2004年4月1日「しんぶん赤旗」
3月24日に開かれた、文化芸術推進フォーラムと日本共産党との文化芸術にかんする政策懇談会で畑野君枝参院議員がおこなった報告は、全文次の通りです。
生活と将来不安がつのるいま、心を豊かにし、生活に潤いを与える芸術・文化への国民の思いは切実です。そして、子どもたちの健全な成長を保障していくことや、21世紀の世界と日本にとって、芸術・文化が果たす役割には大きなものがあると思います。
1月24日に発表された内閣府の「文化に関する世論調査」では、国民の文化への要求が強まっているのに、現実にはなかなか鑑賞できない実情がうきぼりになりました。今後、「鑑賞したいものがある」と答えた人は80・1%にのぼっていますが、鑑賞機会は減少しています。鑑賞できなかった理由は、「時間がなかなかとれない」が最も高く、20歳代の場合、費用の問題が急速に増えています。長時間労働や若年層における就職難など、国民のかかえる困難が文化を直撃しています。
文化芸術振興基本法は、文化を国民の権利として記しました。これを本当に実現していくためには、芸術・文化団体が直面している問題や切実な要望を、政治が支援していくことが必要です。同時に、国民が自由に文化を楽しめる時間やくらしを保障していくことも欠かせない課題です。リストラがまかり通り、年金など社会保障が改悪されるなかで、国民のくらしと将来への不安が高まっています。また、消費税の増税までがねらわれています。これでは、国民が文化を楽しむことが難しくなり、芸術・文化団体の活動に大きな障害となります。日本共産党は、文化の発展のためにも、労働時間の短縮やくらしを守るまともなルールある社会を築く日本改革がどうしても必要だと考えています。
日本共産党は、文化芸術振興基本法を生かし、公的支援の充実を求める立場から、芸術・文化団体との懇談や調査を続けてきました。2002年2月に開いた芸術・文化団体との懇談会で、芸術・文化活動の自由を守り、税制支援や専門家の社会保障、日本芸術文化振興会の独立行政法人化に反対し事業の充実、日本映画への支援、子どもの文化的権利の実現など5つの課題をのべました。それらにそって、国会質問でとりあげるなど、とりくみを強めています。
芸術・文化団体のみなさんの運動によって、芸能法人への差別的な税制の撤廃など、一定の成果が生まれているのは大変うれしいことです。映画について、日本共産党は日本映画振興チームを結成し、調査・懇談を続けてきました。昨年出された文化庁映画懇談会の「提言」をかけ声だけに終わらせないように「申し入れ」を行いましたが、政府予算案ではフィルム保存事業などに一定の前進があります。また、「新世紀アーツプラン」(文化芸術創造プラン)の改善や民間劇場、けいこ場への支援、人材養成機関の設立など、懇談や調査で出された要望を一つ一つ国会でとりあげています。
小泉内閣の3年は、「構造改革」の名で、教育や年金、医療などの分野をはじめ、国民生活のあらゆる分野での荒廃と破壊が加速した3年でした。この根っこにあるのは、“効率化第一”という発想です。これは、文化にも悪影響を与えています。日本芸術文化振興会が独立行政法人とされ、地方自治体でも、東京都交響楽団のリストラ=契約楽員制の押しつけや、補助金の一律カットなど文化の切り捨てがすすんでいます。私たちは、こうした文化切り捨てには反対です。
長引く不況で、映画館や民間劇場の閉鎖が相次いでいます。国民の鑑賞機会の減少は、芸術・文化団体の公演、上映に影響し、団体の運営は厳しさがましています。芸術家・団体の活動を支える公的支援の充実がいよいよ必要となっています。芸術・文化団体の実情に目を向け、要望に耳を傾け、自由な芸術・文化活動を支えるよう国・地方自治体の責務をしっかりと果たさせるために全力をあげたいと思います。
文化政策部会の「提言」は、「基盤を形成するための事業への支援は、創造活動への支援と両輪をなすよう進めていくことが必要」だと強調しました。芸術・文化活動が自由にすすめられるよう条件整備をはかることこそ国の責務です。基盤整備は、文化行政でも遅れた部分であり、抜本的に強める必要があります。予算についても、文化芸術振興基本法の基本理念にみあった抜本的な増額も必要です。
1・人材養成で国の役割を果たさせる 演劇、映画の人材養成機関への要望はたいへん強いものがあります。ところが、いまのやり方は、ここでも公演事業と同じように、事業への助成という形をとっており、本格的なものとはなりがたい面があります。日本共産党はこれまで公的な高等教育機関や研修機関の設立を求めてきました。人材養成のあり方が文化人の手で模索されています。そうしたものをよく学び、とりくみを強めます。
