私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました市町村の合併の特例に関する法律の一部を改正する法律案に反対の立場から討論を行います。
この法案は、合併後の人口が三万人以上であれば市となれるという期限措置の期限を、一年間延長して来年度末までとするものです。そもそも、地方自治法第八条には、市制を行うための四つの要件が明記されています。そのうち、人口五万人以上という条件は、市が町村と比べて重要な事務を処理するという趣旨から、市の要件としてふさわしい人口規模を有するという必要性から設けられたものです。また、市となる地域が都市的形態を備えているかどうかを認めるための要件として、連檐要件や都市的業態要件が設けられています。前回の法改正時、自治省の中川行政局長は、これら四要件は市の要件として必要であり、当面は維持すべきものだとの認識を示しました。
そうであるならば、この特例措置は、市制をしくための条件のない地域にあえて市を作ることにほかなりません。それにもかかわらず、一定の期間を限って、しかも合併自治体についてだけ要件緩和を行うことに何の合理性もありません。このような措置の期限延長は、合併推進のためなら何でもありというモラルハザードを一層拡大し、地方自治制度に混乱をもたらすものでしかありません。
この法案に反対する理由の第一は、市制要件の緩和が国による市町村への合併の押し付けのためのあめとむちの一環だからです。
二〇〇〇年十二月の国の行革大綱に千を目標という数値目標が明記されて以来、自主的であるべき市町村の合併が政府主導で上から強引に進められてきました。目標達成のために交付税の段階補正の見直しや市町村に対する知事の勧告権、あるいは議員の定数、任期の特例や合併後の交付税の補償など、様々なあめとむちが用意されてきました。その一環として、新たな補助金は創設しないとの政府自身の方針に反して、新たに合併補助金が創設されました。また、今日の地方財政危機の主要な要因の一つが償還資金を交付税で手当てするとの約束で地方に公共事業のための借金をさせる手法にあったことを政府自身が認めざるを得なくなっているにもかかわらず、合併促進のためにはまたしても同様の手法による公共事業が動員されています。合併促進のためには、正に政府自身がモラルハザードに陥っていると言わなくてはなりません。
しかも、三万人特例の期限が合併特例法本体の期限より一年前とされたのは、そうでないと合併促進のインセンティブが働かないとの理由からでありました。その期限が切れる今になって一年延長するのでは、自治体関係者を合併に追い立てるためにその場しのぎの説明で欺いたものとの批判を免れないではありませんか。
反対理由の第二は、この三万人特例の実施が住民と自治体に新たな財政負担をもたらしているからであります。
この特例の最初の適用を受けて一昨年四月一日に誕生した潮来市は、福祉・保健サービスの向上と行財政の効率化・基盤強化を合併に当たってのうたい文句にしていました。しかし、現実には、合併による公共事業が急増する一方、地方交付税は合併後の二年間で約六億円も減少。この結果、二〇〇三年度の予算編成に当たっては財政破綻の直前にあることを表明せざるを得なくなっています。市当局は、この財政危機の乗り切りのために、国保税や保育料の引上げ、人間ドック助成の廃止など、住民への負担増の押し付けとサービスの切捨てを計画しているばかりでなく、財政力の強化のためと称して新たな合併を視野に入れざるを得ない事態にまで立ち至っているのであります。
第三の反対理由は、これが地方自治制度の不整合と混乱を拡大することになるからであります。
どのような規模と形態の自治体を市にするかは、正に地方自治制度の根幹の一つとも言うべきものであります。それにもかかわらず、現在、人口が六千人に満たない歌志内市を始め七十三の市が人口三万人を満たしていない現実があります。一方で、人口三万人を超える百十八の町村が存在するという実態もあります。こうした制度の基本の検討や実態との調整こそ必要となっているにもかかわらず、これを合併促進のための手段としてのみ扱うことは、まじめに地方自治制度の拡充に取り組む姿勢に欠けるものと言わざるを得ません。
最後に、本法案の審議に関連して一言述べます。
法案が衆議院総務委員長から提出されたものであっても、本委員会にとっては衆議院から送付された法案であることには何の違いもありません。また、我が党はこの法案には反対であり、委員長提案ではなく議員提出法案とするよう、衆議院でも主張していたのであります。それにもかかわらず、質疑を行うことなく、討論、採決が行われようとしていることに強く抗議するものです。
また、人口三万人要件の一年間延長という内容も、片山総務大臣が五月八日の経済財政諮問会議に提出した市町村合併推進プランに沿ったものです。政府が意図するものを国会の機関である委員長が代わって法案提出することは、立法府の見識が問われるものであることを指摘して、討論を終わります。