2006年11月29日(水)「しんぶん赤旗」
イラク治安悪化
「復興」事業も行き詰まり
米大手ゼネコン 撤退表明
「飲む水は未処理」「電気1日2時間」
【ワシントン=山崎伸治】米政府からイラク「復興」事業を受注してきた米大企業の一つ、大手ゼネコンのベクテル社が十月末、事業からの撤退を表明しました。「事業の完了」を理由にしていますが、労働者の安全確保に予想以上の経費がかさんだから、との指摘もあります。イラク情勢がますます混迷を深めているもとで、米政府の「復興」事業の行き詰まりを象徴しています。
「イラクは期待したような結果になったかって? 間違いなくノーだ。それに飽き飽きだ」―バグダッドでベクテル社の事業を監督してきたクリフ・マム氏は米紙サンフランシスコ・クロニクルに言い放ちました。
同社は二〇〇三年のイラク開戦直後から三年間で二十三億ドル(二千六百七十億円)、計九十九件の事業を受注しました。発電所や上下水道、学校などの社会基盤整備がおもな事業で、九十七件は完了したと言います。
職員665人が死亡
米政府によるイラク「復興」事業は武装勢力の攻撃の的。米労働省の集計によると、これまでに六百六十五人の米契約企業の職員がイラクで死亡しています。
ベクテル社も五十二人が死亡し、四十九人が負傷。「ガードマンをさらに雇い、装甲車を使い、キャンプを要塞(ようさい)化した。こうした措置が、本来イラク国民に電力やきれいな水を提供するはずだった資金を食いつぶした」(一日付同紙)と指摘されます。
米議会の政府監査院(GAO)はこれまでの「復興」事業予算約三百八十億ドル(四兆四千億円)のうち、最低25%が企業の「治安対策費」に使われていると推計しています。
しかも完了した事業の多くが「崩壊した治安の犠牲となった。保守・点検が危険になり、施設や装備が被害にあう事例もあった」(GAO)といいます。
「復興って何のことだ。きょうもおれたちが飲んでいるのは、数十年前に建てて、整備されたことのない浄水場から来た未処理の水だ。電気は一日二時間しか来ない」
役立っていない
十二日付の米紙ワシントン・ポストは、イラク北部モスルのタクシー運転手の声を紹介。「(こうした)見方は多くのイラク国民が抱いている」と指摘し、米政府の「復興」事業の成果が国民に役立っていないことを裏付けています。
イラク復興特別監査官のスチュアート・ボーエン氏は、事業の「計画」と「現実」の差を「復興格差」(リコンストラクション・ギャップ)と呼び、その広がりに懸念を表明してきました。ベクテル社が請け負ってきた上下水道整備や発電所の建設などは、その「復興格差」が比較的大きいと指摘されています。
イラク「復興」事業は、ブッシュ米大統領が第二次世界大戦後の「マーシャル・プラン」に匹敵するものと称賛し、「うたぐり深いイラク国民の心をつかむ」(サンフランシスコ・クロニクル)はずのものでした。
武装勢力による攻撃によって事業は予定通り進まず、それへのいら立ちがイラク国民の反米感情を呼んでいます。