのたたかいが、いよいよ大事になってきています。

 ゼネコン政治を断ちきり、国と地方の財政を過大な「公共事業」負担から解放することは、国民生活と社会保障の充実のためにも、財政再建のためにも、環境保護など国土保全の利益のためにも、いまや放置を許されない急務となっています。私たちはそういう立場から、経済財政政策の根本的転換のための闘争を、国政でも地方政治でも、いっそう強化するつもりであります。

総選挙での躍進をめざして

 第四の主題は総選挙の躍進をめざす方針です。

(1)総選挙を前にした政治情勢――自自公連合と野党情勢

 まず、総選挙を前にした政治情勢ですが、二つの角度が大事だと思います。

 自自公の反動体制に審判をくだす――総選挙の最大の争点

 一方では、自民党政治と「自自公」連合の成立という問題があります。ガイドライン法=戦争法の成立、「地方分権」の名による地方自治統制法や盗聴法など、反動諸法案の推進・成立にはたした「自自公」連合の反動的な役割は、あまりにも明りょうであります。

 そして、私がここでとくに強調したいのは、この「自自公」連合による多数派というものの役割は、自民党が絶対多数だった時代よりもさらに悪質だということであります。

 だいたいここでは、連合が反動政治のブレーキにはさらさらならず、反動化をいっそうむきだしなかたちでおしすすめる推進力の役割をはたしています。そして、実際には、国会審議が、与党のあいだの協議をもっておきかえられ、密室的な独断政治、国会審議の形がい化という傾向がますますつよまっています。

 自民党が絶対多数だった時代に、自民党の派閥間の相談をもって、国会の審議にかえるという無法なことは、あの時代でも、自民党はやりませんでした。ところがいまは、与党三党のあいだで協議がすすみ、話がまとまれば、それこそ”数は力”で、なんでもやれる。そういう事態がすすんでいて、各方面から議会政治にたいする危機感が非常につよい声としてあげられているのが実態です。

 この反動政治、反動体制に審判をくだすということに、こんどの選挙戦の最大の争点の一つがあります。

 日本共産党の躍進こそ自民党政治と対決できる野党戦線をきずくカギ

 もう一つの角度は、これにたいする野党情勢はどうかという問題であります。

 昨年の参議院選挙以降の一年足らずのあいだに、日本の政治のうえで、国民の根本利害にかかわる大きな問題が三つありました。

 一つは、不況打開と消費税減税の問題です。ここでは、日本共産党と参議院の小会派との共闘ができた以外は、他党はこの問題をとりあげず、野党としての声は、ほかにはだれもあげませんでした。

 もう一つは、銀行への国民の税金の投入の問題です。この問題で、私たちはこれに反対する立場をつらぬきましたが、民主党をはじめ、わが党以外のすべての主要政党が、税金投入路線にとりこまれて、これが強行されました。

 三番目は、ガイドラインの問題です。この点では、社民党とのあいだに限定的ではありますが、一定の共闘的な行動がおこなわれました。民主党は、周辺事態法には反対しましたが、それ以上の反対行動にはでませんでした。

 この間、盗聴法案反対で、民主、共産、社民三党の一定の共闘がすすめられたことは、こんごのなりゆきにとっても重要な意味をもちますが、いまあげた三つの大きな問題では、野党の役割が問われながら、野党戦線といえるような戦線をきずけないまま事態がすすみました。

 このことは、昨年参議院選挙以降の政治情勢の推移の大変重要な特徴であります。

 こういう情勢のなかで、政権の状況と野党の状況との両方の角度から、日本共産党の躍進こそが自民党政治と対決できる野党戦線をきずくカギであることは、いよいよあきらかになってきました。

 第二十一回党大会の決議が、日本の政治対決の主軸と位置づけた「自共対決」の今日的なあらわれが、いまここにあります。

 大会では、民主連合政府に接近する第一段階の目標として、「衆議院百議席以上、参議院数十議席」という目標を提起しました。昨年の参議院選挙の躍進につづいて、衆議院選挙でこの第一段階の目標にどれだけ迫れるかが、二十一世紀にむかう国政の流れを左右する、この立場、覚悟で、選挙戦にのぞみたいと思います。

(2)選挙戦の目標

 次に、選挙戦の目標ですが、前回の総選挙以来の三年間の情勢の変動のなかで、より大きな躍進の条件が成長し、発展しつつあります。

 比例選挙の得票をみますと、九六年衆議院選挙では七百二十六万票、得票率一三・一%でしたが、九八年参議院選挙では、それが八百二十万票、一四・六%に躍進しました。それは総選挙での新たな躍進への条件の一つをしめすものであります。

