2006年11月24日(金)「しんぶん赤旗」
米向けミサイル迎撃「研究」
首相発言 危険な狙い
集団的自衛権の突破口
米要求で改憲論議促進
安倍晋三首相は二十一日、「アメリカに向かうかもしれないミサイル」の迎撃を研究するとした自身の発言(十四日)に関連して、ミサイル防衛(MD)について「第三国のために用いられることはない」とした福田康夫官房長官談話(二〇〇三年十二月)の見直しを示唆しました。
「第三国」のためにミサイルを迎撃することは、憲法が禁じた集団的自衛権にあたります。
もともと「ミサイル防衛」はアメリカの迎撃システムに日本を組み込むもので、集団的自衛権の行使に直結するもの。福田談話は、それをごまかしていましたが、首相は公然と認めることで海外での武力行使を可能とする集団的自衛権の行使に突破口を開こうとしているのです。
一方、久間章生防衛庁長官は二十一日、ミサイルが「わが国へ向かって飛んで来るのを防ぐことはできるけれども、第三国へ向かっていっているのを後ろから追いかけるのは物理的に無理」「法律論でうんぬんする以前のケースとして考え難い」と発言。安倍首相と認識の食い違いを示しました。
「政府内の議論は混迷」というマスメディアの指摘もありますが、ある自民党関係者は安倍首相の発言について「実際にミサイルを撃ち落とすかどうかではなく、国民に向けてメッセージを出すことに意味がある。核武装論議の“呼びかけ”と同じだ」といいます。
首相が集団的自衛権の行使をめぐる解釈改憲を急ぐ背景にはアメリカの強い要求があります。
アメリカのシーファー駐日大使は十月二十七日、日本記者クラブの講演で次のようにのべました。
「米国には、ミサイルの標的が日本であれ米国であれ撃ち落とす義務がありますが、日本は必ずしも米国に対して同様の義務を負っていません」「この問題に対する答えは将来に持ち越さず今出しておくことが望まれます。この答えは、日米同盟の役割と将来にとって絶対に不可欠なものです」
発射されたミサイルの標的が日本自身であれアメリカであれ、日本はそれを撃ち落とす決意を持てと迫っているのです。
自民党憲法審議会のメンバーの一人は、こう述べます。
「明文改憲には首相も『五年のスパン』と言っているように時間がかかる。しかし現実はイラク戦争が起こり、テロとのたたかいも始まっている。(米国から要求されている)集団的自衛権の問題は避けて通れない」「『解釈変更』の議論は安倍政権の基盤を揺るがすかもしれないが、国民に問題提起をしていくことで改憲論議の促進材料になっていく」
アメリカの要求にこたえるには明文改憲を待っていられないから解釈改憲を進め、解釈変更の議論を通じてなし崩しに明文改憲につなげていく―。ここに解釈改憲論の危険な狙いがあります。
(中祖寅一)