日本共産党の井上哲士です。
私は、去る六月三日、本委員会において、心神喪失者医療観察法案の審議が乱暴に打ち切られ、魚住委員長の下で強行採決が行われたことについて、委員長の重大な責任を厳しく批判をする立場から意見を述べます。
今回の強行採決における委員長の責任の第一は、言わばだまし討ちとも言える前例のない不公正極まる委員会運営を与党と一体となって行ったことであります。
委員長の任務は、何より委員会の公正中立で民主的な運営を行うことであり、魚住委員長自身、その就任の際に本委員会で、公正かつ円滑な運営に努め、その重責を果たしてまいりたいとあいさつをしています。一連の経過は、このあいさつとも全く反しています。
強行採決の前の定例日の二十九日の朝、与党側から三日に採決したいという提案がありましたが、野党は審議が全く尽くされていないと主張し、採決の合意には至らず、翌三十日の理事懇談会でも、野党の採決提案の撤回要求に対し、与党からは、採決提案は合意になっていない、議題とする場合には再度提案すると述べるなど、委員会は全く平穏に運営されていました。
強行採決当日の朝の理事会でも、その日の質疑時間や政府参考人の出席要求について確認しただけであり、与党からは採決の提案はなく、議題にすらなりませんでした。しかも、五日の定例日の持ち方について議論する理事懇を四日に開きたいとの与党提案には、野党側は、基本的に法案の審議を継続するだろうと考えているからこそこれに合意しました。にもかかわらず、福島委員の質問が終わったときに突如、自民党理事から審議打切りの動議が提出されたのです。正に、計画的なだまし討ちと言わざるを得ません。
当日の理事会では、審議打切りや採決の提案はもちろん、議論もない以上、動議の取扱いについては委員会をいったん休憩し、理事会で協議するのが当然のルールです。ところが、委員長は、理事会に諮ることなく直ちにこの動議を取り上げ、野党の厳しい抗議と傍聴者からの悲鳴が委員会室に鳴り響く中、質疑打切り、採決を強行したのです。
事前に一切の協議なしでもいつでも質疑打切り動議が取り上げられ、強行採決が行われることがまかり通るようなことになれば、良識の府であり熟慮の府である参議院の自殺行為だと言わざるを得ません。
委員長の責任の第二は、法案の様々な問題点が浮き彫りになっていたにもかかわらず、それをただす審議の場を奪ったことであります。
審議の中で、地域精神医療を始め、精神医療全体の向上がなければ、精神障害を持つ方々の初犯は防げない上、新たな入院医療機関で手厚い医療が行われたとしても地域の受皿がなく、結局は長期入院につながることは厳しく指摘されました。また、起訴前簡易鑑定の改善、刑務所、拘置所内での医療の向上などの重大問題にも具体的解決方向は示されていません。さらに、社会復帰調整官を刑事政策の一環である保護観察所に置くこともふさわしくありません。
また、法案に大きな利害関係を持つ日本精神病院協会政治連盟から政府・与党の関係議員に多額の政治献金が集中していることが明らかになり、法案がお金で動いたのではないかという重大な疑惑が浮かび上がりました。ところが、野党が疑惑解明のために必要な献金リストの提出を再三要求したにもかかわらず、提出されませんでした。
こうした問題についてただすことは当委員会に負託された国民に対する責務であります。しかも、二日の連合審査の場でも三日の質疑の場でも、各委員は引き続く質疑があることを前提に質問をしていました。質疑の打切りは、当委員会の責務を投げ捨て、委員の質問権を奪ったものであります。
政府は、質疑の中で、七万二千人の社会的入院の解消を目指すとして、地域ケアの充実を繰り返し約束してきました。ところが、こうした答弁とは逆に、今年度、精神障害者社会復帰施設の新規建設の自治体からの補助金申請のうち、四分の一しか厚労省が認めていないことが強行採決の直後に明らかになりました。このことを見ても、法案の持つ重大な問題点と金権疑惑を覆い隠すために審議を打ち切り、強行採決がされたと断ぜざるを得ません。
以上、強行採決の暴挙を厳しく抗議するとともに、与党と一体となってだまし討ち採決を強行した責任、二度とこのような不公正な委員会運営を行わないことを魚住委員長自らが明らかにされることを強く求めて、意見表明を終わります。