2006年12月25日(月)「しんぶん赤旗」
主張
政府予算案
貧困と格差の拡大に未来なし
安倍内閣が「成長なくして日本の未来なし」を看板にした二〇〇七年度予算の政府案を決定しました。
「成長」策の売り物は大企業・大資産家向け減税です。減価償却税制の拡充で大企業を中心に国・地方合わせて六千億円強に上る減税、富裕層向けの証券優遇税制の延長で三千億円の減税を盛り込んでいます。
庶民には対照的な対応です。母子家庭などの生活保護は六百四十一億円、失業対策は二千百十二億円も減らします。定率減税の全廃で一・七兆円の増税が決まっています。
日本経済の発展の妨げ
今回の「景気回復」は記録ずくめです。政府認定の「回復」期間が戦後最長になり、大企業の利益は過去最高を更新しています。しかし、何より大きな特徴は、戦後の「回復」局面の中で初めて名目賃金の伸びがマイナスに転落したことです。
内閣府が発表した「日本経済2006―2007」(ミニ経済白書)は「企業側は全体として労働分配率の低下を持続しながら賃金上昇率を抑制し、企業収益を確保している状況となっている」と分析しています。
収益の労働者への配分を引き下げることで、大企業がもうけを拡大している構造です。庶民が「回復」を実感できないのは、労働者に配分されるべき所得がどんどん吸い上げられているからです。
「ミニ経済白書」は、非正規雇用の比率が上昇して、労働分配率と賃金を押し下げた事実を確認しています。さらに、今後も企業は非正規雇用を増やす計画であり、「特に大中堅企業において労働分配率は低下傾向にある」と指摘しています。
小泉内閣に至る歴代自民党政府は、人件費を圧縮して目先の利益を追求する大企業の行動を、労働者派遣や契約社員など雇用の規制緩和で応援し、助長してきました。これが、いくら働いても生活保護の水準以下の所得しか得られない「ワーキングプア」と、「偽装請負」という犯罪行為を広げてきました。格差と貧困の拡大が、日本経済の安定的な発展を妨げています。
日本経済が持続的な安定成長に向かうかどうか、かぎを握っているのはGDP(国内総生産)の大半を占める家計の動向です。
大企業と一握りの大資産家に減税する一方で庶民に福祉の削減と増税を押し付けるのは、完全に逆立ちしたやり方です。それに加えて安倍内閣は、「偽装請負」の合法化など派遣・請負のいっそうの規制緩和や、不払い残業と長時間労働をまん延させる労働基準法の改悪を検討しています。
ますます格差と貧困を拡大させ、家計を痛めつける政治です。
地に落ちたモラル
中川秀直自民党幹事長は今回の予算案で「『増税なき財政再建』が視野に入ってきた」と自画自賛し、そうなれば「財政再建以外の目的で税制改革ができる」とのべています。
庶民に増税と社会保障の負担増を強いながら「増税なき」とはあきれた発言です。「財政再建以外の目的」による「税制改革」とは財界が求める法人税の実効税率の引き下げにほかなりません。同時に中川幹事長は「シナリオ通りに参院選後に消費税を含めた税制の抜本改革を行う」と明言しています。
消費税増税という最悪の庶民増税を元手にして、あからさまに大企業に大盤振る舞いするやり方です。企業献金に目がくらんだ政府・与党のモラルは地に落ちたも同然です。
貧困と格差を拡大させる政治に未来はありません。