2006年12月10日(日)「しんぶん赤旗」
外資系企業献金に群がる 自民 公明 民主
禁止原則に大穴 政治資金規正法改悪
国会の会期末(十五日)が迫る中で、自民、公明、民主各党が外資系企業からの献金規制を撤廃する政治資金規正法改悪案を成立させようとしています。衆院で二時間の審議で通過させた自公民は、参院でもわずかの審議で十一日に倫理選挙特別委員会で採決する構えです。しかし、法案の中身も狙いも重大な問題があります。
外資が政治に影響力
現行の政治資金規正法は、株式の50%以上を外国人や外資が保有する株式会社の献金を禁止しています(二二条の五)。それは「日本の政治や選挙が外国の勢力によって影響を受けることを未然に防止するため」(総務省自治行政局選挙部)です。今回の改悪案は、(1)日本国内の法人(2)株式上場が連続五年以上――の二条件を満たせば外資系企業でも献金できるようにするものです。
もともと企業献金は、企業の利益を実現するための「わいろ」という性格を持っています。いま外国人の株式保有比率(二〇〇五年度)は26・7%と過去最高(東証などによる株式分布状況調査)。二〇〇七年五月からは外国企業が自社株を対価にして、日本の子会社を通じて日本企業を買収できるようになります。
外資が金の力で日本の政治に影響力を強めたら、憲法に定められた国民主権や国の主権が揺るぎかねません。改悪案は「外国の影響力排除」の原則に大穴を開ける大改悪です。
改悪案を提出した自民党は「厳しい上場基準が課せられ、市場による監視が徹底している」(加藤勝信議員、一日の衆院倫理選挙特別委員会)などと説明しています。
しかし、上場基準は、株を購入する投資家を保護するために、企業の収益性や経営の健全性などの観点から要件を定めたもの。外国人株主の影響力排除にとって何の担保にもなりません。「外国から影響を受けている会社の性格が突然変わることはない。変わったのは、株式が50%以上を超えている外資企業から献金を受けてもいいとの立場になった提案者」(日本共産党の佐々木憲昭議員)なのです。
改悪案は、国民の税金を山分けする政党助成金はそのままに、将来的には禁止する方向だとしたはずの企業・団体献金をさらに拡大するものです。
収支、公開期間を限定
今回の改悪案はもう一つ、重大な問題をはらんでいます。政党や政治団体が毎年提出する政治資金収支報告書や、添付する領収書の写しなどについて、法案で決める「公開日」以前に情報公開請求をしても、開示しないことにするという点です。
収支報告書は毎年度末までに、総務大臣か都道府県選挙管理委員会に提出されます。総務大臣提出分は九月上旬に、都道府県分は九月から十二月にかけて、要旨が順次公開されています。
改悪案は、要旨の公開をすべて「九月三十日まで」に一本化します。提出から公開までは約半年。この間に、提出されたものについて情報公開法に基づく開示請求があった場合、「公表される日前は開示決定を行わない」としています。
添付される領収書の写しなどは「要旨の公開」には含まれず、情報公開請求をしないと開示されません。この開示時期が限定されれば、主権者である国民にとって、政治資金の使いみちを検証できる期間が限定されることになります。
財界の狙い 政策“丸ごと買収”
外資系企業の献金禁止を撤廃する考えが出てきた背景に何があるのか。
日本経団連の役員企業の外資による株式保有は近年、飛躍的に増加しています。会長の御手洗冨士夫氏が所属するキヤノンも外資比率が50%前後で推移。そこで献金の障害となる規制を撤廃しようとなったのです。
日本経団連は、法人税減税や規制緩和など手前勝手な財界要求を政党につきつけ、その忠誠ぶりを“評価”して、会員企業が献金をする“政党通信簿”方式をとっています。いわば政党、政策の“丸ごと買収”です。
おりしも政府税制調査会が大企業向けの七千億円の減税を答申し、法人税の実効税率の引き下げも検討するとしたばかり。日本経団連は、自民、民主両党との「政策を語る会」で、実効税率の引き下げを露骨に求めていました。御手洗会長は、「企業が行う政党への献金も社会貢献の一つだ。こうした思いやりを、私は愛国心と呼びたい」(五月二十四日)とのべる厚かましさです。
献金減の台所事情
財界要求に忠実にこたえたのが自民、民主の「二大政党」です。自民党は改悪案を国会に提出、民主党も「企業の政治寄付が制限されるのは、基本的におかしな話だ。経済界の要望にこたえられるよう努力したい」(鳩山由紀夫幹事長)と応じました。
両党が財界献金にむらがるのは、企業・団体献金が減少傾向にある台所事情があります。日本経団連の資料によると、政党の政治資金団体への企業・団体献金は、一九九五年の五十七億一千万円から、〇四年には二十七億七千万円にまで減少しました。
衆院審議で自民党の近江屋信広議員は、「外国投資家が株式の過半数を所有していることで、結果的に(企業の)寄付を禁止されてしまう」と率直に法改悪の動機を語っています。
世界は禁止の流れ
自民、公明、民主各党は外資系企業の献金禁止の撤廃を欧米諸国のすう勢であるかのようにいいます。しかし、アメリカは企業・労働組合の献金そのものを禁止。外国人、外国企業からの献金も禁止しています。
ドイツ、イギリスなどヨーロッパの場合は、EU(欧州連合)域内にある外国企業からの献金が認められているだけで、それ以外からの献金を禁止しています。企業献金禁止こそが世界の流れです。
外国人持ち株比率上位企業(%)
1 東京スター銀行 77.92
2 日本オラクル 76.51
3 中外製薬 73.65
4 パシフィックゴルフループイン ターナショナルホールディング ス 72.56
5 宮越商事 67.63
6 西友 67.47
7 日産自動車 66.80
8 デンセイ・ラムダ 65.12
9 トレンドマイクロ 65.04
10 昭和シェル石油 62.46
11 ボッシュ 62.21
12 ビーピー・カストロール 60.43
13 オリックス 59.27
14 ヤマダ電機 55.99
15 日東電工 55.91
16 日本たばこ産業 54.75
17 アサツー ディ・ケイ 54.53
18 HOYA 54.32
19 クレディセゾン 54.10
20 武富士 53.44
21 ローム 51.68
22 旭テック 51.34
23 富士写真フイルム 51.15
24 キヤノン 51.01
25 ドン・キホーテ 50.62
26 ソニー 50.29
27 花王 50.11
28 東京エレクトロン 49.92
29 日本綜合地所 49.68
30 SMC 49.40
全国証券取引所「2005年度株式分布状況調査」から作成