 もちろんどんな選挙でも、わが党にとって自然成長的な躍進はありえません。どんな有利な情勢も、正確な方針、政策をもっての全力をあげた奮闘をつうじてこそ、躍進の成果に実る。この鉄則を肝に銘じ、「比例を軸に」政党選択を争うという九六年総選挙、九八年参院選でためされた基本方針を堅持しながら、あらゆる可能性をとらえて躍進を実現したいと思います。

 具体的な目標としては、

 第一に、有権者比の得票目標の大幅な突破をめざします。

 第二に、すべての比例ブロックで前回を可能なかぎり上回る議席増をめざします。

 第三に、小選挙区では、全区立候補の方針をつらぬき、各県で重点区を設定して、大胆に議席に挑戦することとします。

 挑戦をきめた以上は開拓者精神を発揮して、おおいに積極的に議席の獲得をめざしてたたかうことが重要であります。

 そして、その他の選挙区でも積極的な闘争がもとめられます。そのつみかさねこそがつぎの躍進を準備するからであります。

(3)選挙戦でなにを訴えるか――わが党の「日本改革論」と日本共産党の全体像を有権者に語る

 選挙戦で何を訴えるかという点では、二十一世紀を前にした、おそらく最後の国政選挙であります。わが党は、国政上のあらゆる問題で、国民の立場で問題を解決する積極案を提示してたたかっていますが、その根底には、私たちの「日本改革論」があります。こんどの選挙戦でも、先ほど報告した平和の問題、雇用の問題、介護保険の問題などをふくめた当面の課題とともに、日本共産党の「日本改革論」の全体像、日本共産党とはどういう党なのかの全体像を、党員、後援会員がよくつかみ、全有権者を対象に語りつくすことが大事であります。その活動が、われわれの活動のいろんな側面に触れ、また、われわれの政策のいろんな提起に触れてひろがっている共感や信頼を、より全面的でより本格的なものに発展させる力となります。

(4)選挙戦の指導体制について

 なお、選挙戦の指導体制の問題ですけれども、比例代表と小選挙区をあわせてたたかうという場合、小選挙区というのは、ただ小選挙区の選挙の舞台であるだけではなく、比例ブロックの選挙をたたかう地域的な基本単位ともなります。このことをとりわけ重視する必要があります。前回の総選挙では、ここでの指導体制を確立するうえで、時間的なたちおくれがありました。国会が解散して、さあ、これから本番だというときに、あわててその体制を整えたという場合が少なくありませんでした。

 その反省と教訓にたって、選挙区単位の指導体制――これは小選挙区だけでなしに、比例選挙もここを地域的な基本単位としてもたたかうわけですから、選挙戦全体の指導体制になります――その指導体制をただちに確立することにします。

 ただ、小選挙区の区分というのはある場合には行政区を断ち割ってつくられたり、人為的な線引きが非常にありますから、現在ある地区委員会との地域的な関係は、選挙区によってまちまちです。そのまちまちの状況をよく見極めながら、どういう体制をとるのが実情において的確なのかということをよく研究し、具体化する必要があります。

 党活動全体の指導は、基本指導は地区委員会がにない、選挙戦独自の一定の課題、とくに選挙区で政治戦をたたかうことについては、選挙区の指導部が責任をおうというのが基本であります。しかし、いろいろな複雑な状況を考えて、とくに必要な場合には、総選挙が終わるまでの適当な時期までの臨時的な措置として、地区委員会の機能をその選挙区の指導部に移し、ここが党活動全体のこの間の指導責任をおうという体制をとる場合もありうると思います。この点は、中央も相談に応じますから、各県や各地区の事情に応じて、早急な具体化を図りたいと思います。

「総選挙をめざす党躍進の大運動」を提唱する

 つづいて、総選挙をめざす党躍進の大運動の提唱に移ります。

(1)党の発展の現在の到達点と「大運動」の意義

 まず、現在のわが党の組織的な発展段階といいますか、到達点をよく分析する必要があります。いくつかの側面があります。

 党の政治的影響力のひろがりに党勢の立ち遅れ――減退傾向をぬけだせない機関紙

 選挙ごとに新しい党支持者の人たちが増大しています。この流れは過去最高のひろがりになっているし、そのひろがりの度合いもきわめて歴史的なものです。私たちは、二十一世紀の早い時期に民主連合政府の樹立を可能にするところまで、この流れを成長発展させることを、われわれの自覚的な展望にしなければなりません。そして、そのことを実現できる客観的条件は、あきらかに存在しています。

