「久しぶりの赤旗まつり開催ですね。会場に入るだけで雰囲気がちがって、みなさん生き生きしている。お客さんがステージと一体になって盛り上げてくれる。ああいう所で歌えるのは幸せです」
北海道のソーラン節から沖縄の安里屋ユンタの三線(さんしん)弾き語りまで、500曲のレパートリーを持ちます。
「自由に歌えるのが民謡の魅力。歌い継がれてきた歌ですから、これが正しい、なんてのはないんです。元々、手拍子や食器を打ち鳴らして歌っていたものだから、節(メロディー)も歌詞も、その人の感性で好きなように歌っていい。ラジオもテレビもない時代、厳しい冬の間は歌と踊りが最高の娯楽だったんですね」
自身の出身は相馬盆唄(うた)のふるさと、福島県相馬地方。幼少時には生活の中に民謡があふれていたといいます。「私の家は大きな農家でした。『結(ゆい)』といって、近所で労働の貸し借りをする風習が残っていて、農繁期に学校が休みになると、田植えどきに7日、イナゴとり大会で2日間、級友が泊まりがけで農作業を手伝いにきたものです。田植え唄、地固め唄を歌って、力を合わせた良さがあって、のんびりした、いい時代に恵まれました。自分が体験してきた民謡の風景をステージでもお伝えします」
民謡は人づてに全国を巡っていきました。
「信州の追分で生まれた馬子唄(まごうた)(馬を引きながら歌う)の信濃追分が北前船で伝わって、越後追分、秋田追分、酒田追分となり、民謡の王様と呼ばれる北海道の江差追分に。熊本の港町、牛深(うしぶか)のハイヤ節が、各地のハイヤ節、おけさになり、佐渡おけさ、塩釜甚句(じんく)、阿波踊りになった。一つの唄から口伝えで10年後には全然ちがうものになっている。面白いでしょう」
若い人にも民謡を一つ二つ覚えてほしいといいます。「民謡は、ふるさとの応援歌だと思うんです。どんな人にもふるさとはあります。盆踊りや祭りで親しんだ民謡は、その人の血肉となっているんじゃないでしょうか」
2008年に日本民謡協会の「民謡名人位」を受賞。デビューから50年、「ふるさとの応援団長」として、ぬくもりあふれる人柄です。
「民謡の特長は、歌う人と土地の人が一体になること。ステージから下りていって『どこから来たんですか?』とお客さんとお話ししたり、一緒に歌ったりするのが私、大好きなんです。当日は、ぜひ会場のお客さんのリクエストにこたえたいと思います」(2010年10月7日(木)「しんぶん赤旗」)
文 浜島のぞみ 写真 橋爪拓治