2006年11月25日(土)「しんぶん赤旗」
難病の公費負担医療見直し
“命の糧 断つのか”
9万人の補助除外
政府・厚生労働省は来年度にも、難病の公費負担医療制度のうち、かいよう性大腸炎の軽症と、パーキンソン病の中等症の患者、計九万人近くを補助対象から外す計画を進めています。病気で失職する人も多い患者。補助がなくなれば高額な医療費が生活を脅かし、受診抑制は病状悪化に直結します。「唯一のセーフティーネットを断つというのか」。難病患者の声は―。(岩井亜紀、内藤真己子)
朝から暗い気持ちに
パーキンソン病 39歳の女性
「二月から医療費の補助を受け、十分な薬が飲めるようになって体が楽になったところなのに」。女性(39)=東京都東村山市・主婦=は、表情を曇らせます。
二十代後半で体が震える症状が出始め、勤めていた会社を退職。三十三歳の時、パーキンソン病と診断されました。
パーキンソン病は進行性の難病です。投薬・リハビリで、症状を悪化させないようにはできても、完治することはありません。医療の質を落とせば進行は早くなります。
いまもパーキンソン病の補助は、五段階の重症度分類のうち3度以上の中・重度に限定されます。女性は補助の対象外だったため、保険の三割負担で毎月三万円以上かかっていました。
症状が改善されずにいたところ、主治医から薬を増やすよう勧められました。しかし月収は夫の二十数万円のみ。「これ以上薬代は払えない」と断ってきました。
精神的にも追い詰められ症状は悪化。今年になって重症度3に認定され、補助が受けられるようになったのです。
自己負担は月五千五百円に減りました。薬を増やして症状が改善、経済的負担の軽減で精神的にもゆとりができました。地域のパーキンソン病患者の会「ぱきぱきクラブ」を自ら立ち上げるまでになりました。
今度は、補助を受ける患者(約七万三千人)の半数を占める重症度3まで補助対象から外す計画です。補助がなくなれば女性の医療費は月三万二千円。今後四十年払い続けると千五百三十六万円にもなります。
「見直しの方針を聞いて、朝から暗い気持ちになりました。リハビリもがんばってきた今までの努力を否定されているよう」という女性は訴えます。「補助制度を改悪しないで。政府は人を大切にすることに税金を使ってほしい」
負担 月収の3割にも
かいよう性大腸炎 38歳の男性
「補助がなくなれば医療費を払い続けるのは厳しい。国から見放されるようだ」。かいよう性大腸炎を患う男性のAさん(38)=東京都=は語ります。
同大腸炎は、大腸にかいようができ下痢や下血、腹痛が続く原因不明の難病。若年で発症する人が多く、軽症と重症を繰り返します。約八万人の患者のうち五万三千人の軽症者の補助打ち切りが検討されています。
大学院を出て電機メーカーの設計技術者をしていたAさんが発症したのは一九九八年夏。下痢と腹痛で体重が一気に十数キロ減りました。治療のため入退院を繰り返し、退職に追いこまれました。
再就職先を探しても病歴を明かすと十社以上で不採用。契約社員になるのがやっとでした。いまは体調が悪く半日しか働けないこともあり、手取りは月五万円弱です。
毎日十種類の薬を服用しています。補助制度では外来、入院とも所得に応じて負担額に限度が設けられており、Aさんの負担は外来で最大月四千六百七十円です。補助がなくなり三割負担になれば月一万四千円。月収の三割にも及びます。
今夏、重症化して入院し、治療費は一カ月で百七十六万円にもなりました。保険の利かない差額ベッド代がかさみ補助を受けても支払いは月十九万円かかりました。しかし三割負担になればこのうえ五十万円も支払いが増えます。軽症者も重症化した時点で申請すれば補助の対象にする、と厚労省は言います。しかし払い戻しは数カ月後です。
闘病中に生まれた長女は三歳。会社員の妻の給与と、貯金を取り崩しての生活に、将来への不安が募ります。Aさんは言います。「国は、難病予算に限りがあるというが何兆円もの公共事業など税金のムダ遣いは相変わらずです。患者を追い詰めるような見直しをやめ『再チャレンジ』を保障してほしい」
打ち切りに科学的根拠なし
小池晃政策委員長・参院議員
政府・厚生労働省は、パーキンソン病とかいよう性大腸炎の患者数が、難病の「おおむね五万人未満」の要件を超えていることを理由に、補助対象を縮小する計画です。しかしこの基準に科学的根拠はありません。
基準を打ち出した厚労省の特定疾患対策懇談会の部会報告(九八年)は、当時指定されていた難病の患者がおおむね五万人未満であったことを理由の一つにあげています。だとすれば、患者数が増えて五万人を超えたからといって、補助を打ち切る理屈は成り立ちません。
難病は原因が分からず治療も困難で医療費の負担も重い。しかも病気で仕事を失う人が多く、生活が苦しいので医療費の補助がはじまりました。それを「構造改革」路線のもと切り捨てるなど、とんでもないことです。
そもそも難病医療費補助事業の予算は年間二百四十億円程度で、厚労省予算のなかでもきわめて少額です。予算を抜本的に増やして二疾患の補助縮小をやめ、新たな疾病にも対象を拡大するべきです。長期的には、総合的な障害者福祉法によって難病患者の医療や福祉を支える体系をつくることが必要と考えます。