2006年12月22日(金)「しんぶん赤旗」
主張
残業代取り上げ
「企業競争力」は根拠にならず
日本社会が力をあわせてサービス残業の根絶にとりくんでいる最中に、こともあろうに、その先頭にたつべき厚生労働省が、残業代を取り上げる制度の導入を打ち出しています。来年の通常国会に、制度導入のための労働基準法改悪案を提出する方針ですが、到底容認できません。
厚生労働省が諮問機関・労働政策審議会労働条件分科会に提示している「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」(報告案)は、「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」を盛り込んでいます。
労働者の多数を対象に
一定の要件を満たすホワイトカラー労働者について、「労働時間に関する一律的な規定の適用を除外する」としています。どんな制度なのか。衆院厚生労働委員会(十二日)で、日本共産党の小池晃参院議員の質問に、厚生労働省の青木豊労働基準局長は、「労基法三七条の規定が適用されない」と答えました。労働基準法三七条は、使用者が、時間外労働、休日労働または深夜労働をさせた場合には通常の賃金に一定率(時間外・深夜は25〜50%、休日労働は35%)以上の割り増しをして賃金を支払わなければならないと定めています。
これが適用されないということは、いくら働いても残業代が支払われない制度だということです。
審議会でも労働側委員が、この制度の導入に反対を表明しているのは当然のことです。
対象となるホワイトカラー労働者は、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者、販売従事者をあわせ約二千九百六十四万人で全労働者の約55%を占めます。製造業で働く事務労働者も対象から除外されていません。
多くの労働者にただ働きを強いる制度を、労働者がのぞむはずがありません。いったい誰が要求しているのか。小池議員の質問に、労働基準局長は、「日米投資イニシアティブ」「日本経団連」「在日米国商工会議所」をあげました。日本と米国の双方の財界・大企業、米政府からの圧力で、残業代取り上げの制度を導入しようとしていることは明白です。
報告案は、制度の対象となる労働者の要件を、「年収が相当程度高い者」などとしていますが、年収が高いからといって残業代を取り上げる理由にはなりません。
しかも、日本経団連は、「年収要件等の規制が強く、必ずしも広範な普及が期待できない内容にとどまっている」といっています。対象となる労働者の要件を法律で定めず、「広範な」ホワイトカラーの残業代を取りあげろといっているのです。
日本経団連は、労働時間規制を外す理由に、企業の競争力をあげています。しかし、日本経団連もいっているように、「従業員の心身の健康の維持は、健全な企業経営の遂行に欠くべからざる課題」(二〇〇七年版経営労働政策委員会報告)です。現行法で残業代が支払われない管理職のなかから、過労死や過労自殺、メンタルヘルスの障害を多く生み出している実態を直視するなら、「従業員の心身の健康」を守るために、労働時間の規制が必要です。
“過労死促進”は撤回を
グローバル化も労働時間の規制緩和の理由になりません。グローバル化のもとで二十四時間対応しなければならない社会だからこそ、使用者が労働時間の管理を行って、労働者の命と健康を守る必要があります。
残業代を取り上げ、過労死を増やす労働時間の規制緩和は撤回するよう求めます。