2006年12月28日(木)「しんぶん赤旗」
イラク増派に固執
武力一辺倒 極右派がシナリオ
米大統領
米軍のイラク撤兵を求める声が国内で高まるなかブッシュ大統領は、撤退とは逆の米軍増派をめざそうとしているもようです。その背後に、イラク先制攻撃を扇動してきた極右ネオコン(新保守主義)派の巻き返しのシナリオがあります。
行き詰まるイラク政策の見直しのためとして各界の意見を聞いたブッシュ大統領は十二月中旬、ネオコンの拠点となっているシンクタンク、米エンタープライズ研究所(AEI)の研究者や軍事専門家と会合しました。ここで示されたのが、「勝利の選択―イラクでの成功のための計画」と題された提言です。
5万人増
AEIのF・ケーガン研究員やJ・キーン元陸軍副参謀長らが作成した同提言は、AEIによって骨子が公表されています。イラク戦争・占領作戦の「失敗」は「米国の信頼性を全地球規模で損ね、米軍のモラルを傷つける」とし、現在十四万人のイラク駐留米軍を最大で二年間にわたり五万人増員して、首都バグダッドや西部アンバル州などで「治安回復」作戦にあてるよう勧告しています。
イラク戦争の完全な破たんに直面して、米国民はイラク戦争の転換を求めています。これは十一月の中間選挙での与党・共和党の大敗に示されました。
ベーカー元国務長官らによる超党派委員会、イラク研究グループ(ISG)は十二月初旬、イラク政策見直しの提言を発表しました。それは、これまでの軍事力一辺倒の政府の方針を改め、イランやシリアとの直接対話も含む政治解決に踏み出し、イラクからの撤退をも視野に入れる提言です。
ブッシュ政権は、イラク戦争の打開策を見いだせないにもかかわらず、ISGの提言の受け入れを拒否しました。この提言を受け入れれば、これまでの軍事力一辺倒のイラク政策や、イランなども対象とした先制攻撃戦略の誤りを自認することになるからです。
窮地に立ったブッシュ大統領の前に提示された「勝利の選択」は、イラクの百二十倍の経済力と百四十万人の軍隊をもつ米国がイラクで勝てないはずはないとして、イラク戦争の「勝利は可能だ」と強調。治安確保は「政治解決」の「前提条件」だとし、軍事力一辺倒の立場に固執しています。駐留軍増派で治安を安定させればイランなどの「敵対的政権との受け入れがたい交渉も不要だ」と売り込んでいます。
開き直る
増派論に対しては、軍関係者などから「情勢をいっそう悪化させるだけだ」との批判が出ています。それに対して「勝利の選択」は、増派して治安回復作戦をすれば、反対派も反撃して「犠牲は増える」と認め、「短期的な犠牲の増大は失敗の印ではない」と開き直っています。米軍は今後イラク兵の訓練に重点を移すべきだとのISGなどの主張に対しても、「現在の暴力の水準はイラク軍の能力を超える」ものであり、「訓練は時間がかかりすぎる」と否定しています。
「勝利の選択」はまた、イラク増派計画と一体のものとして地上部隊と海兵隊の「恒久的」増強を主張。これにより「イラクを越えた多くのシナリオでの戦略的選択肢」を獲得できるとしています。
ブッシュ大統領はイラク政策見直しの発表を一月に先送りしましたが、記者会見などで「一時的」増派案支持を示唆しています。二十日には地上部隊と海兵隊を増強する意向を表明しました。軍事力一辺倒の路線でイラクを米国の意のままにできないことが証明されているにもかかわらず、そこから脱皮できないブッシュ政権の深刻な行き詰まりが、そこにあります。(坂口明)