2006年11月26日(日)「しんぶん赤旗」
教育基本法改悪法案
国家介入の歯止めなくす
10条改悪
必要性示せず世論ねつ造
やらせ質問
やらせ質問
関係者100人動員の例も
教育基本法改悪法案の審議で日本共産党が提起して以来、大問題になってきた教育改革タウンミーティングの「やらせ質問」問題。参院に審議の舞台が移ってからも、引き続き大きな問題になっています。
「やらせ質問」は、八回のうち五回であったことが明らかになっています。二十四日の委員会では、伊吹文明文科相が、松山の集会(〇四年五月)で文科省が愛媛県教育委員会を通じて県教育関係者約百人を動員したことを認め、調査を約束しました。
なぜ政府は「やらせ」を行ったのか。
そもそも改悪法案審議の当初から、政府は理由説明ができませんでした。「基本法をなぜ今、改正しなければならないのかという必要性と緊急性は、この日の政府側の答弁でも相変わらず伝わってこなかった」(「毎日」五月十七日付社説)とメディアが報じていた通りです。
それは今も変わりません。始まったばかりの参院審議で、日本共産党の井上哲士議員の質問に対し「この法律がただちにいじめに対応できる、いじめがなくなることにつながらない」(二十二日)と安倍晋三首相も認めています。
政府は、なぜいま教育基本法を「改正」しなければならないのかの理由を示すことができなかったため、あたかも国民が教育基本法「改正」を求めているかのような世論をねつ造するために、「やらせ」に走ったのです。
日本共産党の笠井亮議員が十日の衆院特別委員会でこの問題を追及した際、伊吹文科相は「教育基本法案をぜひ成立させたいという思いで、こういう質問があると内閣府に送った」と答弁しました。八戸タウンミーティングのために質問を事前に内閣府が集めたとき、教育基本法に関する質問がなかったためと言いました。
笠井氏は「(事前の質問で)国民からは教育基本法改正をしなきゃ困るという意見がなかった。文科省がだれか言ってくださいということで質問項目案を出した。ここが本質的な問題だ」と指摘しました。
崩れた「国民に浸透」論
政府は、国民的議論は尽くされた、改悪法案への理解は得られたという根拠付けにタウンミーティングを使ってきました。五、六月の通常国会の審議で、小坂憲次文科相(当時)は、合わせて十一回、タウンミーティングを理由に改悪法案の正当性を繰り返しました(別項)。「国民的な議論をしっかり行うべきではないか」との質問に対し、小坂氏は「教育改革フォーラムやタウンミーティングを通じて、この五年あまりの間に国民のみなさんの中にも徐々に浸透してまいりました」(五月二十四日)などと述べています。
議事要旨によれば、「やらせ」がなかったとされる三回のタウンミーティングでは、改悪法案に賛成する会場からの意見は一件しかなく、反対意見は四件にのぼっています。
小坂憲次文科相(当時)の発言
●教育改革フォーラムあるいはタウンミーティングを通じ…いろいろな形で今日までこの議論をみなさまに紹介しながら、時間をかけてやってきたわけでございまして、十分な議論をへたうえでの今国会の提出というふうに思っております(5月24日)
●全国各地において教育改革フォーラムあるいは教育改革タウンミーティングを開催し、さまざまな手段を通じて国民や関係みなさまの理解を深めつつ、教育基本法の改正についての取り組みを進めてまいったわけでございまして(5月26日)
10条改悪
「教基法『不当な支配』で攻防」(産経新聞)「本末転倒 国家の介入不問」(東京新聞)―参院教育基本法特別委員会の審議を報じた二十五日付各紙は、焦点が国家による教育内容に対する「不当な支配」の扱いにあることを書きました。問題になっているのは「教育は、不当な支配に服することなく」の文言です。教育基本法改悪法案の最大の問題点がここにあります。(北村隆志、小林拓也)
矛盾「不当な支配」で文科相
現行法一〇条は、戦前の国家主義的教育の反省から、国家による教育内容への介入を戒めたものです。教育の自律性、自主性、自由を保障する最大のよりどころとなっている条文であり、教育基本法全体の「命」ともいえるものです。
改悪法案は、この条文を改悪し、政府・文部科学省がどんな教育行政をやろうと「不当な支配」にならないように、一〇条の後半を「法律の定めるところにより行われるべきもの」と書き換えました。(下記別項)
いま参院の委員会審議ではこの文言をめぐって伊吹文明文科相の答弁が揺れています。
同委員会審議初日の二十二日、伊吹文科相は「国会で決められた法律と違うことを特定のグループ、団体が行う場合を『不当な支配』と言っている」「国家が教育行政上やることについて不当な介入であるという解釈は取っていない」と述べました。
ところが二十四日の審議では「国であろうと、一部の政党を陥れようとか、一部の宗教的考えを持って教育行政を行えば、『不当な支配』になる」と、国家による教育行政も「不当な支配」になり得ることを認める答弁をしました。
