2006年12月1日(金)「しんぶん赤旗」
CIA秘密活動
容疑者を拉致 第三国で拷問
監禁・殴打・薬物を投与
ドイツ人被害者 米に謝罪要求
【ワシントン=鎌塚由美】「対テロ」戦争の一環としてブッシュ政権が推進してきた米中央情報局(CIA)の秘密活動。欧州などでテロ容疑者を拉致し第三国に移送して拷問する実態が明らかになりつつあります。ドイツ人のカレド・エルマシリ氏(43)は二十九日、CIAの秘密拷問活動の被害者としてワシントン市内で会見し、米政府に謝罪を求めました。
最後は森に放置
同氏は二〇〇三年十二月、東欧マケドニアでの休暇中に同国の工作員に拉致され、CIAに引き渡されました。ホテルの一室に二十三日間、隔離された後、殴打され薬物を投与されてアフガニスタンに移送されました。同地での秘密収容所で五カ月間、虐待され、最終的にアルバニアの森の中に放置されたといいます。その間、ドイツ政府や弁護士、家族との連絡は許されませんでした。
「なぜこのようなことが私の身に起こったのか、(米国政府からの)説明と謝罪がほしい」と、同氏は訴えました。
完全無実と結論
CIAによる超法規的な秘密活動の被害者が名乗りを上げるのはエルマシリ氏で二人目です。カナダ国籍のマヘル・アラル氏は、米国内の空港で拘束(〇二年)後、シリアに移送され拷問を受けた体験を告発しています。カナダ政府は先ごろ、同氏は完全に無実だと結論付けた調査報告書を発表しました。
訪米して被害の実態を訴えるのは、エルマシリ氏が初めて。アラル氏の訪米は、米当局が拒否したままです。
真相究明を求めるエルマシリ氏の代理人として、米国の人権団体「米市民的自由連合」(ACLU)はテネット・CIA長官を相手取って米バージニア州の地方裁判所に提訴。同裁判所は五月、「国家秘密」を危険にさらすとの理由で訴えを却下しました。このためエルマシリ氏は二十八日、同州の連邦高等裁判所に上告しました。
おぞましい行為
ACLUのワイズナー弁護士は、地方裁判所が訴えを却下して以降、「重要な証拠が明らかになっている」と指摘。九月にブッシュ大統領自身がCIAによる秘密収容所の存在を初めて認めたことを挙げ、「大統領が、政治的課題のために公にした同じ事実が、司法の場では国家秘密とされている」と批判しています。
またACLUのロメオ事務局長は、エルマシリ氏の事件は、「ブッシュ政権によるおぞましい越権行為、拷問政策の被害者の具体的な例」だと指摘。「人身保護や正当な法手続きの否定、起訴なしの無期限拘束の具体的な例であり、米国の価値観と正反対のものだ」と語りました。
ドイツでは現在、エルマシリ氏の訴えに基づき、連邦議会が調査を開始、当局も刑事事件として調査中だといいます。マケドニア政府は、事実を認めていません。