 その半面、党支持者や党の政治的影響力のひろがりにたいする党勢のたちおくれがいちじるしいことを、重大な問題としてとりわけ重視する必要があります。

 わが党の組織勢力は、日本の政党の現状と比較すれば、すすんだ地位を占めていることはまちがいありませんが、いまの情勢の発展、また、そこで党がになっている任務と責任からいえば大きくたちおくれています。

 党の機関紙ですが、党への支持と共感がこれだけひろがっているなかで、機関紙が減退傾向をなかなかぬけだせない。党大会で、ここに重大な問題があるということを指摘しましたが、それがまだ解決できていない、これは、この数十年来の党の発展の歴史からいっても特別な状況です。

 党員――若い党員の比率を高める大躍進を

 また、党員の問題があります。ここは機関紙とはちがって増勢にありますが、党員の年齢構成という点でみますと、大変大きな問題を抱えています。

 実際党の世代別の構成を数十年にわたってみてみますと、七〇年代の初頭には二十歳代の党員が五〇%以上を占めており、そこに党の主力がありました。しかし、現状では、三十歳代と四十歳代の党員が四八%を占めて、党の主力となっています。二十歳代までの党員は、これにくらべるとごくわずかでしかありません。これは、全国の各都道府県がほぼ同じ傾向にあります。

 この党員の世代構成の現状には、七〇年代後半から二十年余もつづいた反動・反共攻勢の時期の傷跡が深く刻まれています。とくに、八〇年代後半から九〇年代初めにかけて、なかなか若い新しい世代を党に迎えるのに困難な時期がありましたが、その時期の傷跡がこういう形で残されているのです。

 全党がこの現状を真剣に考え、この分野で躍進への大転換をかちとってこそ、二十一世紀にむかう党の政治的躍進への道を大きくきりひらくことができます。これも現在の党発展にとって深く考えるべき問題です。

 「支部が主役」の活動が全党的な潮流に

 三つ目に、党活動のなかで「支部が主役」の活動が全党的に定着してきていることは、重大な前進的発展です。基礎組織として党支部を重視するというのは、わが党の一貫したよき伝統ですけれども、「支部が主役」という言葉でこのことを強調してきたのは、一九九三年以来のことで、いまやそれが全党的な潮流となっています。

 実際に、各都道府県の組織にきいて、地域、職場、学園に責任をおい、大衆運動にもとりくみながら着実に党勢も増やす、そして自分たちの計画をもって将来の展望を自主的に見通しながら、いわば自前で活動している支部がどれくらいあるかの報告をとってみましたら、そういう支部は全国で約二千七百にのぼることがわかりました。全体で二万六千の支部のうち、その一割をこえる支部がそういう機能をしっかりと自分でつかんでいる。

 地区委員会なみの活動をする支部も

 私もこんどはじめて知ってみせてもらって感心したのですが、そういう支部の同志たちが支部の名刺をつくっています。「あなたの町の日本共産党支部です」といって「支部長何の某」という名刺とか、「こんにちは、みなさんとともに歩む日本共産党です」「何々支部支部長何の某」とかの名刺をもって、住民と話し合う。なかには、支部の「住民運動部長」ですという同志のもありますし、「しんぶん赤旗を読みましょう」「普及員」という名刺の方もいて、この地域に責任をおっている支部ですよということを、支部のいろいろな同志が自分の名刺に体現して活動している。全部の支部で名刺をつくれというわけではありませんけれど、そこには、「支部が主役」の雰囲気が生きいきとあらわれている、大事なことだと思いました。

 また、一つの支部で複数の議員をもっていて議員といっしょになって、自治体の問題にも支部が真剣にとりくむ、選挙から議会活動まで全部とりくんでいるという支部も相当数あります。複数の議員をもっている支部を全国で調べてみたら、二百四十九支部ありました。なかには、三人の議員と一人の町長をもっている兵庫県の南光町支部とか、二人の議員と一人の村長をもっている長野県坂北村支部とか、そういう支部まで生まれているわけです。多いところでは四人の議員をもっているとか、二つの町の二人の議員をもっているとか、そういう支部がどんどん生まれていて、地区委員会なみの活動をしている。こういう支部の代表をあつめて、中央としてもその経験をじっくりきく会議を、やがて計画したいと考えます。

