5月14日 衆議院内閣委員会 吉井英勝
コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案についての意見を述べたいと思います。
コンテンツの創造、保護及び活用を促進するために、基本理念、基本施策およびコンテンツ事業の振興に必要な事項を定めて、これを推進すること自体には賛成するものです。そのうえで意見を述べたいと思います。
1つは、コンテツの持つ文化芸術的な側面についてです。
コンテンツの創造・保護・活用を考えるとき留意しなければならないことは、経済的効果やコンテンツビジネスを強調する余り、コンテンツのもつ文化的な側面が軽視されがちになることです。政府のコンテンツ専門調査会のなかでも「事業の量的拡大だけでなく、文化的な側面をどう高めていくのかが非常に大事」という意見もでています。法案の基本理念では文化芸術振興基本法の基本理念の配慮を規定していますが、それだけで十分だろうかという懸念があります。文化芸術の多面的な発展にとって、芸術・文化活動の表現の自由を守り、自主性・創造性の尊重、その保護および支援措置、また国民が文化芸術を創造し享受する権利を守り発展させる方向での施策が、重要であるということを指摘しておきたいと思います。
2つ目は、中小企業や下請け企業の問題です。
わが国のコンテンツ事業の特徴は、プロダクションなどのコンテンツ制作部門が放送事業者などの下請けになっており、中小零細企業が圧倒的多数であるということです。たとえばアニメ産業にかかわる都内の360社でみると株式会社が約4割、有限会社が約5割、資本金1千万未満の企業が約5割と圧倒的に中小零細企業です。
法案では「コンテンツ事業の成長発展において、中小企業が果たす役割の重要性にかんがみ」「特別の配慮」を国の施策に求めていますが、経営が困難な中小企業が求めているのは「配慮」にとどまらない、国の特別の「支援措置」が必要であると考えます。
また委託者が適正な制作費を保障することなしには、この分野の技術的蓄積と発展は困難です。この点法案は、制作事業者の利益が適正に確保されるよう国に、「取引に関する指針の策定その他必要な施策を講ずる」ことを義務づけています。こうした方向については同意するものですが、問題は現行の独禁法にもとづく下請等にたいする優越的地位の濫用の禁止の定めにもとづいて、しっかり規制をすることが重要だと考えます。
3つ目は制作従事者の処遇問題ですが、制作従事者の処遇問題は、人材育成と一体の関係にあります。
制作従事者の労働実態はひどいものです。たとえばアニメでは、原画を1枚160〜180円で描く場合もあり、収入は月6〜7万円、あとは出来高払いというような状態が当たり前になっています。そのためアニメ制作従事者の離職率は80%で3年もてばいいといわれています。また映画制作従事者の多くは、フリーのために労災保険や雇用保険にも加入できない状況です。
法案は「コンテンツ事業者の講ずる措置」について「制作事業者は、そのコンテンツの制作の事業に従事する者の職務がその重要性にふさわしい魅力あるものとなるよう、制作従事者の適切な処遇の確保に努めるもの」としています。従事者の処遇改善は当然ですが、これを事業者の責務として課すだけでは解決しません。たとえば東京杉並区では、人材育成の観点からアニメ従事者が入社して半年間、プロダクションなど制作事業者に区が助成しています。国でも最低賃金を下回らない賃金を確保できるような措置を検討する必要があると思います。
4つ目は、制作者の権利保護の問題です。
法案には、国内外の複製問題など違法な知的財産権の侵害に対して、コンテンツ事業者の利益が適正に確保されるよう国内の侵害事犯の取り締まり、海外の侵害に対する体制整備の方向が打ち出されています。これは増大し深刻化している海賊版などの知的財産権の侵害に対応するものと考えます。
これらとあわせ国内の制作者の権利保護をはかることも必要です。現在、著作権等は、多くの場合、放送局等の委託者が保有し、制作者は二次利用も制限されているのが圧倒的です。映画やアニメなどでは、つくり手には、権利が保障されていません。制作者の権利を適正に保障する規定が必要だと考えます。
5つ目は、資金調達の問題です。
法案には多様な方法による資金調達制度の構築が規定されていますが、資金問題で重要なことは、国からの助成の充実と改善です。その際、行政介入があってはならないことはいうまでもありません。日本の映画製作への助成策は、イギリス、フランス、韓国など諸外国からみてもきわめて貧弱であり、この充実が緊急の課題だと考えます。
以上、「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案」について意見の表明といたします。