2006年12月2日(土)「しんぶん赤旗」
主張
安倍「成長」戦略
国民いじめ政治に未来はない
安倍内閣が来年度の「予算編成の基本方針」を決め、政府税制調査会が税制改定の答申をまとめました。その看板は、「成長なくして日本の未来なし」「成長なくして財政再建なし」というスローガンです。
日本経済のバランスの取れた安定的成長は極めて重要な課題です。
しかし、安倍内閣が言う「成長」の中身は「潜在成長力を高める」(予算編成の基本方針)ことです。
潜在成長力とは機械・設備など生産力をフル活用した場合の成長力であり、小泉・安倍内閣においては“大企業の競争力”を言い換えた表現にすぎません。
拡大する不均衡
政府税調の答申は、減価償却制度の見直しで、大企業を中心に少なくとも五千億円規模となる減税を来年度から実施するよう求めています。今後の検討課題として法人実効税率引き下げを明記しました。来年で期限切れの株式売買益や配当の大幅な減税措置では、何らかの優遇措置を続ける「工夫」を求めています。
政府は、庶民には所得税・住民税の定率減税の全廃で来年も一・七兆円の増税を押し付け、参院選後には消費税増税の議論を本格的に開始しようとしています。生活保護の「老齢加算」に続いて「母子加算」を廃止し、“最後のセーフティーネット”と呼ばれる生活保護制度をずたずたにする方針を示しています。
雇用では、一人当たり年百十四万円分の残業代を企業が「横取り」する「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入など、労働法制の大改悪を打ち出そうとしています。
巨額の貿易黒字を重ね、外資の三割超が「優良企業が多く競争が激しい」ことを日本進出の障害と答えている(内閣府調査)ように、大企業の競争力は強すぎるほどです。
これに比して国民のくらしには格差と貧困がまん延しています。ワーキングプアが広がり、「成果主義」の影響も加わって全体の平均賃金が減少しています。
政府は「戦後最長の景気回復」と発表しましたが、日本経済は、大企業の利益は最高なのに庶民の家計は最低という、極端なアンバランスを示しています。強すぎる大企業をさらに手厚く支援し、弱りきった庶民をますます痛めつけるなら、供給と需要の不均衡はいっそう広がり、日本経済の安定的な発展はとうてい望めません。
総額人件費を減らす大企業の雇用戦略を支え、大企業減税の一方で庶民に負担増を強いるような経済政策を取る限り、家計は低迷から脱することはできません。需要の過半を占める家計が元気を取り戻さなければ、日本経済の安定した回復は「絵に描いたもち」です。
国内の不均衡の帳じりを輸出への依存で合わせる外国頼みのやり方には持続性がありません。なにより、大企業ばかりが潤って、くらしが豊かにならない「回復」など国民にとっては無意味です。
財界要求にこたえて
小泉・竹中路線は「改革なくして成長なし」と叫んで大企業中心主義の経済政策を強行してきました。
一見、小泉・竹中路線をひっくり返したかのように見える安倍内閣のスローガンは、「成長」=「大企業の競争力」を正面から掲げ直しただけです。その本質は、法人税の10%減税や偽装請負の合法化を求めるなど、財界の要求がかつてなく露骨になっていることにはっきりと表れています。小泉・竹中路線をエスカレートさせた安倍路線に国民の未来をゆだねるわけにはいきません。