「真に豊かな社会の構築について」意見表明 参議院 国民生活・経済に関する調査会 西山登紀子議員 2002年5月22日

 日本共産党の西山登紀子でございます。
 日本共産党を代表して、中間報告に対する意見表明をいたします。
 本調査会は、「真に豊かな社会の構築」をテーマに設定し、今期の調査を進めてきました。経済大国と言われながら、本当の豊かさを実感できないのはなぜか、この国民の疑問に答えるための政治の責任について考えてみたいと思います。
 まず、豊かさとは何かという問題です。
 この点についての参考人の意見は、仕事の場があり、安心して自分の道を選択でき、その能力を発揮できること。また、家庭や地域に非金銭的な豊かさを感じられる場があること。また、自然と共生して生きることができる、それをすべての人が享受することができるなど、大変示唆に富むものでした。
 私も、真に豊かな社会の構築のために国民が求めているものは、物質的な豊かさに加えて、いわゆる物やお金だけでは味わえない、人間らしいゆとりのある、また心の豊かさも十分共有できる新しい社会であると実感しております。
 戦後、半世紀以上、高度な経済成長のみを追い続けてきた日本は、先進資本主義国の中でもいびつなゆがみを持った国となっています。
 その下で、国民生活の実態はどうなっているでしょうか。完全失業者数は約三百八十万人、潜在失業率は一〇%を上回り、十人に一人が失業者という深刻さです。小泉政権の下、大企業のリストラ、不良債権の最終処理による信金信組の破綻が五十八件にも上り、中小企業を直撃して更なる失業者を生み出しています。デフレの悪循環、また、年間三万人を超える自殺者とその遺児の問題、長時間過密労働、少子化の進行、低賃金の女性パート労働者の増大、BSEを始めとする食の安全の問題、地球温暖化など深刻な危機に陥っていると言わざるを得ません。
 自助努力、市場原理を極端なまでに強調し、社会的弱者を切り捨てる小泉構造改革の道を突き進むことは、この一年間の経済実態や国民生活、産業の在り方を見ても、国民が豊かになっていく道とは到底考えられません。根本的な転換が必要です。
 まず、雇用対策と働き方について述べます。
 第一は、新たな失業者を作らない政策への転換です。日本でも、大企業のリストラ規制のルールを早急に確立すべきです。日本の大企業が、この間、内部にため込んだ利益は、二〇〇〇年三月期決算によっても、大企業四百二十社で百二兆円にも上っています。雇用を守るために、経営者としても最大限の努力をする、経営上の都合による解雇は最後の手段、これは近代社会の中で確立してきたルールではないでしょうか。ヨーロッパの多くの国で行われている解雇規制法を我が国でも制定することが必要です。参考人質疑で、企業内労使のみのルールづくりには限界があるので、政労使、公労使での社会的な合意形成の仕組みを作る必要が求められているとの意見は重要だと考えます。
 第二は、雇用を拡大する本腰の取組を行うことです。賃下げなしのワークシェアリングを本格的に実行に移すこと。サービス残業の根絶を行えば、九十万人の雇用を生み出せるという試算もあります。昨年四月に、厚生労働省が労働時間管理徹底の通達を出しましたが、その実効ある対応が求められます。その他、年休の完全取得を進める、教育、消防、介護、医療など国民生活に不可欠な分野での公的な雇用の拡大にも本格的に取り組むべきであると考えます。
 第三は、失業者の生活保障の問題です。この点では、ヨーロッパ並みの水準を目指した抜本的な拡充を行うことが必要です。完全失業者のうち、失業給付を受けているのはわずか三割にすぎません。その最大の理由は、失業給付が最長でも十一か月で切れてしまうことによるものです。失業がホームレスへの転落の不安と背中合わせという国は日本だけです。
 参考人の意見の中で、ドイツの紹介がありました。労働権が保障されていること、正規労働者だろうがパートだろうが、六か月働けば失業給付などの保険が付き、失業しても社会保険の掛金は国が代わって支払う。また、失業給付は三年近く支払われ、保険が切れても失業扶助が支給され、年金にも連動していくという生活の安心の土台が確立していること。また、職業訓練による労働の高度な質の向上を目指す施策もあるということです。同じ先進国として、こうした点を教訓として見習うべきではないでしょうか。
 第四は、男女ともに仕事と家庭に責任が果たせるよう、女性の仕事と母性保護をしっかりと保障し、男性の長時間労働を改め、保育所や学童保育の充実を公的な責任において図るべきです。
 次に、国民生活と社会保障に関する問題です。
 まず何よりも社会保障を充実させ、将来の不安を取り除くことが求められています。構造改革と経済財政の中期展望では、社会保障は可能な限り抑制するとしていますが、これでは将来の不安が増すばかりです。特に、今審議中の健康保険の改正案は、政管健保、組合健保合わせて、保険料の約一兆円増、健保本人と定年退職者の負担を二割から三割へ引き上げ、高齢者に更なる負担を押し付けるなど、空前の負担増を強いるものとなっています。今回の法改正がされれば、更なる受診抑制が起こり、国民の命と健康が脅かされ、とても豊かな生活など保障する道とはなりません。
 健康保険への国庫負担率を八三年の水準に戻すこと、高い薬価を引き下げることなど行うならば、国保の三割負担を二割に、そして老人医療を昨年一月前の定額制に戻すことも可能です。六歳までの乳幼児医療費の無料化には、一千二十億円が必要ですが、これはアメリカ軍への思いやり予算の半分で実現できます。介護保険については、高過ぎる保険料、利用料の軽減や、特養ホームの建設、家族介護の金銭給付など必要との指摘もあり、当然と考えます。
 母子家庭の児童扶養手当の削減と法制度の改悪も重大であり、今国会での強行は許されません。憲法二十五条は、国民の生存権を明記し、社会保障を国の責務としています。この憲法の立場に立って、税金の使い方を大きく変えることで国民の社会保障の向上は十分に可能です。
 次に、景気の回復、産業の空洞化対策の問題です。
 景気回復については、参考人質疑の中で、小手先の景気対策ではなく、消費税減税が有効であるとの指摘がありました。社会保障の充実に加え、三%に戻すことで、GDPの六割を占める個人消費を回復させることが日本経済にとって今すぐ必要な改革です。
 産業の空洞化の問題も、とりわけ深刻です。
 参考人からは、大田区工業会連合会に加盟している下請中小企業などの七九・四%が受注減となり、空洞化の影響が雇用と地域経済に深刻な事態を及ぼしていることが明らかになりました。
 大企業に対しては、リストラアセスメントなどにより、大規模な人減らし、生産縮小、海外進出を計画段階で国と地方自治体に報告させ、その影響を調査した上で計画の変更や中止を勧告できるという法整備が必要と考えます。
 最後に、参考人から、他国を思いやる文化のある日本が強調されました。今審議されている有事三法案は、アメリカの戦争に日本が武力行使を含め参戦するという憲法違反の亡国の道を歩むものです。他国の人々とともに、平和や豊かさを共有できる思いやりの深い国となるよう努力を尽くすことが真に豊かな社会への大前提であることを申し上げて、意見表明といたします。(拍手)


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