2004年5月16日「しんぶん赤旗」
5月14日開かれた日本共産党全国都道府県委員長会議での不破哲三議長の発言(大要)は次のとおりです。
連日の奮闘、ご苦労さまです。いま、市田書記局長から、情勢と活動の全般について報告・提起がありましたが、私は一点にしぼって補足的な発言をおこないたいと思います。
それは、いま政界に吹き荒れている国会議員の年金未納問題について、これをどうとらえ、問題をどう解明し、国民になにを訴えてゆくか、という問題です。
まず最初に、問題の性格をよくつかむことが大事です。
私たちは、各党にさきがけて、国会議員になって以後の期間について全議員の状況調査をやり、五月六日、二十九人の国会議員のなかで、二十八人が保険料を全部おさめていたこと、吉井衆院議員が国民年金未加入だったことを、発表しました。
その発表が全国に及ぼした影響は大変なものでした。私たちは、各都道府県からの報告とあわせて、党本部に直接寄せられる電話やファクスで状況をつかむのですが、批判と怒りの声は、社会的道義をめぐる昨年の事件に匹敵するものがありました。党員や支持者からの声には、“参議院選挙にむけてがんばって、流れをつくりだしてきたのに、またそれが挫折させられるのか”という不安、怒り、批判がみなぎっていました。
それらの声は当然のものです。ただ、ここで一つ述べておきたいのは、今回の問題は、社会的道義にかかわる問題とは性格が違うものだ、ということです。年金の未納者は、私たちが以前から数字をあげてきたように、全国で一千万人をこえる規模で存在しています。生活の困難から払えない人もいれば、制度の不備から知らない間に未加入・未納になっている人もいる。取り立てる側からいえば、一律にこれはけしからんということになるかもしれませんが、これは、社会的道義の問題ではないのです。
ですから、私たちは、この問題が起こったときに、国の年金制度そのものを決める立場にある国会議員の責任の問題として、これをとらえてきました。私たちの調査も、個々の議員のこれまでの全経歴を調べるというやり方ではなく、国会議員という責任ある立場に立って以後の期間に限定して、おこなったものでした。
ここでつけくわえておきますと、マスコミの場合には、それぞれの基準をたててアンケートをとっていますが、その後調査をおこない、その結果を発表した他の政党──社民党、公明党、民主党──は、すべて私たちと同じ基準で未納議員を公表しています。こうした経過は、一般の国民と国政に責任をもつ者とを区別するという意味で、私たちがとった調査のやり方に客観性があったことを、証明するものだと言えるでしょう。
問題のこういう性格をふまえた上で、国会議員の年金未納問題をめぐって、日本の政治の何が明らかになったのかをきちんととらえ、そのことを、新しい政治の流れを切り開く力にする態度が、いまなによりも必要だと思います。
だいたい、国会議員の年金未納問題は、国会審議の過程で、私たちも予期しない形でにわかに起こってきた問題でした。これは、議員一人ひとりのいわば日常の実務に属することですから、保険料を納入しているかいないかということを、党の指導部や国会議員団として意識的に点検してきたものではなかったのです。しかし、こういう形であらためて問われてみれば、これが、年金制度について国民を代表して議論し決定する立場にある議員として、その責任がとわれる重大な性格をもっていることは、明らかでした。
そういう経過で、すべての政党が、“不意打ち”でこの問題に取り組まざるをえなくなったのだし、その角度から、その党あるいは議員団の実態や取り組みの姿勢が、国民的に点検される、という結果になったというのが、現状だったと思います。
私たちは、“不意打ち”されたという点では、他党と同じでしたが、誠実に真実を調査する、そして調査の結果は、国民の前に誠実に明らかにする、こういう態度で対応しました。
すべての政党にたいする国民的な点検の結果として、何が明らかになったでしょうか。
日本共産党の議員団に一人の未納者がいたことが明らかになりました。はじめに言いましたように、そこから、一部には、今後の党活動にたいする悲観的な見方や消極的な気分が出ているようです。しかし、大事なことは、未納者が一人出たということだけを見て悲観するのではなく、全政党にたいする点検の結果がどうだったかを冷静にとらえ、事実をしっかり踏まえて、問題に積極的に対応することです。
実際、点検の結果は、この問題でも、私たちが、「これが日本共産党の姿だ」ということを大いに国民に語り、積極的に打って出ることができるだけの十分な材料を与えているのです。
この点で、点検の内容として、三つの角度をとりあげたいと思います。
第一は、日本共産党の国会議員団が、自主的な調査をおこない、その結果をすべて国民に公開するという点で、全政党の先頭に立ったことです。