 この間、大衆活動のアンケートを各支部からとり、現在までに約一万六千の支部から中央に報告がよせられています。それをみますと、”自前で”と私が先ほどいった支部は、一割の約二千七百支部ですが、アンケートをよせたどの支部も、そういう発展の可能性、条件をセン在的にはもっているということがしめされていました。ここにも党の発展を考える場合、大事な特徴があります。

 われわれが今回迎えようとしている総選挙は、きわめて重大な歴史的意義をもっており、そのためにも党建設、党活動の新たな発展をかちとることが重要であります。このことは同時に、われわれが二十一世紀における政治の転換を大きく展望している党として、実際にその事業と課題をになうことができる党に前進するうえでも、欠くことのできない任務であります。この二つの意義をしっかりとふまえて、いまこそ党の質量ともの大きな発展のために、集中した努力をそそぐ必要があります。

 その見地から、「総選挙をめざす党躍進の大運動」を、幹部会として中央委員会総会に提起し、全党によびかけたいのであります。

(2)大運動の内容について

 期間

 この大運動の内容ですが、まず期間は本年十二月末までとします。これはわが党が解散・総選挙はその先だと見越しているからではありません。ことしの秋から来年にかけて、そのすべての時期が解散・総選挙の可能性をはらんだ、緊迫した時期です。それだけに、この大運動にとりくむわけですが、大運動の途中で解散・総選挙を迎えた場合には、ただちにこの運動の体制を選挙戦の体制に切り替える、こういうつもりでこの時期を提起するものであります。そして、総選挙が終わりましたら、二十一世紀につながる課題ですから、ひきつづきこの大運動にとりくむという構えです。

 目標

 目標としては、三つの目標をかかげたいと思います。

 第一に、すべての支部が地域、職場、学園の要求をとりあげた大衆運動にとりくむこと。

 第二に、有権者比得票目標の突破をめざし、総選挙での支持拡大の活動をただちに開始すること。

 第三に十二月末までの党員と読者の拡大目標を支部ごとにたて、これを達成すること。目標の設定にあたっては、来年末までに九六年総選挙得票の「一割の党員、五割の読者」をめざすという党大会の決定を頭において、自主目標を決める。

 そのなかで、とくに党員の拡大を党建設の根幹として重視する。その地域、職場、学園での長期の視野をもった活動のためにも、青年党員の拡大に特別な努力をそそぐ。

 これが大運動の三つの目標で、以上の目標を支部で確定ししだい、いま支部がもっている「政策と計画」に取り入れることにしたいと思います。

 運動のすすめ方

 運動のすすめ方ですが、目標を決めるさいにも、運動のすすめ方においても、「支部が主役」という活動に徹することが基本です。

 党機関は、全支部を大運動の活動の軌道にのせるための指導責任をはたす。そしてそのために必要な援助は創意をもっておこないます。

 もちろん、総選挙のためにやるべき課題というのは、大運動の目標とした三つにつきるものではありません。「しんぶん赤旗」号外の全戸配布をふくめ、宣伝活動には何よりも大事な課題としてとりくむ必要があるし、候補者中心の党活動に機関はもちろん各支部が協力することも大事であります。さまざまな課題があります。多面的な仕事をはたすべきことは当然ですが、そのなかで大運動独自の目標として各支部がにぎってはなさない重点的な課題・活動として、この三つの目標を推進してゆきたい。

 これが大運動を提起するあらましであります。

(3)目標の設定――支部の目標を自主的にきめる

 つぎに、各論的にいくつかのべますが、まず目標の設定です。

 大運動にとりくむにあたって、まず力をそそぐべき第一の眼目は、支部の自主目標の設定にあります。すべての支部で四中総決定の討議をおこない、そのなかでその地域・職場・学園にどのような党をつくるか、きたるべき総選挙で党の躍進のためにどういう力を発揮するか、こういう問題を支部としてよく討議し、その討議にもとづいて支部自身の目標を自主的に決める。これが出発点です。

