2006年12月8日(金)「しんぶん赤旗」
戦闘部隊撤退を提言
イラク政策で米超党派報告
【ワシントン=山崎伸治】ベーカー元国務長官、ハミルトン元下院議員ら米超党派十人の有識者で構成する「イラク研究グループ」は六日、米政府のイラク政策に関する七十九項目の提言をまとめた報告書をブッシュ大統領に提出しました。
報告は「イラク米軍の最重要任務をイラク軍の訓練に変更」し、「イラク治安部隊に組み込まれて訓練にあたる米兵を大幅に増やす」よう提案。「現地の治安状況に予期せぬ変化がない限り、二〇〇八年第一四半期までに、部隊警護に必要でない戦闘旅団はすべてイラクから撤退しうる」としています。
報告の発表にあたり記者会見したベーカー、ハミルトン両氏はブッシュ政権のイラク政策は機能していないと批判。ただ、報告の冒頭で「イラクの諸問題を解決する万能薬はない」と指摘し、問題の「両党派による解決」が必要だと強調しています。
報告は、無期限に大規模な米軍部隊をイラクに駐留し続けるということがあってはならないとしながら、「撤退の期限ないし予定表」を示すことには反対を表明。即時撤退も「誤りである」と退け、二〇〇八年初頭まで最低一年は駐留が必要だとの見通しを示しました。
ブッシュ大統領は同日朝、報告書を受け取った後、記者団に対し、「すべての提言に賛成するということにはならないだろうが、この重要な問題について集まって協議する機会になるだろう」と述べ、「政権として真剣に受け止める」と表明しました。
周辺国と外交努力を
【ワシントン=山崎伸治】「イラク研究グループ」が六日、ブッシュ大統領に提出した報告は、「イラク情勢は深刻で悪化している。成功を保証しうる道はないが、見通しを改善することはできる」と指摘した上で、三項目を最重点として提言しています。
三項目は、(1)最重要任務を変更し、戦闘部隊の撤退を開始できるようにする(2)イラク政府が国民和解など重要な段階をすみやかに達成する(3)イラクと周辺地域で新たな外交的・政治的努力を強める―というものです。
そのうえで、イラクのマリキ政権が国民和解や治安、統治といった目標を達成できるよう米政府が支援すべきだと指摘。米政府はイラク政府がそうした目標を達成すれば、「政治的あるいは軍事的、経済的支援」を強め、達成できなければ弱めるべきだと提言しています。
> また、イランとシリアはイラク国内に影響力を及ぼすことができるとして、米政府にイラン、シリアを含む「イラク国際支援グループ」の創設を呼びかけ、国連安保理の常任理事国や欧州連合のほか、日本やドイツの名をあげて協力を求めるとしています。さらに、「米国はアラブ・イスラエル紛争と中東の不安定な情勢に直接対処しない限り、同地域での目標達成はできない」と述べ、中東問題への対応を求めています。
解説
軍事主導の限界示す
米軍戦闘部隊の期限を切った撤退も可能とした「イラク研究グループ」の報告は、開始から三年九カ月が経過したイラク戦争・占領を推し進めてきたブッシュ政権の路線の傷口が広がり、国内的にも国際的にもこれ以上放置できなくなったことを示しています。
ブッシュ大統領は二〇〇三年三月のイラク侵攻後、同年五月一日に「大規模戦闘の終結」を宣言。「対テロ戦争における一つの勝利」を誇りました。
その後も十一万人以上の駐留を続け、「掃討作戦」の名で軍事作戦を展開してきましたが、市民の犠牲は急増。米軍への憎悪や反発は広がり、治安は改善の兆しが見えないばかりか、悪化する一方でした。国民議会選挙(〇五年一月)など“国づくり”での節々で駐留軍の増員も余儀なくされました。現在、駐留米軍は十四万人を数えています。
今回の報告書が撤退対象の部隊として、「戦闘部隊」をあげたのはこうした軍事主導の限界を反映してのものといえます。しかし、この戦闘部隊の撤退にも、「治安状況にもよる」との条件がついており、治安状況次第では残留する道も残されています。
米国がイラクに送り込む軍事顧問や訓練にあたるスタッフを現状の四倍の二万人に増加することも盛り込まれています。「イラクに残る部隊は訓練などを中心とする部隊になる」との目的からくるものとはいえ、軍主導に変わりはありません。
イラク保健省は十一月十日、開戦以来のイラク人の死者について、十万から十五万人という推定を発表しました。イラクでの状況は、米軍の侵攻後、激しさを増した宗派間抗争は治まらず、「内戦の瀬戸際」の状況です。
こうしたもとで、報告書に盛り込まれた「イラク国民が自分の運命をコントロールできるよう」にすること、「外交努力にはすべてのイラク近隣国を関与させ、治安強化と国民和解を進めるための支援グループを形成する」こと―。これらが実現のためには、軍事ではなく政治的な道筋こそ必要であり、それがブッシュ政権に突きつけられた課題です。 (西村央)