私たちは、五月六日に全議員の調査を終えて、その結果を公開しました。未納の公表の基準はさきほど述べたとおりですが、マスコミとの関係では、各議員が、国会議員になる以前の時期の問題でも、アンケートがあれば、事実を隠すことなくすべての経過を回答し、その内容を公表しました。
他の党はどうだったか、と言いますと、民主党は四月二十八日に「次の内閣」のメンバーに限定して、納入・未納の状況を公表しましたが、そのあとの全議員の公表については、最初は「自民党と同時公表」という条件をつけました。しかし、日本共産党が発表するし、世論も高まる、個別に未納だったと発表する議員も出てくるというなかで、ようやく昨日の五月十三日に全議員の公表をしました。
社民党は、わが党より四日おくれて、五月十日、全議員の公表をしました。
与党の自民党はどうか。四月二十三日、三閣僚の未納問題がまず表に出ました。この時、坂口厚生労働相は、閣僚全員についての調査と公表を約束したのですが、引き延ばしを重ね、四月二十八日、衆院での委員会採決を強行したあとになって、福田官房長官をふくむ四閣僚が未納という事実を発表しました。しかし、全議員の調査と発表については、いまだに約束せず、逆に昨日(五月十三日)の時点でも、「公表しない」態度をあらためて確認・発表しています。そして、ある新聞によりますと、自民党の三百六十人の議員のうち、マスコミの調査にも応じないで沈黙を守っているものが、七十四人いるとのことです(「毎日」5・14付)。
もう一つの与党である公明党は、全議員の調査結果を、ようやく五月十二日に公表しました。これは、本会議で採決がおこなわれ、年金改悪案が参議院にまわされたあとでの発表です。
このように、この問題にたいする各党の対応を見ると、国民に誠実に事実を明らかにするという面で、わが党がいかに先頭に立ってきたか、この問題でいかにきわだった明確な態度をとってきたかが、浮き彫りになると思います。
第二は、現在までに公表された未納の実態の問題です。この面でも、日本共産党が、健全性の度合いのもっとも高い政党であることが、事実で示されました。このことを見るには、各党の国会議員全体のなかで未納議員がどれだけの比率を占めているかという問題と、党の中心幹部がどれだけそこに含まれているかという問題、この二つの角度からの吟味が重要です。
けさの東京新聞に、未納議員の比率の一覧表が出ていました。(5・14付)
そのうち、自民党だけは「?」となっています。計算してみると、自民党議員の未納者は、個々に明らかになった分だけでも六十一人にのぼっています。率を出すには、公表に応じない人は省かなければなりませんから、全議員数三百六十人から公表拒否の七十四人を引いた二百八十六人にたいする未納者の比率を計算しなければなりません。そうすると、21・3%という比率が出てきます。これでも、政党全体のなかでトップクラスの数字ですが、全員公開ということになれば、その数字がもっと高まるというのは、ごく常識的な見方でしょう。
全議員の調査結果を公表した政党についての数字では、東京新聞の一覧表は正確でした。トップは公明党。議員五十七人のうち未納者は十四人で、比率は24・6%。次は民主党で、議員二百四十四人のうち未納者は三十三人、比率は13・5%。社民党がそれに続き、議員十一人のうち未納者は一人で、比率は9・1%。日本共産党は、議員二十九人のうち、未納者は一人で、比率は3・4%、全政党のなかで最下位の水準です。
次に、中心幹部が未納者に含まれているかどうかを見ます。
日本共産党の場合には、八六年に義務的加入の制度ができて以後の全期間をさかのぼって調べても、議長、委員長、書記局長など党を代表する国会議員で国民年金未納の時期があったという者は、一人もいません。
しかし、他党の状況は違っています。自民党の未納者のなかには、元首相(橋本龍太郎氏)もいれば元幹事長(加藤紘一氏)もいます。政府関係でいえば、福田前官房長官も含め、七人の現職閣僚にくわえて元閣僚も多数います。民主党も、未納者のなかに、党の代表(菅直人氏)、副代表(横路孝弘氏、石井一氏)、最高顧問(羽田孜元首相)、前代表(鳩山由紀夫氏)もいますし、社民党は、未納の一人が前党首(土井たか子氏)でした。公明党は、「三つぞろえ」といわれるように、現役の三人の中心幹部──代表(神崎武法氏)、幹事長(冬柴鉄三氏)、政調会長(北側一雄氏)がそろって未納でした。この人たちは、未納問題でも他党を非難する先頭に立ち、これまで「自分は完納している」と言い張っていた人びとでした。
各党のこういう実態をみるならば、日本共産党が、残念ながら一人の未納議員がいたとはいえ、健全性の度合いがもっとも高い政党であることは、明白な事実であって、ここに非常に重要な点があります。