 この問題での党機関の役目は、この討議をすべての支部がおこない、大運動の目標を自主的に決めるよう援助し、指導するところにあります。

 これまでも目標は支部が自主的に決定するということは、どんな月間の場合でも強調してきました。しかし、そのときには、まず中央委員会で全国的にどれだけの目標にするかということの目標をあらまし決め、それに応じて各県が多少それを上回ったり下回ったりする形で県の目標を決める、また、それをみて地区が目標を決めるということがあり、実際に支部で決めるときには大枠がだいたい決まっていて、なかなか自主目標にならないという問題がありました。

 こんどは、党勢の拡大について、県あるいは地区で先にそのレベルでの全体目標を決め、事実上それを支部に割り当てるというやり方はいっさいとらない。基本的には支部で自主的に決めた目標の合計がその地区の目標になる。またその地区の合計が県の目標になる。その四十七都道府県の合計が全国目標となる。あとでいいますが、党員拡大など、機関独自に責任をおう目標をプラスするという問題ももちろんありますが、そういうやり方で、最初の目標の設定から「支部が主役」を徹底するというところに、この運動の出発点の基礎をすえたいと思います。

(4)大衆運動の目標

 つぎに、大衆運動の目標ですが、支部アンケートは、多くの支部が現にさまざまな分野の大衆活動、大衆運動にとりくんでいることをはっきりしめしました。支部としてその活動にいちだんと意識的に目をむけ、それをさらに発展させる。これをやりながら、どの支部でも、少なくとも一つは地域や職場の人びとの利益をまもり、要求を実現する活動にとりくむようにする。これを大運動で目標にし、なにがそういう課題になるのかということを支部でよく討議することが大切です。

 地域・職場・学園で現におきている多様な大衆運動への参加を

 各地方の活動をみましても、「支部が主役」の活動を本格的にはたしている先進的な支部に共通している一つの特徴は、大衆の利益をまもる活動に支部としてとりくんでいることです。

 この教訓をもっと全体にひろげたいと思いますが、その運動の形態も当然多様になります。地域・職場で現におきているさまざまな運動に参加することが大事です。支部として独自の運動をおこす、こういうことも当然おこってくるでしょう。

 職場でも地域でも要求は無数です。一つの支部で要求のすべてをとりあげることはもちろんできませんが、一つひとつの支部は一つあるいはいくつかの要求しかとりあげられなくとも、全国二万六千の支部の全体をみれば、国民の多様な要求が総体としてとりあげられている、こういう発展が大切だと思います。

 革新懇運動の経験もそうでしたが、毎年一回総会をやります。地域・職場の革新懇の数はわが党の支部の数にくらべればはるかに少ないのですが、地域・職場の革新懇があつまって私たちの地域ではこういう運動をやっていますということをこもごも報告しあうと、だいたい日本社会のそして日本国民のほとんどすべての要求が革新懇運動にとりあげられていることがわかります。党は二万六千の支部をもっているわけですから、これをもっと大きな規模でできるわけで、大衆要求をとらえてのそういう大きな運動を全国的にすすめたい。そのなかでもいっせい地方選挙での公約を実践する活動は大事であります。

(5)支持拡大の活動をただちに

 つぎに、二番目の目標にした支持拡大の活動ですが、これは活動の中身そのものにはさして複雑なことはありません。ただ、いままでの選挙戦をふりかえりますと、支持拡大の活動にとりかかるのがいつもおくれるというところに、ある意味では全国共通の悩みがありました。選挙戦が迫ってそのたちおくれをどうやって取り戻すかということにいつも頭を痛めたものです。今回の総選挙にむかっては、そういう反省をふくめて、いまただちに総選挙での日本共産党支持、候補者が決まっているところは候補者支持の活動にただちにとりかかる。いっせい地方選挙の選挙戦をやったばかりですから、そこでえた対話の記録、結びつきの記録など支部、党機関にあるさまざまな財産を活用し、名簿や台帳の整理のおくれているところはすぐその整理をはじめて、この分野でも有権者比得票目標の突破をめざして大きな成果があがるよう、ただちに活動をはじめることを強調したいと思います。

(6)党員の拡大

 つぎに、党勢の拡大、まず党員拡大についてです。

 文字どおり党建設の根幹をなす課題として

 第二十一回党大会では、党建設の重点的な努力方向を六つあげましたが、その一つとして「後継者問題」を重視して強調しました。これは党機関だけの問題、幹部活動家だけの問題ではありません。大会報告では、「党全体としていえば、前大会で強調したように、青年層を大きく党に迎えいれること、民主青年同盟の発展を援助することが、後継者問題を解決するもっとも大局的でもっとも重要な課題であります。中央でも地方でもそのとりくみをさらに一段と強化したいと思います」とのべました。