この答弁の動揺は、政府の改悪法案が抱える憲法違反という根本的な矛盾からおきています。
国家と教育のあり方が争われた旭川学力テスト事件の最高裁判決(一九七六年)は“憲法の下において、子どもの成長を妨げるような国家的介入は許されない”と明確に述べています。(下記別項)
日本共産党の志位和夫委員長が五月の衆院教育基本法特別委員会でこの最高裁判決を示して追及したのに対し、小坂憲次文科相(当時)は「教育内容に対する国家的介入は抑制的であるべきだ」と認めました。
その国家介入の抑制を保障するのが現行法一〇条なのです。改悪法案はその歯止めをなくしています。志位委員長が改悪法案で国家の介入の歯止めがどこにあるのかとただしたのに対して、小坂文科相は示すことができませんでした。
「日の丸・君が代」強制など愛国心の強制という国家による内心の自由の侵害も、教育に対する国家的介入という「不当な支配」にかかわって起きている問題です。
いじめ原因 競争主義 加速
全国で続発する子どものいじめ自殺、全国の高校で明らかになった世界史など必修科目の未履修問題―どちらも政府による教育への競争主義の押しつけがもたらしたものです。
とりわけ、いじめが原因とみられる子どもの自殺は、十月十一日の福岡県筑前町の事件から今までに八件にのぼります(下記表)。まさに異常事態です。
いじめは決して道徳心や規範意識の問題だけで説明できるものではなく、子どもたちの抱えるストレスが原因だというのは、多くの調査で明らかになっています。
秦政春大阪大学教授の調査では、ストレスが「とてもたまっている」という中学生のなかで、「だれかをいじめたい」という答えが約30%にのぼり、「全くない」という中学生では8・1%と三倍以上の違いがあります(「子どものストレスと非行・問題行動」一九九二年)。
学校におけるストレスの最大の原因が、子どもを点数で競わせる競争主義的な教育です。日本共産党の志位委員長は十月三十日の衆院教育基本法特別委員会で「子どものストレスの一番の原因は、子どもを絶えず競争に追い立てて序列づける過度の競争主義にある。教育基本法を改定したらここがますますひどくなる」と指摘しました。
高校の必修科目の未履修も、大学受験科目の授業時間の確保のために行われていました。受験競争が高校教育をゆがめたものです。
教育における競争と序列を強めてきたのは政府・文部科学省です。
一九六一年から文部省が行った全国一斉学力テストをはじめ、教育における競争原理の強化は国家による「不当な支配」を禁じた教育基本法一〇条に反するものでした。
教育基本法改悪法案が通れば、第一〇条が明記していた国家による「不当な支配」に対する法律上の歯止めがなくなり、教育に対する競争主義の押しつけが天下御免で進む危険があります。
さらに安倍晋三首相の掲げる「教育再生」には、学校評価制、学校選択制、教育バウチャー制(入学者数で学校の予算に差をつける制度)など、競争をひどくさせるメニューが並んでいます。
教育基本法改悪法案が参院で審議入りした十七日の本会議、安倍首相は「教育再生に向けた第一歩として政府提出法案の早期成立を期してとりくむ」と表明しました。国家介入の歯止めをなくし、競争原理に基づく教育を政権の思い通りにつくっていく―そんな狙いが伝わってきます。
【現行の教育基本法】
第一〇条 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
【政府の改悪法案】
第一六条 教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり…
旭川学力テスト事件最高裁判決(一九七六年)から
教育内容に対する右のごとき国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請されるし、殊(こと)に個人の基本的自由を認め、その人格の独立を国政上尊重すべきものとしている憲法の下においては、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法二六条、一三条の規定上からも許されない…
最近2カ月間の子どものいじめ自殺(疑いを含む)
月 日 | 府県名 | 生徒 |
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10月11日 | 福岡 | 中2男子 |
10月23日 | 岐阜 | 中2女子 |
11月12日 | 埼玉 | 中3男子 |
11月12日 | 大阪 | 中1女子 |
11月14日 | 新潟 | 中2男子 |
11月17日 | 福岡 | 中2男子 |
11月17日 | 福岡 | 中2男子 |
11月22日 | 山形 | 高2女子 |