2006年11月12日(日)「しんぶん赤旗」

主張

NHK命令放送

報道の自由とは相いれない


 ラジオ・ジャパンという放送を聞いたことがありますか? NHKの海外向けの短波のラジオ放送です。

 菅義偉総務相が十日、この放送では北朝鮮による拉致問題を重点的に扱うようNHKに命令を出しました。憲法にもとづき放送法には、政府の干渉を受けず表現の自由を確保するとの原則が掲げられています。放送局には番組編集の自由が認められており、放送の自主自律とのかかわりでも重大問題です。メディア関係者や研究者、市民などから「撤回」を求める声があがっています。

「命令」そのものが問題

 NHKが国際放送で、拉致問題を取り上げるのがいいか悪いかの問題ではありません。政府が「命令放送」という形で、放送内容をNHKに義務付けたことの問題です。

 NHKの国際放送は一九五〇年に制定された放送法に決められ、五二年に再開されました。命令放送については、三三条に「総務相が放送事項を指定し、NHKに命ずることができる」とあり、三五条では国がその費用を出すとなっています。

 しかしこれまでの命令は「時事」「国の重要な政策」などといった抽象的なもので、拉致問題のように、具体的な内容が指定されたことはありませんでした。菅総務相は拉致問題を重視したといいますが、政府が具体的な放送内容をあげてNHKに命令するのは放送への介入です。当初、自民党内からさえ異論が出たように許されることではありません。

 NHKは、受信料による本来業務の国際放送と、国費による命令放送とを区別しているわけではなく、一体としておこなっています。政府が特定の放送内容をあげて命令すれば、全体がその意を受けた放送と見られても仕方がありません。

 戦前のNHKは政府の管理下にあり、ラジオは国民を戦争へ動員する役割を担わされました。海外向けの放送も国策宣伝に使われました。戦後のNHKはそうした過去を振り払って、「権力に屈せず、大衆のために奉仕する」(高野岩三郎会長)ことを誓って再出発しました。

 放送内容にまで踏み込んだ今回の命令は、NHKの国際放送を戦前と同じような国策報道に引き戻す危険をはらんだものです。総務省は、テレビの国際放送にも来年度三億円の予算を盛り込みました。テレビにも命令放送が広がる危険があります。事態を軽視することはできません。

 重大なのは当のNHKが、「報道機関としての自主自律、番組編集の自律を基本に貫いていきたい」(橋本元一会長)とのべるにとどまり、命令放送そのものへの態度表明は避けていることです。こうした態度で、表現・報道の自由がほんとうに守り抜けるのか。受信料を負担する視聴者にも大きな影響を及ぼすものである以上、NHKは少なくともこの問題を番組できちんと取り上げ、考える材料を提供する義務があります。

放送内容の命令は撤回を

 政府は放送内容にかかわる命令を撤回すべきです。命令放送の仕組みそのものを見直せという声が上がっているのは当然です。

 菅総務相は、NHK受信料不払いへの対応として延滞金制度を検討していることも明らかにしました。受信料制度は国民が公共放送を支えるためのものです。不払いは政治介入による番組の改変や職員の不祥事を背景に生じたもので、問題の根本を解決することが求められます。

 国際放送へは命令、国民へは罰金というやり方では、公共放送NHKの根幹を崩すことになります。


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