2006年11月25日(土)「しんぶん赤旗」

横須賀に「原子力空母」

配備問う住民投票署名さなか

米軍受け売りパンフ

3万部を作製 外務省


 「政府は米海軍の原子力艦の安全性を確信しています。外務大臣 麻生太郎」――こんな書き出しではじまるパンフレットが、米海軍横須賀基地への米原子力空母の配備の是非を問う、住民投票条例制定を求める直接請求署名運動が行われている神奈川県横須賀市で大量に配布されています。


 パンフをつくったのは外務省北米局日米安全保障条約課。横須賀市役所の情報コーナーや市内九カ所の各行政センターに置かれています。

 パンフはA4判十ページのカラー刷り。「Q原子力艦の原子炉は安全で頑丈というのは本当?」「A本当です」「Q原子力空母によって環境が放射能で汚染される?」「Aそのようなことはありません」といった問答式です。

 しかし、そのどれもが米海軍が用意した「安全性資料(ファクトシート)」を独自の検証抜きにした受け売り集です。

 市役所によれば、外務省からパンフが持ちこまれたのは住民投票条例の直接請求署名開始(十日)直後の十四日。外務省は「横須賀市民だけを念頭にしたものではない」と住民投票への対抗措置を否定します。しかし、作製した三万部の半分、一万五千部を横須賀市に大量配布しています。

 原子力空母母港化の是非を問う住民投票を成功させる会の共同代表、呉東正彦弁護士は「パンフは原子力空母は安全だとしているが、外務省は原子力潜水艦ホノルルの放射性物質漏れでは米軍に何の情報開示も要求していない。国民の安全よりも米国の利益を優先した主権放棄の姿勢そのものだ」と批判。日本共産党市議団は「安全だとする論だけを行政が一方的に流すのは行政の公平性を放棄する行為」と指摘、パンフの撤去を求めています。


解説

根拠崩れている「安全」

 パンフレットは、米原子力空母配備への県民の不安にこたえるものではありません。

 「原子炉の事故は一度も起こっていない」など全記述が米海軍ファクトシートの受け売りです。しかし、ファクトシートによる日米両政府の「安全宣言」は、九月に発生した横須賀港に寄港中の米攻撃型原子力潜水艦による放射性物質漏れ事故で、早くも根拠が崩れています。

 またこの間、米原子力艦船が日本の港内での冷却水放出を日米取り決めで事実上認めていることが米政府の解禁文書で明らかになっています。パンフはこうしたことにはまったくのほおかむりです。

 一方で、「万が一原子力艦の原子力災害が起こるような場合も、相互支援が可能となるような枠組みを作っていくことになる」としています。しかし、これも根拠のない空約束です。

 そのことは、ファクトシートを根拠に、選挙公約を投げすて「配備容認」を表明した蒲谷亮一市長が九月に実施した原子力総合防災訓練が象徴しています。米軍基地内での放射能検出を想定しながら「X線を使った非破壊検査の誤作動」と「原子力災害は起きない」と言い張る米海軍に「配慮」した原子力艦船タブーの名目だけの訓練だったからです。

 蒲谷市長はパンフが外務省から届くのを待っていたかのように、定例記者会見(十六日)でこううそぶきました。「署名が集まっても条例はつくらない」。

 まずは、住民投票の圧倒的成功が求められています。(山本眞直)


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