2006年12月21日(木)「しんぶん赤旗」
諫早干拓で浄化能力低下
中長期開門調査は求めず
環境省評価委報告書
ノリ不作などの「有明海異変」をきっかけに、環境省に設置された有明海・八代海総合調査評価委員会(委員長、須藤隆一生態工学研究所代表)は二十日、有明海から「諫早干拓によって三千五百五十ヘクタールの海域と千五百五十ヘクタールの干潟が消失し、浄化能力の低下および諫早湾周辺海域での潮流速の減少が生じた」と指摘する報告書をまとめました。
同委員会は、「有明海異変」という深刻な漁業・環境被害と、農水省の諫早湾干拓事業の因果関係について、「要因の中には諫早干拓も含まれるが、すべての変化が諫早干拓のみに起因すると判断できない」と指摘。専門家や漁民から切望されている潮受け堤防の中長期開門調査についても「行政判断から、これに代わる方策が進められている」として、有明海再生の具体的対策のなかに含めませんでした。
報告書は、有明海の環境悪化について「流動が低下したと考えられる海域では底質の泥化、有機物の沈降が進んだ」と分析。海底に酸素濃度が低い海水層ができ、鉄などが溶け出して「有害赤潮の発生が増加し、水産生物に悪影響を及ぼしている」と説明しています。「二枚貝を代表とする底生生物の減少は、浄化能力の低下を招いており、赤潮発生を抑止する機能が低下している」としています。
解説
原因特定しない対策でいいのか
「有明海・八代海総合調査評価委員会」がまとめた報告書に漁民や研究者などから批判の声があがっています。
有明海の漁業・環境問題は二〇〇〇年のノリ養殖の大不作が発端となり、原因解明が進められてきました。「有明海異変」といわれる海洋環境の悪化が諫早湾干拓事業とのかかわりで次々報告されました。「有明海・八代海再生特別措置法」に基づき、同評価委員会が〇三年発足。行政が進めてきた同措置法に基づく事業の再評価が同委員会の任務です。
佐賀県太良町の大鋸(おおが)豊久さん(自由業)は、報告原案に対して意見書を提出し、「措置法の施策によって『海が再生した』という話はまったく一度も聞いたことはなく」時間とともに悪化していると指摘。「なぜ漁民が一番懸念している諫早湾干拓事業を取り上げないのか」「『原因がわからない』という結論では、『有明海は救わない。漁業はつぶれろ、漁民は死ね』」という認識になる、と記しています。
長崎県島原市で漁業歴二十三年の吉田訓啓さんはほかの大規模事業では影響を感じなかったのに「干拓事業では極端な魚やクルマエビの減少が起きました。ですから最大の影響は諫早湾干拓事業だ」と思うとのべ、開門調査を切望する意見を提出しています。
しかし報告書は、意見が分かれていることやデータ不足を理由に干拓事業を特定せず、開門調査も農水省のいい分を理由に拒否しています。諫早湾を締め切った一九九七年以降に生じた環境の変化や漁業の悪化は、干拓事業以外に説明可能な原因が見当たらないのが現実。実際、報告書にも干拓事業と環境変化との関係を説明できる重要な研究が紹介されています。しかし並列的な紹介で、決着をつけようという意欲は感じられず、漁民の落胆の大きい、将来に禍根を残す結果になりました。
(環境ジャーナリスト・松橋隆司)