2006年11月7日(火)「しんぶん赤旗」

学校選択制 東京・練馬区に見る

進む「二極分化」


 安倍内閣は教育基本法を改悪し、「小中学校を自由に選べる」学校選択制を全国一律に導入しようとしています。「学校が競争し合うことでいい教育がおこなわれる」というのです。東京都ではすでに全自治体の四割にあたる二十六市区が選択制を導入しています。子どもや保護者に何が起こっているのか。練馬区の場合を見てみました。(高間史人、本吉真希)


親も子も振り回されて

 練馬区では二〇〇四年度の新入生から中学校での学校選択制を試行、〇五年から本格実施しています。三十四の区立中学校すべてが選択の対象です。小学六年生は十月になると、自分の通学区域内の学校を希望する場合も含めて、全員が希望校を申請します。

 学区域外の生徒の受け入れは二十人―六十人の定員があり、希望者がそれを超えた場合は抽選です。上の子がいっている学校を下の子は抽選ではずれてしまい、兄弟姉妹が別々の学校に、というケースもあります。

 生徒が少ない学校は部活の数も少ない一方で、人気校は生徒が多いため部活動の種類も多くなります。やりたい部活のある学校まで四十分かけて歩いて通学する子どもや、二十分間の電車通学をする子どももいます。

 ある小学校では「問題のある」とされる男子児童が、A中学校への入学を希望していることがわかりました。「子どもたちのあいだで『〇〇の行くところはやめよう』という露骨な話が出始めた」と当時長男が同じ小学校に通っていた母親は振り返ります。

 女子生徒の四人の仲良しグループはみんなで同じ学校を希望しました。抽選の結果、一人だけ行けることになり、ほか三人は別の学校に一緒に進むことに。一人になった女子生徒は仲良しの友達がおらず、嫌いなグループの子たちがいるという理由で、遠くの学校に行くことにしました。

 先の母親はいいます。「親も子どもも、どこの学校に行くかを卒業までいわず、人間関係にひびが入ってしまいました。学校を選ぶことで子どもたちも親も振り回されてしまうんです」

成績公表 “格差は拡大”

 学校選択の結果、「成績がいい」といわれる学校に子どもが集中。生徒の半分以上が学区外からの通学者という学校も出ています。逆に他校や私学に流れ、学区域内の子どもの三分の一しか入学しない学校もあります。

 選択制が導入されてから、保護者や子どもの間では「あの学校はこうだ」という情報が、間違ったものも含めて飛び交う状態だと区内の中学校教師(54)はいいます。

 「教職員が頑張って、落ち着いた学校に立て直していても、いったん『荒れた学校』というイメージができた学校は生徒が集まらない。学校の頑張りに水をさすことになる。小規模な学校はますます生徒があつまらなくなっていきます」

 さらに区教委は二〇〇五年から区独自でおこなった学力テスト(中一を対象に国語・数学・英語の三教科)の学校別の成績を公表しています。「問題内容別」などに正答した生徒の割合を示したものですが、上位の学校と下位の学校の差が具体的な数値で分かります。問題内容によっては正答した生徒の割合が七割の学校と二割の学校があるなど、格差が歴然と表れています。

 先の教師は指摘します。「生徒が増える学校と減る学校に『二極分化』していきます。減った学校の子どもたちは『どうせおれたちの学校は…』となってしまう。格差が拡大してしまいます」

学校に「選ばれる」

 入学希望者が多いある中学校では学校説明会で「校則を守れる子どもが来てください」と話しています。守れない子どもは“遠慮してほしい”ということです。「自分たちが学校を選んでいるようで、実は学校に選ばれているのよね」と中学生の子を持つ親はいいます。

 学校公開で、見学者によい印象を与えようと、教師は生徒たちにこういう学校もあります。

 「あなたたちの態度で学校が選ばれるのだから、きちんとしなさい」―。子どもたちにとって入学者が少なければ、自分たちの責任だとプレッシャーになっています。

 親のなかには、学校を選べることを歓迎する人もいます。長女が小学四年生だったとき学級崩壊を経験した母親は「親たちは『落ち着いた学校、勉強のできる学校』に入れたいのでは」といいます。

 「先生と子どもの信頼関係が大切」「ストレスを抱えた子のいい分を先生はじっくりと聞いてあげてほしい」。さまざまな要望を親たちは持っています。こうした願いは学校を選んで解決できるわけではありません。

 先の中学教師は「学校選択制では学校がよくなるどころか、この学校はこうだとレッテルを張って、格差をますます拡大してしまう。親や子どもの願いとはまったく反する」と批判します。

 中二の娘と小六の息子をもつ母親はいいます。「学校選択制をすすめるのでなく、いま起きている問題を解決するため、子と先生がしっかり向き合えるように三十人学級を実現してほしい。子どもたちはそれぞれにいい所をもっています。それを見つけてあげられる学校になってほしい」


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