2006年12月23日(土)「しんぶん赤旗」

核戦力の保有めぐり 英で激論

更新・維持図るブレア政権

与野党議員・宗教者・市民の多数が反対


 【ロンドン=岡崎衆史】二十一世紀に核兵器は必要なのか―。英国内で核戦力の保有継続の是非をめぐって賛否両論の激論が起きています。ブレア政権は核戦力の更新・維持を図ろうとしていますが、反核平和団体だけでなく、労働党の閣僚経験者、保守党の大物政治家、宗教者、主要メディアが加わり、反対の動きがこれまで以上の広がりをみせています。

 政府は四日に発表した白書で、二〇二〇年ごろから「退役」が始まる現有核戦力を更新する方針を明らかにしました。

 英国の核戦力は、バンガード級原子力潜水艦四隻とそれに搭載する潜水艦発射弾道核ミサイル・トライデント五十基(核弾頭約二百発)で構成されています。

固執する政府

 白書は、原潜を四隻から三隻にし、核弾頭を百六十発未満にする一方、新しい原潜の開発を目指すなど、二十一世紀の安全保障も核兵器に依存する方針を打ち出しています。理由は、(1)世界における相当数の核兵器の存在と近代化推進の動き(2)核保有国数の増加(3)国家による核テロ支援の可能性―です。

 ブレア首相は四日の下院演説で、「核抑止力をもつ英国が実際の脅威に直面するのはありそうもないとは言えるが、それがあり得ないとは言えない」と述べ、将来の不確実性を核固執の口実にしました。

 保守党のキャメロン党首は、政府の核兵器更新方針を支持すると述べ、保守党をあげて政府を支えることを明らかにしました。

 政府は白書に基づいて議会で論議を行い、来年三月に更新の是非について議決。政府はその後最終決定する予定です。ブレア首相は、もともと核兵器に批判的な与党・労働党の議員の一部が反対に回った場合でも、最大野党・保守党の助けで議会の多数を得、更新決定に持ち込む構えです。

身内から疑問

 しかし、主要政党の中で核兵器不信の声が特に強いのが皮肉にも労働党です。クラーク前内相は十一月末、ロンドン市内で講演し、トライデントについて、「十七年前に終わった冷戦状況に対処するため開発された非常に高価な兵器システムだ」と述べ、現状で更新を決める必要性に「非常に強い疑問を持っている」と発言しました。

 四日の下院本会議でも、身内から厳しい質問が続出しました。ジェレミー・コービン議員は「もしも大国が不確実性を理由に核兵器が必要だと主張すれば、より弱い国が自衛のためとして核兵器を得ようとすることに反対し、その政策転換を迫ることがどうしてできるのか」と追及。マイケル・ミーチャー議員は、核兵器更新とその維持にかかる費用は計七百五十億ポンド(約十七兆二千億円)に達すると述べ、「冷戦下と全く異なる環境下、こんな提案が正当化できると思うのか」と迫りました。

 一方、保守党も一枚岩ではありません。影の国防相や外相を務めた大物政治家のマイケル・アンクラム議員はインディペンデント紙六日付に寄稿し、「核抑止力は二十世紀のもので、それが二十一世紀に有効だとは思わない」と訴えました。

 第三党・自由民主党のキャンベル党首も下院で四日、現有核弾頭の半減を求めるとともに、英国が直面する脅威を見極めるため、更新の決定を二〇一四年まで待つよう主張しました。

メディアから

 更新への疑問や批判は政治家以外からもでています。

 英国の公式宗教である英国国教会の宗教上の最高位、ウィリアムズ・カンタベリー大主教は四日、声明を出し、核兵器の無差別性に多くの人が懸念を抱いていることなどを挙げ、十分な議論を尽くすよう求めました。環境団体のグリーンピースは六日、報告書を出し、安全保障を核兵器に依存することは平和創出の妨げになるとして批判しました。

 主要メディアからも「英国の核抑止力の目的が明瞭(めいりょう)でない」(フィナンシャル・タイムズ五日付社説)「トライデントは防衛費を破たんさせ、英国をより不安定な状況に追いやる危険性がある」(オブザーバー紙三日付社説)と厳しい指摘が相次いでいます。

 国民の多数は更新に反対です。七月末のICM世論調査が、核兵器更新に二百五十億ポンド(約五兆七千億円)かかるとした上で更新の是非を聞いた際、59%が更新に反対と答えています。

 政府白書に対抗して十一月末に発表された平和団体・核軍縮運動(CND)の白書は「トライデント更新を拒否する勇気あるイニシアチブは、…世界の安全保障状況を再構成し、核による(人類)絶滅を回避することを保障する」と述べ、核兵器放棄によって英国政府が平和創出のイニシアチブを取るよう訴えています。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp