2006年10月26日(木)「しんぶん赤旗」

NHK裁判が結審

焦点は政治介入

来年1月判決


 NHKのETV番組改ざんをめぐる裁判が、十一日に結審しました。市民団体がNHKを相手どった裁判では、政府・自民党の幹部による政治介入が焦点となり、当時、官房副長官だった安倍晋三首相のかかわりが指摘されました。NHKは何に屈して、番組はどう変えられたのか。裁判を通して見ました。


 訴えているのは、市民団体のバウネットジャパン。バウネットなどが二〇〇〇年に開催した国際女性戦犯法廷を取り上げるのが、ETV番組の趣旨でした。初めの段階では、完成した番組の中心に法廷がすえられていました。

 ところが、二〇〇一年一月三十日に放送された番組では、法廷の主要な部分はカットされていたのです。戦争責任と「慰安婦」の証言です。

 番組改変に至る経緯が明らかになるのは、放送から四年たった〇五年一月。制作にかかわった長井暁チーフプロデューサーの内部告発によってです。

放送前日の事態

 NHKは裁判で、放送前日に起こった事態を明らかにせざるをえなくなりました。

 内容はこうです。放送前日の〇一年一月二十九日、安倍晋三官房副長官(当時)を、野島直樹国会担当局長と松尾武放送総局長がそろって訪ねました。そこで安倍氏が歴史や「慰安婦」について持論を展開し、「こうした問題を扱うのであれば、公平公正な番組になるべきだ」と注文しました。

 その日(二十九日)と次の日(三十日)、二回にわたって番組の作り直し作業が続きます。ところが、NHKは安倍氏の注文と番組改変は関係なく、「あくまでNHKの自主的な判断で編集した」と主張します。

 これにたいして、裁判では、現場スタッフが「政治介入はあった」と証言しました。

 放送当日(三十日)の夕方、松尾総局長にカットを指示された長井氏は、永田浩三チーフプロデューサーに次のように頼みました。「そんなことをしたら大問題になる。松尾総局長になんとか再考を促してほしい」

 永田氏は松尾総局長に掛け合いました。「なぜ、いちばん大事な『慰安婦』の証言部分を切るのですか。人間としてやっていいことと、悪いことがある」。抵抗する永田氏に、松尾氏は「責任は僕がとる」と譲りませんでした。

国民の知る権利

 安倍氏のところにNHKが説明に行ったのには、いきさつがあります。安倍氏に面会する数日前に、野島担当局長が、自民党総務部会の古屋圭司衆院議員を訪問。「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が、ETV番組のことを話題にしているので、「説明できるようにしておいたほうがいい」と示唆されます。

 「若手議員の会」は歴史教科書攻撃をし、「慰安婦」強制の証拠はないと主張していました。当時の代表は中川昭一衆院議員、安倍氏は前事務局長でした。

 ETV番組の改変で問われているのは、言論・表現の自由がもっとも守られなければならない放送が、政治の圧力によってゆがめられたのではないかということであり、国民の「知る権利」にかかわる問題です。

 首相になった安倍氏をはじめ、政府・与党の主要ポストには、番組改変に深くかかわったと指摘される「若手議員の会」のメンバー十一人が並んでいます。

 政治介入がどう裁かれるか。判決が出されるのは、来年一月二十九日。六年前、安倍氏がNHK幹部に歴史や「慰安婦」について持論を主張し、番組への注文を出した日です。

 (肩書はいずれもその当時)


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