2006年11月17日(金)「しんぶん赤旗」

JR採用差別

ILO、解決へ援助

日本政府に受け入れ迫る


 国鉄が一九八七年に分割・民営化されてJRが発足したさい、国労や全動労などに加入する千四十七人の労働者が不採用とされた事件で、「ILO(国際労働機関)結社の自由委員会」は十五日、交渉による政治解決実現のために、ILOとして援助に乗り出す考えを明らかにし、それを日本政府が受け入れるよう真剣な検討を要請する勧告・報告を出しました。

 同事件でのILO勧告は七回目ですが、ILO自身が具体的関与を表明したのは初めて。事件から約二十年がすぎ、すでに四十一人が亡くなるなど人道的立場からも早期全面解決が求められるなかで、解決に背を向ける政府の姿勢が改めて問われることになります。

 勧告は、政府・旧国鉄の不当労働行為を認めた東京地裁判決(〇五年)や六回の勧告後も進展しない状況を踏まえて、「司法だけによる解決がそぐわない問題がある」「交渉を通じた政治解決を探ることを歓迎する」とし、国労などが求める政治解決支持を表明しています。

 そのために、「関係当事者を一堂に会させるうえで国労がILOに援助とアドバイスを要請したことに十分留意する」とのべ、「長期化した労働争議を関係当事者すべてが満足する解決に到達させる観点から、日本政府がILO援助の受け入れを真剣に検討するよう要請する」としています。

受け入れを国労が要請

 勧告を受けて国労の佐藤勝雄委員長は十六日、厚生労働省内で記者会見しました。「従来の勧告から一歩踏み出し、ILO自身の関与を求める積極的かつ具体的な内容」と評価し、「ILOの協力を得て政治的解決へのプロセス(手順)が示されるなら、解決に向けた最後の機会ととらえ実現のため全力を尽くす。政府が勧告を尊重し、すみやかに対処することを強く求めていく」との声明を発表しました。

 会見後、厚労省に勧告を受け入れるよう要請しました。


解説

JR採用差別事件ILO勧告

早期解決に大きな力

 国鉄が一九八七年に分割・民営化されJRが発足したさい、国労や全動労などの千四十七人の労働者が不採用とされた事件で、ILO(国際労働機関)結社の自由委員会の今回の勧告は、これまでの採用差別事件の勧告から一歩踏み出し、解決に向けて積極的に関与することを表明した画期的内容で、早期解決に大きな力となるものです。

 国労が十月に出した要請(書簡)を受けてILOが高官を日本に派遣し政府や労組など関係当事者に事情聴取をおこなって出されたものです。

 労働法に詳しい中山和久早稲田大学名誉教授は「ILOの調査は、一九六五年に公務員の労働法制を調査したドライヤー調査団以来四十年ぶりのことで、大変重い意味がある」と指摘します。

 こうした勧告を出したのは、すでに事件から約二十年が過ぎ、放置できない状況にあるからです。

 解決を見ずに亡くなった労働者は四十一人。家族も含めて苦痛は極限に達しており、人道的立場からも一刻も早い全面解決が求められます。

 ところが、早期解決を求める過去六回のILO勧告にも政府は背を向けたままです。そのため、ILOとして関係当事者が協議する場を設けるための援助など具体的行動に乗り出すことを表明したもので、より重い意味を持っています。

 これまで政府は「勧告を尊重する」としか答えていませんが、今回は具体的な検討を求められており、真摯(しんし)な対応が迫られます。

 労働者側では、国労、建交労(全動労)と支援団体の中央共闘会議、国鉄共闘会議が一致して政府に解決を求めるなど、全面解決に向けた条件が整いつつあります。

 北海道や東京都議会など全国六百七十四自治体が早期全面解決を求める意見書をあげるなど、世論も支持しています。政府が勧告を真正面から受け止め、関係者との話し合いを早期に開始することが強く求められます。

深山直人)


ILO勧告(抜粋)

 JR採用差別事件についてILO結社の自由委員会が十五日に出した勧告(抜粋)は次の通りです。

 第1991号案件(注・採用差別事件のこと)

 報告事項

 (略)

 委員会は、上記のすべての情報、特に東京地裁の二〇〇五年九月十五日付の判決に留意する。委員会は再度、委員会が一九九八年以来、同案件の二回の精密な審査と四回のフォローアップを行ってきたことを想起する。

 特に労使関係の分野では司法だけによる解決がそぐわない問題があることを強調しつつ、委員会は、国労が直近の書簡のなかで懸案事項について交渉を通じた政治解決を探ることを強く望んでいるとの表明を行ったことを歓迎する。

 さらに委員会は、その実現に向けて関係当事者を一堂に会させる上で、国労がILOに援助とアドバイスを要請したことに十分に留意する。

 委員会は日本政府にたいし、この長期化した労働争議を関係当事者すべてが満足する解決に到達させる観点から、このようなILO援助の受け入れを真剣に検討するよう要請する。

 委員会は政府にたいしこの点についての進展を報告するよう要請する。


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