第三は、この問題への対応にあたって、国民にたいする誠実さを、どの党がどれだけ示したか、という問題です。
すでに述べたように、日本共産党は国民への誠実さをなによりも重視し、連休があったので調査に少し時間がかかりましたが、いち早く五月六日、全議員についての調査結果を公表しました。
しかし、他党の多くは、党略を第一にして、事実の公開を遅らせたり回避したりしてきました。
民主党にしても、全議員の調査になかなか踏み切らず、自分たちの「次の内閣」のメンバーの調査についても、現内閣との同時発表を条件にし、全議員調査についても、自民党との同時発表を要求するなど、“刺し違え”方式に固執して、結局、公表を大幅に遅らせました。
党略をもっともむきだしにしたのは、二つの与党です。自民党は、閣僚の納入状況の発表を遅らせて、委員会での強行採決をやってのけたあとで、官房長官を含む重要閣僚の未納を発表するというやり方に出ました。国民に真実を示すよりも、悪法の成立強行を優先させるという党略に終始したのです。
公明党にいたっては、未納問題につけこんで「三党合意」に民主党を引き込み、本会議採決で参議院に法案を送り、成立の見通しをつけた時点で、ようやく三役の未納をふくむ調査結果を公表するという最悪の態度でした。あまりのことに、マスコミでも、“もっともずるがしこい政党”というレッテルが張られ、またどのテレビ局も、“公明の三役が未納”というニュースを報道するたびに、昨年総選挙のさいの“イカンザキ”という例のコマーシャルがくりかえし流されました。このあたりにも、公明党の党略ぶりとずるさにたいする痛烈な批判が出ていました。
民主党の党略も、たいへん醜いものでした。菅代表がヨーロッパの外遊先から急きょ帰ってきて、「三党合意」を推進しました。そこには、自民党との密室協議で、ともかく“一元化で一本とった”という実績をつくり、それを、自分の未納問題での窮地脱出の手段にしようという思惑が見え見えでした。しかし、“一本とった”となるどころか、「三党合意」は自民党にすりよって悪法の成立を助ける裏切りだということは、すぐ明らかになり、自分の首をしめる結果に終わりました。
「三党合意」は、このように、三つの党の党略の合作が生み出したものにほかならず、国民から国会の責任が問われているまさにそのときに、その根本をごまかして、年金大改悪の成立に道を開こうとする策謀でした。これにくわわった政党は、国民の思いにあからさまに背を向けたものであって、絶対に許されるものではありません。
以上が、年金未納問題をめぐる国民的な点検のなかで、明らかになった三つの点です。日本共産党が、一人の未納議員をだしたことは残念なことであり、国民にたいして党としての反省を明確にしなければなりませんが、この国民的点検のなかで、日本共産党ならではの姿勢と役割は、きわだって鮮明になっています。みなさんが、そのことをしっかりとつかみ、日本共産党のこの姿を、国民のあいだで大胆に、自信をもって語っていただきたいと思います。
国民に真実をかくし続ける自民・公明の態度は、未納問題だけのことではありません。それは、今度の年金大改悪の計画の全体にかかわる、彼らの姿勢の全体をつらぬくものです。
この点では、市田報告で指摘した、政府の年金改悪案における二つの新たなごまかし──五月十二日の参院本会議で、小池議員の追及で明らかになった問題です──が、非常に重要な意味をもっています。
政府の年金改悪案は、公明党が「百年安心」といって大宣伝したものですが、この宣伝には、二つの看板がありました。
第一の看板は、国民がおさめる保険料は、これから上がってゆくが、「上限」がきちっと固定しているから安心しなさい、という看板。
第二の看板は、年金の給付は現行よりは下がってゆくが、現役世代の50%は確保するから安心しなさい 、という看板です 。
この二枚の看板を大宣伝して、当面は苦しくても、政府は国民の百年の安心のために、思い切ったことをやろうとしている、そこを理解してくれ、というのが、政府・自民党・公明党の一体になった宣伝の中身でした。
五月十二日の小池議員の追及は、この二つの看板が、二つながらインチキであったことを事実で明らかにしたものでした。そして、答弁に立った坂口厚生労働相は、政府案の本当の中身が小池議員の追及どおりのものだということを認めてしまったのです。
明らかになった第一の点は、保険料に「上限」があるというのは特別の条件のときだけの話で、社会の賃金水準が上がってゆく場合には、保険料もそれにつれて上がってゆき、その上昇には上限はない、これが政府案の真相だということです。つまり、「百年安心」の第一の看板は大ウソだった、ということです。
