2006年11月11日(土)「しんぶん赤旗」
残業代ゼロ 提案
労政審に厚労省 労働時間規制はずす
厚生労働省は、労働者を長時間働かせたうえに残業代を一円も払わなくても済む新しい労働時間制度の具体案を、十日開かれた労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の労働条件分科会に提示しました。日本経団連が求めていたもので、厚労省は来春の国会に法案提出をねらっています。
具体案では、「自由度の高い働き方にふさわしい制度」が必要だとして、ホワイトカラーへの「労働時間の適用を除外する」と規定。対象となるのは、(1)労働時間で成果を適切に評価できない(2)重要な権限・責任を相当程度伴う地位にある(3)業務遂行の手段や時間配分の決定に使用者が具体的指示をしない(4)相当程度高い年収―という、あいまいな四要件を満たす労働者としています。
実際には、労働者と使用者の代表からなる労使委員会が適用範囲などを決めます。
対象者については、週休二日分(百四日)以上の休日を確保するよう法律で定めることや有給休暇の付与も盛り込んでいます。
一方、長時間労働削減のため労働者側が求めている時間外割増率(現在25%)引き上げについては、上限基準(月四十五時間)を超えても「(引き上げに)努める」と努力規定にとどめ、さらに長くなった場合に引き上げるとしただけで具体的時間や割増率などは示しませんでした。
この日の審議では労働者委員から「自由度の高い働き方などどこにあるのか」「健康破壊や過労死をひどくするだけ」と厳しい批判の意見が出され、公益委員からも「裁量労働制などすでに柔軟な時間管理制度がある」と疑問が出されました。
これにたいし使用者委員は「年収要件や休日の定めがあるとやりにくいからいらない」「労使自治にまかせるべきだ」といっそうの改悪を求めました。
解説
財界にはうまみばかり
ホワイトカラーエグゼンプション
厚労省が提案した「日本版ホワイトカラーエグゼンプション(適用除外)」は、人件費削減と労働強化をねらう財界の要求に従ったもので、過労死や少子化など労働者の健康と生活破壊をいっそう深刻にするものです。
この制度が導入されれば労働者は何時間でも働かせられ、一円の残業代も払われません。成果主義賃金とあいまって、「成果」をあげるため労働時間に関係なく働くことを余儀なくされます。
財界は、異常な長時間労働や違法なサービス残業で批判されることもなくなり、こんなうまみのある制度はありません。
労働総研の試算では、日本経団連が求める「年収四百万円以上」だと、千十三万人もの労働者が対象となり、残業代とサービス残業代あわせて十一兆六千億円、労働者一人あたり年間百十四万円もの損失を被ります。
導入にはいくつか要件を定めていますが、いくらでも拡大解釈できるうえに実際は多数決の労使委員会に委ねており、歯止めになる保障はありません。週休二日制にするというのも、年休さえままならない現状では実効性が疑わしいものです。
財界は「規制を外せば多様な働き方ができる」といいますが、すでに裁量労働制など一定の規制を外した制度があり、新たにエグゼンプションを導入しなければならない理由もありません。
異常な長時間労働をなくすためには労働時間規制の強化こそ必要です。ところが、そのために労働者が求める時間外割増率引き上げについては、現在の上限基準(月四十五時間)を超えても努力規定にとどめています。これも、コスト増になるとして反対する財界の意向に沿ったものです。
こんな財界いいなりの提案など撤回する以外にありません。(深山直人)