 この課題を実現することに、二十一世紀を展望しての、文字どおり「党建設の根幹」をなす課題があることを強調したいと思います。

 すべての支部がこんどの大運動のなかで新入党者を迎えることを重視し、この点で真剣な指導をおこないたいと思います。選挙戦のなかでも、青年層のあいだでの支持のひろがりや青年の活躍がめだったという地方は少なからずありました。そういう活動経験をふまえ党のあらゆる経験と知恵を結集してこの課題での前進をはかる必要があります。支部でも地区でも都道府県でも十分討議してしっかりと足をふみだすことが大切です。

 青年を党に迎えいれることに、特別の努力を

 そして新たに提起したい問題ですけれども、青年党員を党に迎えいれた場合、その世代の特徴に応じた活動を発展させるために、地域・職場でも、青年独自の支部をつくるという組織形態も、条件に応じて具体化してゆきたいと思います。

 きのうの幹部会でもだされた話ですが、青年は、たとえば、携帯電話のネットワークがおたがいのつながりのいちばんの舞台になっているなどの、この世代独特のつながりや気分や活動の中身をもっている、それにふさわしい形での対応をはかることが、この分野で思いきった前進をはかる上で重要だという意見がだされました。同世代の気持ちや意識、感情、青年独特のつながりを発展の力にする配慮が大事であって、青年党員の拡大に青年自身が先頭に立つという状況をつくりだすように全力をあげたいと思います。

 また、もう一つの新しい問題としては、新しい地域・職場・学園で党員を増やし、支部をつくる活動は、その地域・職場・学園と関係の深い支部も当然その任務をになうが、中心的には党機関に属する課題だということを、重視したいと思います。青年層の場合にも、いま青年世代でのわが党の組織は弱いわけですから、この広大な、組織的には未開拓な部分にわが党が活動をのばし、新たな同志たちを迎えいれてゆくという場合、現に青年のあいだで活動している党員の力だけではなく、そこに積極的にはたらきかける党機関の役割が大事であります。新しい分野に開拓者精神を発揮して党をつくってゆくときには、党機関がみずからその先頭にたち、その経験と成果で全党をはげます、こういう党機関独自の役目を、私たちはおおいに深く考えたいと思っています。そして、創意性をおおいに発揮し、活動の内容と実績で、機関自身が全党の先頭にたつように、努力をしたいと思います。

(7)機関紙読者の拡大

 つぎに、機関紙読者の問題です。私たちは「機関紙中心の党活動」を方針にして、四十年余り活動してきましたが、先ほどいいました機関紙をめぐる現在の状況は、きわめて独特の特徴をもったものです。党大会で分析したように、党の影響力が大きくひろがっているのに、機関紙読者のほうは、ジグザグはあるものの、全体としてはゆるやかな漸減という傾向からぬけだせないでいます。大運動のなかでこの現状をどうしても打開して、機関紙読者の拡大というレールに全党の活動をのせる必要があります。

 ごく一部ですが、「機関紙が増えなくとも得票が増えればいいじゃないか」と、この現状に安住するといいますか、自嘲(じちょう)といいますか、そういう傾向もでていますが、それはまったくまちがった考えです。じっさいにこんどの選挙戦でも、非常に難しい局面になったときに、機関紙読者にたよって突破したという経験は、各地で報告されています。

 さらに根本的にいえば、いま一定の躍進をとげているといっても、党は国政でも、地方政治でも、議席と得票の現状に安住するものでは、決してありません。党大会では、先ほど話したように、民主的政府の樹立にいたる「当面の目標、第一段階の目標」として、「衆議院に百をこえる議席、参議院に数十の議席をもち、国会の力関係のうえでも自民党と正面から対決できる力量をきずきあげること」を、全党の目標として決定しました。この目標に到達するには、党の躍進のさらに連続的なつみかさねが必要であります。

 そのことを展望するなら、党への支持と共感をさらに思いきってひろげるために努力し、奮闘しながら、そのなかで、「しんぶん赤旗」を定期的に読んでもらい、党支部とも日常の接触や交流をもち、日常活動をつうじても党の全体像をわかってもらっている、そういう堅い党支持者がどれだけひろがるかが、決定的な意味をもってきます。この党支持層のひろがりなしに、社会の一般的風向きだけで、政治の力関係を変えるような党の大躍進を生みだすことはできません。

