2007年1月15日(月)「しんぶん赤旗」
「美しい日本」とは“軍事的筋力増強”
安倍首相訪欧 地元メディアの目
安倍首相は九日から十三日まで欧州四カ国(英、独、ベルギー、仏)を訪問、十二日には日本首相として初めて北大西洋条約機構(NATO)本部で開かれた理事会で演説し、日本とNATOとの継続的な協力を訴えました。欧州のメディアはこれをほぼ一致して「日本の軍事大国化」の意図を表したものだと報じました。
日本の首相として初のNATO本部訪問を前にした十一日、ベルギーのソワール紙(電子版)は「大国を夢見る東京」との表題で解説記事を載せ、安倍首相の言う「美しい日本」とは「軍事的に筋力を鍛え、国際舞台での重みを増すことにある」と記しました。
平和主義に背を
ドイツ紙ターゲス・シュピーゲル十三日付(電子版)は「安倍首相は攻撃部隊を保有し、世界政治に決定的な意味を持つ国として登場したいと思っている」と指摘。
仏保守系紙フィガロ十四日付は「日本の首相は、国際舞台での軍事的政治的能力を増大させるため、平和憲法の改定を望んでいる。NATOはその計画の理想的な跳躍台を首相に提供するものだ」と論じました。
仏ルモンド紙九日付は「『受動的平和主義』から『積極的平和主義』に移行」と、やや好意的に論じています。経済力で世界第二位の日本がそれにふさわしい国際的な貢献をすることが必要だとの認識を背景にしたものといえます。
しかし同紙も十四日付では「北京とソウルは、東京の地球的規模の新しい野心に懸念」と指摘。ターゲス・シュピーゲル紙は「第二次世界大戦中に日本が戦争犯罪を犯した国々、とりわけ中国や韓国との緊張関係をつくりだす」と警告しました。
過去の侵略戦争に対して無反省なまま教育基本法改悪で「愛国心」教育が奨励され、防衛庁が「省」に格上げされる事態に、欧州のメディアも強い関心を抱いていることを示しています。
際立った温度差
その極めつけとも言えるのが、十二日付仏紙リベラシオンの「ふんぞり返る日本」と題した記事です。
同紙は「経済大国に対応する政治的、軍事的な地位を得ようとする意思は、超国家主義的発熱を伴っていなければ何の問題もなかっただろう」と記し、現実において「平和主義に背を向ける」日本に厳しい目を向けています。
今回の首相外遊について独ウェルト紙十日付では「内政の葛藤(かっとう)を逃れて休養になるだろう」と冷ややかに見られる始末でした。しかし歴訪中の最大のハイライトであったNATO本部訪問では、各国のメディアが関心を持って報じたことは以上に指摘したとおりです。
ところが最初に訪問した英国では、ブレア首相との共同記者会見を報じたメディアも、内容はイラクのフセイン元大統領の死刑問題が中心で、日本についてはほとんど無視。高級紙と言われるインディペンデント紙が取り上げたのも夫人に焦点を当てたゴシップ物にとどまりました。
英国の主要紙では安倍首相のNATO訪問を報じたところはなく、他の国との関係や動向についての関心の度合いに、大陸欧州諸国と際立った温度差があることを見せつけました。
(パリ=浅田信幸、ロンドン=岡崎衆史、外信部=片岡正明)