2006年12月20日(水)「しんぶん赤旗」

JR西“安全が欠如”

福知山線事故で報告書

過密ダイヤ、ATS先送り


 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は二十日、昨年四月二十五日に起きたJR西日本・福知山線脱線事故の事実経過の全容を盛り込んだ「事実関係報告書」を公表。安全投資より効率を優先したJR西日本の体質についても批判的な内容となっています。


 企業体質に踏み込んだ記述は、鉄道事故の報告書では初めて。事故調は来年二月、鉄道事故で初めて専門家を集めた意見聴取会を開催、原因究明をすすめ、来春にも最終報告書をまとめます。

 報告書は、JR西日本の安全意識の欠如について言及しています。

 事故調が入手した一九八八年の社内資料「通勤線区における車両使用効率の向上について」。ダイヤ設定に不可欠な、遅延などを考慮した時間「余裕時分」の全廃が打ち出されていました。

 宝塚―尼崎間の運転時間は、ダイヤ改正のたびに十秒単位で短縮。私鉄との競争を背景に、停車時間不足と知りつつさらに削りました。

 脱線現場を含む伊丹―尼崎間は、ダイヤの五分二十秒に対し運転士用マニュアルは五分二十七秒。規定を守って運転すると、必ず遅れが生じる現実離れしたものでした。

 安全対策を訴えた社内の声もかき消されていました。社内の議事録は、事故防止に向け、軽微なミスやトラブルの情報を免責しても集めるべきだとした提案が、「中身によっては指導必要」「不問に付すのは時期尚早」と却下される様子を記していました。

 自動列車停止装置(ATS)の改良は、経営判断で先送りに。当初二年間の予定だった新型ATS整備は、二○○三年九月の会議で三年間に延長されました。会議には社長も出席していました。

 事故で、死亡した運転士=当時(23)=が事故前、車掌と指令所の会話を傍受できるよう、無線装置を操作していたことも分かりました。運転士はオーバーランで車掌に口裏合わせを頼んだが失敗。事故調関係者は「車掌の指令所への報告に気を取られてブレーキ操作が遅れた可能性が高い」とみています。


 JR福知山線脱線事故 二○○五年四月二十五日午前九時十八分、福知山線の宝塚発同志社前行き快速電車(七両編成)が兵庫県尼崎市の塚口―尼崎間の右カーブで脱線し、一、二両目が線路脇のマンションに激突しました。死者百七人、負傷者五百五十五人は国鉄分割民営化後で最悪の事故。


解説

“稼ぐが第一” 体質浮き彫りに

 国交省航空・鉄道事故調査委員会の福知山線事故報告書によって、当時のJR西日本大阪支社方針に象徴される“「稼ぐ」が第一で「安全安定輸送」は第二”の同社の経営体質が裏付けられました。

 列車ダイヤは、(1)駅間の運転時間の下限である基準運転時分(2)駅停車時分(3)トラブルに備えた余裕時分―で構成されます。

 報告書はJR西が、鉄道施設や車両の改良がないのに、ダイヤ改正のたびに基準運転時分そのものを短縮し、運転士用マニュアル通りの運転では遅れが生じる異常な状態にまでなっていたことを明らかにしました。

 経営会議の資料に「朝通勤時間帯快速の速達化(宝塚→大阪 現行26分→23分)」と示されているように、並行して走る私鉄との集客競争に勝ち抜くため、安全よりスピードを優先した結果でした。

 また事故をおこした快速列車には、ダイヤ設定に不可欠な「余裕時分」がまったく設けられていませんでした。同じように「余裕時分」ゼロの快速列車は、平日の上り快速の三割にも及んでいました。

 報告書は、国鉄民営化から間もない一九八八年の時点の経営会議で、すでに同社が「スピードアップ」のために「余裕時分の全廃」を経営方針として決定していたことを明らかにしました。

 また、事故現場に設置されていれば事故が防げた、速度照査機能をもつ速度制限型の自動列車停止装置(ATS)の整備の遅れにも、同社の経営判断があったことを裏付けました。

 整備計画を延長した会議の配布資料には「運転士が曲線制限失念→遠心力による列車脱線」との記述まであったのに、同社は計画を延長していました。

 速度制限型の同装置の投資は二〇〇〇年度には十九億円でしたが、〇一―〇四年度は一億―五億円に減少しています。ところが経常利益は九八年度の五百五億円から〇四年度の七百四十四億円へと急増していました。

 事故の背景に、安全より利益を優先した同社の体質があることは歴然としています。(内藤真己子)


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