 しかも、その一方では、最近の活動のなかで、これまで、「しんぶん赤旗」に触れる機会がなかった広範な人びとの目に「しんぶん赤旗」が触れ、新鮮に映ってきていることも、重要であります。先ほどいいましたように、私たちは、「日の丸・君が代」問題では、「しんぶん赤旗」の号外を四千百四十四万枚、さらに、ガイドライン・戦争法の問題では三千三百三十六万枚を配布し、全国に非常に大きな反響をひきおこしました。これをみて、「しんぶん赤旗」の存在を初めて知ったという声、これで初めてそういう議論に触れた、物の見方、考え方に触れたという声がひろがっていることは大事であります。

 それらのことを真剣に考えて、「しんぶん赤旗」の読者の拡大、読者との日常的な交流にいっそう力をそそぎ、支部が担当する地域、職場で広範な支持者との結びつきの網の目をひろげ、「しんぶん赤旗」読者のひとまわりもふたまわりも広い拡大を実現してゆくことが、大事であります。

 「しんぶん赤旗」の魅力と値打ちの発揮へ努力つくす

 いま、日本の社会で、「しんぶん赤旗」がもつ意義は、いよいよ鮮明です。多くの問題で、一般マスコミがはたしえないけれども日本社会にとっては不可欠だという役割を、「しんぶん赤旗」はになっています。最近もある有力な知識人が、ガイドライン法とユーゴスラビア問題の二つをあげて、いま、一般のマスコミは、世界と日本の重大問題について、批判精神がほんとうに衰えている、そのなかで、「しんぶん赤旗」だけが、的確な報道、解説、分析をおこなっているといって、おおいに、評価と共感の言葉をよせてくれました。

 実際にマスコミにたいする、政府側の抑え込みの傾向が非常に顕著になっているだけに、政治の真実をとらえた国民世論を起こしてゆくためには、「しんぶん赤旗」の読者を国民のあいだに大きくひろげることが、今日、特別な意味をもってきています。

 私たちは、「しんぶん赤旗」の紙面について、現状に安住するつもりは少しもありません。「しんぶん赤旗」をさらに多くの人びとに読んでもらうには、この新聞が日本の現状と前途、世界の状況を考え心配する人びとにとってほんとうに魅力もあれば値打ちもある新聞になるように、紙面を改革する不断の努力が必要です。党中央として、編集局と協力しながら、さらに、その努力をつくすつもりであります。

 同時に、全党の同志のみなさんにも訴えたいのですが、党員自身が「しんぶん赤旗」を日常よく読み、その魅力と値打ちを自分のものとすると同時に、紙面の改善のために、これが必要だと思うことは、積極的に編集局に読者の声として提案してほしいと思います。そういう全党の努力で、より魅力ある、より豊かな「しんぶん赤旗」を実現してゆきたいと思います。

 配達・集金の体制の再確立

 この問題の最後にのべたいのは、「しんぶん赤旗」が今日の発展をかちとってくるうえで、強固なささえとなってきたのが、配達・集金の全国的な体制だという問題です。いろんな国から日本を訪問する政党の代表たちが、この新聞の配達の組織をみるとだれでも舌を巻いて感心します。この配達・集金網の組織に成功しなかったら「しんぶん赤旗」のこういう発展はありえなかったということは、明りょうです。そしてそれが全国の同志たちや協力者の毎日毎日の努力と苦闘にささえられています。こういう「日常的な英雄主義」がいちばん困難だといって、その役割を強調したこともありますが、私たちはこの活動をになう同志たちの努力にあらためて敬意を表するものであります。そして、新しい段階で「しんぶん赤旗」の発展をかちとるためにも、配達・集金体制の再確立という問題は大変重要です。党大会では、とくにこの問題に目をむけて「配達・集金をはじめとする『しんぶん赤旗』の体制――『しんぶん赤旗』を数百万の規模で発行し、維持・拡大するという体制を、党発展の今日の新しい段階にふさわしく、支部を基礎にして強化するという問題」をくわしく提起しました。

 「”機関紙革命”というよび声でこの面で大きな改革をやってから、かなりの時日がたちます。現在党の地方議員や機関幹部の過重負担がなかなか解決されないとか、支部が地域や職場の読者と日常的に結びつき、配達や集金もしっかりつかむという問題が不徹底になるとか、いろいろな問題が惰性に流されて解決されないまま、先送りになっているという状況もあります。思いきって配達・集金をふくめた機関紙活動の体制の立て直しに新鮮な気持ちで緊急にとりくみ、初心にたちかえって今日の情勢にふさわしい機関紙活動の体制づくりを本格的にすすめることが、いま非常に大事になっていると思います」