第二の点は、年金の給付水準についてです。これまで50%確保というのは、特別の条件をそなえた「モデル世帯」の場合で、条件が違えば50%以下になるということは、国会での追及のなかで、明らかになっていました。ところが、今度の追及で、小池議員は、「モデル世帯」そのものの場合でも、50%確保されるのは、最初の段階だけで、その先になるとパーセントはどんどん下がってゆくということを、示したのです。「50%が確保される」という第二の看板も、偽りの看板でした。
さらに重大なことは、政府・与党が、その看板が偽りであることを承知していながら、その事実を国会からも国民からもかくして、政府案の強行をはかってきたことです。
よく言われるように、今度の改悪法案は一千ページを超えるもので、専門の国会議員でも簡単には通読できないものです。それで政府は、要約すればこうなるとか、具体的な数を示せばこうなるとか、いろいろな資料をあわせて国会に提出するわけです。
ところが、衆院段階で政府が国会に提出した資料のなかには、今度小池議員が明らかにした問題点を示すような資料は、まったく含まれていなかったのです。そういう資料がいつ出てきたかというと、衆院で委員会での強行採決に前後する四月下旬の時期に、マスコミの要請に応じて提供した資料のなかにはじめて含まれていたようで、その資料も国会には提出されませんでした。ですから、衆院段階の審議は、政府・与党の「百年安心」宣伝に都合の悪いこれらの材料は、国会にいっさい提供せず、問題点をかくしたまま、おこなわれたものでした。
これは、自分たちの未納状況について、事実をかくしたまま採決を強行したりしたのと、まったく共通の手口です。
政府・与党のこういう汚いやり方を見て、マスコミでいまどんな議論が起きているか、と言いますと、「国民の全体に影響を与えるこの重大法案を、国民を目隠ししたままで成立させていいか」、「明らかでない問題はまだまだたくさんあるぞ」、「こんないいかげんな短時間の審議で百年も続く制度を決めてしまうなんて許せない」、こういう点が大問題になっています。年金問題をめぐる怒りの焦点は、国会議員の未納問題と同時に、真相をかくしたまま、政府案を強行しようとする政府・与党の姿勢そのものにも向けられているのです。
この問題を浮き彫りにし、国民に逆らって悪法を成立させようという企てを打ち砕くことが、参院段階の大きな焦点です。では、誰がこれをやれるのか。「三党合意」で衆議院通過に手を貸した民主党には、たとえどんな指導部ができようが、この企てに正面から対決する立場がありません。日本共産党こそが、この企てと本当に対決しこれを追及できる立場と資格をもった政党です。国民の大きな怒りをしっかりと受け止めながら、年金大改悪の企てを参院段階で打ち破るたたかいの先頭に、国会議員団を先頭に、全党が立とうではありませんか。
いま述べたように、国会議員の未納問題は、一方で、年金問題、改革問題にたいする国民の関心をかつてなく高める役割をはたしています。全国どこの社会保険事務所でも、自分の年金について、納入しているかどうか、将来の給付はいくらになるかなど、調査の要求が集中しているという様子が、よく報道されますが、これもそうした関心の高まりを反映したものでしょう。
この状況は、年金問題でのわが党の活動の条件が、いよいよ拡大していることを示すものです。政府案や民主党案は、国民にはてしない負担増を押しつけるものであるのにたいして、わが党の提案こそは、国民の利益に立った本当の年金改革を追求するものなのですから。
しかも、政局と政党状況は、いよいよ“動乱”の様相を深めています。
民主党、公明党の現状を見てください。現在なお全議員の公表に踏み切れないで、公表拒否は、重大な真実をかくすためでないかと、各方面から責められている自民党の現状を見てください。
それにくわえて、イラク問題は、アメリカや小泉政権の思惑をくつがえす方向で深刻な展開を見せています。また憲法問題でも、けさの新聞には、中央・地方の公聴会で、憲法改悪反対、九条をまもれの主張が主流をなしていたという事実が、大々的に報道されています。さらに、消費税の問題、雇用の問題があります。どの問題をとっても、いま、政治の本当の転換、本当の改革が、国政の緊急切実な必要となっていることは、いよいよ明確になっています。
このように情勢が沸き立っているとき、党大会以来の奮闘で新しい上げ潮の条件をずっとつくりだしつつあるとき、さらに言えば、未納問題でも、日本共産党がもっとも優位にあることが事実で明らかになっているとき、そのときに未納問題などで党が意気消沈して、投票日まで二カ月弱というこの時点で、党活動の勢いを失速させるようなことが、もしかりにあったとしたら、それこそ、国民にたいし、歴史にたいして、日本共産党の責任が問われます。
いまこそ、すべての党機関が、選挙勝利に向けての指導性を、政治的な活動の分野でも、組織的な活動の分野でも、知恵と力をつくして発揮すべきときです。そのことを最後に訴えて、私の発言を終わりたいと思います。