2・撮影所や映画館、劇場の固定資産税減免や寄付税制など税制支援を充実させます 芸能法人への差別税制は改善されましたが、寄付税制など税制支援の充実がまだこれからとなっています。きびしい状況に置かれている映画撮影所や映画館、劇場の固定資産税の減免など税制支援を求めていきたいと思います。
3・練習場などの芸術・文化活動の基盤を整備させます 舞台芸術の活動で大きな障害になっているのが、練習場の確保が困難なことです。廃校となった学校の活用をふくめ公設練習場の整備をすすめさせます。
4・専門家の社会保障を確立していきます 映画人の労働条件の調査について、国会でも答弁させましたが、さらにすすめさせたいと思います。同時に、社会保障の具体的前進をはかりたいと思います。
舞台芸術、映画、音楽への支援をいっそう改善・充実させていくことが必要です。文化芸術創造プランを改善し、芸術文化振興基金を拡充するなど、舞台芸術作品への援助を強め、作品を全国に届ける努力を応援します。日本映画の製作・上映への支援をすすめ、日本映画を再生する映画人の努力を応援します。今国会には、レコード輸入権などをもりこんだ著作権法の改正案も提出されていますが、音楽文化の発展に努力されている音楽関係者のみなさんの要望をよく聞き、国民的納得が得られるよう対応していきたいと思います。
政府は、「映画、アニメ、ゲームソフトなどの著作物を活用したビジネスを振興」するとしています。知的財産戦略本部が発表したのが「コンテンツビジネス振興政策案」とあるように、産業振興策です。そこでは、「すぐれたコンテンツの魅力をビジネスにおいて十分にいかしきれていない」として、「コンテンツビジネス」を「国家戦略の柱」とし、「業界の近代化・合理化」などをめざすとしています。
ただ、「コンテンツビジネス」といっても、「コンテンツ」である芸術・文化と一体不可分のものです。その振興では、芸術家・団体が大事にされ、芸術・文化の発展が第一に優先される必要があります。もうけが優先されて、芸術家・団体の権利がないがしろにされては芸術・文化の発展にはつながりません。「国際競争力」の観点だけが強調されると、それに値するとされた特定の著作物だけが、「もうけの対象」とされかねない懸念があります。
公的支援では、芸術・文化の発展を第一に優先させること、そして、芸術・文化活動の内容への不介入や、差別・選別をもちこまないという原則が必要だと考えます。
この点でも、芸術家・団体の要望や声をよく聞いて、施策をすすめる必要があると思います。諸外国でも、「コンテンツ」の対象とされている映画の振興について、イギリスのフィルム・カウンシルや韓国の映画振興委員会など、政府から独立し、専門家も参画した支援機関によって施策がすすめられています。文化審議会文化政策部会の提言でも「国から独立した公的な機関が行うのが適当ではないかとの意見」もあると記しました。さまざまな施策が進行するなかで、表現の自由を侵させず、行政には介入させないという点で、政府から独立した支援機関を設立すべき時期に来ていると考えます。
子どもたちに健全な成長を保障するうえで、文化の果たす役割は大きなものがあります。日本共産党は、「社会の道義的な危機を克服する国民的対話と運動」をよびかけ、芸術・文化団体とも懇談をすすめています。全国で広がっている舞台・映画鑑賞など、草の根からのとりくみを応援します。文化庁の調査でも、年間を通じて、直接、会場で芸術・文化を鑑賞した子どもは、半数をわずかに超えるにすぎません(55・6%)。すべての子どもたちが少なくとも最低年1回、またそれ以上に芸術に接することができるよう、学校や地域での演劇・舞踊・音楽公演、映画の上映への支援を強めます。
最後になりますが、日本共産党は、1月中旬の第23回大会で、新しい綱領を採択しました。綱領は、日本共産党の活動の目標やめざしている社会の姿と道すじを明らかにしています。日本共産党は、国民多数の理解と支持をえながら、国民が主人公となる新しい日本社会をめざしています。当面の目標は、資本主義の枠内で、国民の生活と権利を守る「ルールある経済社会」をつくること、安保条約を廃棄しアメリカいいなりからの脱却をはかること、などを柱とした民主的改革です。
綱領は、日本の民主的改革の課題の一つとして、「文化各分野の積極的な伝統を受けつぎ、科学、技術、文化、芸術、スポーツなどの多面的な発展をはかる。学問・研究と文化活動の自由をまもる」ことを掲げています。また、人間の全面的発達が目標となる社会主義・共産主義の社会では、芸術・文化に誰もが参加でき、その能力を発揮するようになることを展望しています。日本共産党は、民主的改革の段階でも、未来社会の段階でも、文化の発展を党の根本方針として明記しています。その精神で、今後とも、国政や地方政治において芸術・文化活動の条件整備に力をつくしていきたいと思います。