2006年12月2日(土)「しんぶん赤旗」
中国「残留孤児」 国に責任
神戸地裁 賠償命令 帰国や自立支援怠る
敗戦の混乱の中で、中国東北部(旧満州)に置き去りにされた兵庫県内の中国「残留日本人孤児」六十五人が「国は早期帰国や帰国後の自立支援の義務を怠った」として、一人あたり三千三百万円の国家賠償を求めた訴訟の判決が一日、神戸地裁でありました。
橋詰均裁判長は「孤児の帰国を違法に制限し、帰国後の自立支援も怠った」として、国の責任を認め、六十一人に対し、計四億六千八百六十万円を支払うよう命じました。
判決は、「戦前の政府の政策は、自国民の生命・身体を著しく軽視する無慈悲な政策であった」と、日本の侵略戦争で中国に置き去りにした「棄民政策」を厳しく断罪。「国は残留孤児を救済すべき高度の政治的な責任を負う」とのべたうえで、孤児の帰国に際し身元保証を要求するなどした措置が「帰国を制限する違法な行政行為」に当たると認定しました。
また、北朝鮮拉致被害者が永住帰国から五年間、給付金支給により所得が保障されている点に言及。生活保護の受給期間を原則一年とした孤児への支援が「極めて貧弱」と強調。原告への慰謝料の支払いを認めました。
四人については民事上、二十年の請求期限(除斥期間)を過ぎたとして請求を棄却しました。
この裁判は、永住帰国した約二千五百人の八割以上の二千二百人が、全国十五地裁に提訴している一つ。「せめて普通の日本人と同じ生活保障と老後の待遇を受けたい」という中国「残留日本人孤児」の悲願を、初めてかなえた判決となりました。
解説
苦難の道を歩んだ「残留孤児」の願い生かせ
日中国交回復後に永住帰国した中国「残留日本人孤児」は約二千五百人。そのうちの八割を超す二千二百人が全国十五地裁で原告となり困窮の打開を裁判にたくしました。政府は判決を厳粛に受け止めて、抜本的な政策転換を図るべきです。
裁判の争点は二つありました。早期帰国支援義務違反の有無と、帰国孤児を支援する義務違反の有無についてでした。
判決は、二つとも国に義務違反があったと認定しました。
早期帰国支援義務違反について判決は、(1)身元保証書の提出がされない限り入国を認めなかった(2)帰国旅費負担の支給申請をする際に残留孤児の戸籍謄本を提出させたこと(3)特別身元引受人による身元保証を求めたこと―の三点を指摘して、「合理的な根拠なしに残留孤児の帰国を制限する違法な行政行為」を行ったと断罪しました。
自立支援について判決は、北朝鮮拉致(らち)被害者にたいして行われた支援策を参考にして判断。「日本社会で自立して生活するために必要な支援策を実施すべき法的義務がある」と指摘して、「厚生労働大臣は、原告を含む帰国孤児個々人に対し、永住帰国から五年の間、日本語の習得、就職活動、職業訓練に向けた支援を行い、かつ、それらにじっくり取り組むことができるように生活保持に向けた支援を行う法的義務を負っていた」と政府の責任を明記しました。
「孤児」の平均年齢は六十代半ば。幼いときに生死の境をさまよい、苦難を乗り越えて生き延びた被害者たちです。「歴史の一ページを記した」と判決を評価する原告の願いを踏みにじることなく、国は控訴せずに全面解決の大道にただちにつくべきです。(菅野尚夫)