2006年11月9日(木)「しんぶん赤旗」
ニカラグア大統領選
16年ぶり復権 変革の流れ
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ニカラグア大統領選で左派・サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)党のオルテガ元大統領が十六年ぶりに復権したのは、貧富の格差が拡大した右派政権下の新自由主義経済の転換を求める世論の結果です。今年大統領選が行われたメキシコやコスタリカで新自由主義反対候補が大接戦を展開したことを含め、変革への流れが中米でも確実に大きくなっていることを示しました。
貧困層が8割
ニカラグアでは貧困層が国民の八割を占めるといわれます。オルテガ氏は「右派政権の十六年間、(内戦後の)平和な時期だったにもかかわらず、国民の貧苦は何も改善されなかった」と政権交代を訴えました。
中央アメリカ大学のマヌエル・アラウス法学部教授は、この指摘が「党派を超え、国民に浸透した」といいます。実際、「何も変わっていない。むしろ生活は悪くなった」という声を現地で何度も耳にしました。
今回の選挙で分裂した右派の両候補とも、この指摘に反論らしきものは何もしませんでした。アラウス教授は、「この指摘が的を射ているという重大性を理解せず、自分たちがこの十六年間の責任を負っているわけではないと思ったのだろう」と指摘します。
業者に融資なし
選挙戦で新自由主義という言葉が飛び交ったわけではありません。しかし、国際通貨基金(IMF)が押し付けている構造調整政策が生活を苦しめているということは国民にかなり知られています。中小零細企業や自営業者に融資はほとんどなされず、農業が軽視されていることなどへの怒りも小さくありません。
右派候補は、オルテガ氏が革命政権を率いた一九八〇年代の国民生活の苦難を前面に押し出し、「オルテガは危険」のキャンペーンを展開しました。米政府当局者も、オルテガ氏に投票しないよう公然と呼びかけました。
しかし、これらの宣伝は、オルテガ陣営が政策の提起に徹したこととあわせ、十六年間続いている国民生活の苦難を前にして、さほど影響は与えなかったと思われます。米国では選挙後、米州の政策研究機関「米州対話」などから、米政府の干渉を問題視する声が出ています。
オルテガ氏は当選確定後、広範な政治、社会勢力と協力していく姿勢を改めて表明しました。大統領選と同時に実施された国会選挙(定数九十)でFSLNは一議席減の三十七議席にとどまる見通しですが、オルテガ氏の姿勢は少数与党としての国会対策にとどまらず、国民生活向上のためには総力をあげる必要があるという立場です。
選挙後、識者や非政府機関などから、次期政権はなによりもIMFと再交渉をすべきだという声が上がっています。構造調整政策によって予算の首根っこを押さえられたままでは手がしばられるとみているからです。(マナグア=松島良尚)
教育・医療充実に期待
オルテガ氏当選に支持者ら
ニカラグア大統領選で左派・サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)党のダニエル・オルテガ元大統領(60)の当選が七日夕確定し、首都マナグア中心部のロータリーなどに自然発生的に支持者が集まっています。FSLNの赤と黒の党旗が舞い、支持者らを満載した車が列をなしています。大半は青年です。
小学校の教師をしているパラレスさん(35)は、「待遇を改善してほしい」と次期政権への期待を語ります。今年六年ぶりに給与が上がりましたが、それでも二万コルドバほど(約一万四千円)。夫の給与とあわせても家族四人の生活は苦しく、家賃は米在住の親戚の仕送りでまかなっています。
友人と連れ立ってきたオコルさん(19)は国立大学の大学生。「老朽化している教育設備の改善や、教材の充実を期待している」といいます。
「保守政治のこの十六年間、汚職がはびこり、金持ちと貧乏人の格差はますます広がった。病院にいっても薬はないし、不安がつのるばかり」。オルテガ氏の大きな写真をかざしていたルナさん(78)が保守政権への怒りをぶちまけます。
マナグアでは、どの候補者に投票したかを話してくれる人はあまり多くありません。なかには、無言のまま、少し隠しがちに指を二本立て、投票用紙の二番になっているオルテガ氏に投票したことを示す人もいました。同氏の当選が決まったこの日は、だれもが満面に笑みを浮かべ、われ先にと次期政権への期待を語りました。(マナグア=松島良尚)