 こういう提起を、第二十一回党大会でおこないました。率直にいってこの課題は、全体としてまだ未解決のまま残されています。そしてこの問題を解決するということと、党員の拡大、若い力を大胆に大きく迎えいれるという課題の解決が不可分だということも明りょうであります。そこにも目をしっかりむけて機関紙問題の発展的な前進をかちとりたいと思います。

(8)大運動をどうすすめるか

 大運動のしめくくりに、これをどう推進するかという問題について総括的にのべます。この運動の成功のかなめは「支部が主役」という活動方向をどうつらぬくかという点にあります。大会決定は、さきほど紹介した党建設の重点方向の部分で「党の内部生活では、『支部が主役』をつらぬく」ということを大きく位置づけました。

 そしてこの運動のなかで、この点を全党が日常の活動にしっかり具体化していくこと、つぎの諸点を重視することが大切であります。

 ――すべての支部が四中総決定をよく身につけ、大運動の意味をみずからのものとし、運動の目標を自主的に決定するように、支部の政治討議を重視する。

 ――すべての党員が支部活動に参加し、学びあい励ましあう活動の体制を確立するために、支部会議の週一回の開催、支部指導部の確立、連絡体制の整備など、支部活動を軌道に乗せること。問題をかかえて援助が必要な支部には、党機関が率先してそれに応じることなど、状況をよくつかんだ指導と援助をおこなうこと。

 ――党員の活動を画一的にせず、すべての党員が自分の条件や得手、活動上の特徴を生かして活動できるよう、党員の成長にも十分配慮しながら、運動をすすめること。そして大運動に参加しないまま残ったという党員を一人も残さない努力が重要です。

 ――支部の活動を援助するため、党機関の側からの、条件にかなった援助が重要です。大衆活動についても、要求をとらえての党機関自身の政治活動、大衆活動の展開が必要ですし、運動の交流や経験をたがいに学びあうための「推進ニュース」の発行、交流会議や党内シンポジウムの開催など、おおいに創意を発揮しての各機関の活動に期待したいと思います。

 ――この大運動は総選挙の躍進を準備する大運動ですから、後援会との協力体制を確立し、後援会の活動も発展させながら、力をあわせてすすめることが大切です。

 ――つぎは学習です。とくに四中総決定の読了はあらゆる活動のために重要です。これまで党大会決定の読了を重視する立場から、中央委員会決定の読了は報告をとらないできました。しかし、ことしの九月で前回の大会からまる二年ということになるわけですから、今回は、四中総決定の読了を定期的に報告をとりながら推進したいと思います。党大会決定については、地区党学校など、その普及と徹底のための活動を、党機関が先頭にたって独自に強化することを重視してゆきたいと思います。

 ――こうしてすべての支部が三つの目標で前進的な、また飛躍的な成果をかちとり、全体として、広範な国民との結びつきの面でも、党員と読者の拡大の面でも、支部と党機関の活動体制の確立・強化の面でも、全党的な大きなうねりをつくりだすことが肝要であります。

 この大運動は、その成果が総選挙で躍進をかちとるための政治的・組織的基盤となると同時に、この運動のなかで確立する支部の体制そのもの、また「支部が主役」の立場でこれを援助・指導する党機関の体制そのものが、そのまま、総選挙を全党的にたたかう主体的な条件の確立となるものであります。

 大運動の期間中に県・地区党会議や支部総会が開かれます。この運動の高揚のなかでこれらの会議を迎えるとともに、その会議が大運動の飛躍的な発展をつくりだす場となるようなとりくみを望みたいと思います。

 

 これをもって幹部会の報告を終わりますが、いま私たちが迎えている時期は、日本の歴史にとってもわが党の歴史にとっても大変重大な局面であります。二十世紀の最後の局面であると同時に、二十一世紀の日本の未来につながる飛躍を準備する歴史的な時期でもあります。その歴史的な情勢にふさわしい成果を、大運動のとりくみのなかでかならずかちとり、きたるべき総選挙では、国民の大きな期待にこたえるだけのすばらしい躍進をかちとる、そのために中央委員会が全党の先頭にたって奮闘することをねがって、報告を終わるものであります。


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