2006年12月7日(木)「しんぶん赤旗」
元情報機関員変死事件
英ロ関係 緊張増す
プーチン政権関与の疑惑も
ロシア連邦保安庁(FSB)のリトビネンコ元中佐が放射性物質ポロニウム210が原因で変死した事件で、英保健保護庁は五日、サッカーのプレミアリーグ、アーセナルの本拠地の競技場で微量のポロニウム210が検出されたことを明らかにしました。事件をきっかけに英国、欧州連合(EU)とロシアの関係が緊張を増しています。
事件は先月一日、リトビネンコ氏が体調を崩し、毒を盛られたと訴えたことで表面化。同氏は髪の毛が抜けるなど体内被ばくの症状を示し、二十三日に病院で亡くなりました。ロンドン警察は猛毒のポロニウム210が使用されたとしています。その後、リトビネンコ氏が立ち寄ったすしバーや、英国航空機からも放射能が検出されました。
現在、英当局の捜査の焦点は、リトビネンコ氏が体調不良となった時にロンドンのホテルで会ったルゴボイ氏に向けられています。ルゴボイ氏はロシアの実業家で元FSB職員です。
英国やロシアのメディアは、(1)ロシアのプーチン大統領が直接に命令して殺害した(2)FSBが同大統領の承認なしに単独でやった(3)同大統領の政敵でロンドンに逃れている財閥ベレゾフスキー氏が大統領のイメージを傷つけるためにやった(4)自殺または過失によって自ら摂取した―などの可能性が指摘されています。
リトビネンコ氏が十月にロシアで射殺されたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ氏の事件を調査していたことがプーチン政権関与の疑惑を深めています。
プーチン政権はメディアへの締め付け、外国とのかかわりの深い非政府組織(NGO)の規制、チェチェン独立派の暗殺など国内では強硬策を実施。外交では天然ガスなどのエネルギー資源の供給制限や価格つりあげで、他国に圧力をかけています。またFSBに対し、対テロ作戦で「テロリスト」を外国で殺害する権利を与えています。
リトビネンコ氏に数回会った英国のバッテン欧州議会議員は「ロシア情報機関が関係しているのは間違いない」とし、政府に追及するよう要求。英警察当局もロシアへ捜査員を派遣しています。
これに対しロシアでは、「国際社会でロシアとプーチン大統領の信用を落とそうとする陰謀だ」(コムソモリスカヤ・プラウダ紙)とし、ロシアの検察当局が引き渡しを求めているベレゾフスキー氏こそ黒幕だとする報道が出ています。(片岡正明)