日本共産党

2001年11月27日「しんぶん赤旗」

問われる公的支援のあり方

「文化芸術振興基本法案」の審議を聞いて


 国・自治体が文化芸術を振興するよう定める「文化芸術振興基本法案」が衆議院で採択されました。与党と民主党などが共同提案したもの。21日の文部科学委員会の審議で、日本共産党は石井郁子議員が質問に立ち、法案の持つ問題点をただしたうえで賛成しました。

問題点を指摘 新しい確認も

 法案は、基本理念として、長年、文化関係者が要望していた国民の文化的権利や専門家の地位向上を記しました。同時に、対象となる芸術・文化分野が列記されたのに、少なくない分野から「法案の動きを知らなかった」(日本文芸家協会理事長・作家の高井有一さん)という声や、「より開かれた国民的議論」を求める研究者らのアピールも出ました。芸術・文化活動に不当な介入をもたらすのではないか、という懸念の声もあがりました。

 石井議員はそうした声をふまえ、法案に「表現の自由」や「行政の不介入」が明記されていないことを率直に指摘。また、専門家の地位向上を具体的に保障するため、社会保障の充実・実現を求めました。提案者から「表現の自由」は憲法上の権利であり、「行政の不介入」とともに、法案に含まれる考え方との答弁がされ、日本共産党を含む6会派提案の附帯決議には、「活動内容に不当に干渉することのないようにすること」がもりこまれました。

自由は芸術・文化の生命

 法案との関係で、行政の介入問題を重視するのはなぜでしょうか。審議で、振興の対象はあらゆる芸術・文化分野に及ぶことが明らかにされました。そうなると、対象の選択や評価にかかわって、行政の関与が生まれ、芸術・文化活動の生命である創造・表現の自由を制約し、おかすおそれがでてきます。行政が、「お金を出しながら介入しない」ということは、実はたいへん難しく、しかし、どうしても解決しなければならない問題です。

 石井議員が強調したように、表現および伝達の自由は、芸術活動にとって基本的な前提条件で、確実に保障されなければなりません。戦前、日本が侵略戦争への道をつきすすむなかで、文化分野は、映画法、出版法などの統制法や、検閲などの介入で自由が奪いつくされました。戦後、憲法に明記された「表現の自由」には、文化関係者のそうした痛苦の体験が刻みこまれています。しかし、法案は、文化の名がつく「基本法」なのに、「自主性を尊重する」とのべているだけです。

 また、文化庁予算の実際の運用をみても、「トップレベル」の団体への重点助成である「アーツ・プラン21」のような直接助成の比率が増えていますが、「トップレベル」かどうかの評価を行政がおこなうことは、内容への介入や差別・選別の危険をともないます。施策の実施にかかわる大事な点なので、石井議員はそのことも指摘しました。

公的支援の充実と不介入の原則

 芸術・文化は、社会進歩と人間の自由な発展に欠かせない活動です。21世紀の社会発展の新しい展望のなかで、いっそう大きな役割を発揮しうる分野です。多くの文化関係者は、国の貧しい文化政策や厳しさをます経済的制約に苦しみながら、すばらしい文化をつくり届けようと懸命の努力を続けています。それだけに、いま、その役割にふさわしく、とくに市場の採算性だけにまかせられない分野への公的支援の抜本的充実が必要です。

 そのさい、自由な創造と享受を国民の権利として保障するために、必要な諸条件の整備に努める行政の責任を明確にするとともに、活動内容への行政介入はしない、芸術家・団体に差別を持ち込まない、という原則を確立することが重要です。世界でも、戦後、イギリスでは、ケインズの提唱した「アームズ・レングスの原則」(お金は出しても口は出さない)という考え方にもとづいて、政府から距離をおいた芸術評議会を通じた助成をおこなうなどの仕組みが探求されています。

 また、法案に国の振興策がこと細かに列記されていますが、それぞれの芸術分野に必要な施策や課題は違います。各分野の実態に即して、解決の方向を探るべきで、専門家や国民の意見を十分に反映することが大事です。この点で、法案に民意を反映することを求めた条項があるものの、具体的な仕組みは文化庁にある文化審議会や各種会議という範囲にとどまっており、参議院の審議では、こうした点もさらによく検討される必要があります。

辻 慎一(党学術・文化委員会事務局)


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