2006年10月25日(水)「しんぶん赤旗」
北九州市の生活保護調査
福祉事務所の対応一変
27人の申請 全員受け付け
北九州市で生活保護の申請を二度拒否された男性=当時(56)=が餓死した事件を検証する実態調査は二十四日、同市内の七区役所で住民の生活保護申請に立ち会い、電話相談、関係者との懇談をしました。
保護申請をしたのは全市で二十七人です。市は全員の申請を受け付けました。全国から参加した弁護士や援助者が手続きに付き添いました。
門司区福祉事務所で、生活保護の申請をした女性(57)は十日に「生活ができなくなるので、生活保護を受けたい」と申請していました。その際、「だめです」と理由を示されることなく拒否されていました。女性は「これからどう生きていけばいいかわからなくなった。もう死ぬしかないと思った」と話します。
女性は肺がんで入院していましたが、五日に退院し、通院しています。病気で仕事ができずに退職。手持ち金は六千円。五万円の傷病手当から三万五千円の家賃を払っているといいます。
この日、保護課を訪れた女性は「生活保護を申請したい」というと面接室に通され、弁護士が同行しました。面接主査は申請書を受理。女性は「ほっとした。これで何とか生きていけると思う。弁護士さんや支援の方がいたからでしょうか。対応が前とまったく違う」と語りました。
面接主査は前回、申請を拒否した理由は示しませんでした。
同行した後藤景子弁護士は「ここまでしないと生活保護を受けられないのはおかしい。一人で来ると申請を拒否するというのは保護行政といえない」と話しました。
行政は責任回避やめよ
調査団に住民が訴え
調査団は二十四日午後、団長の井上英夫金沢大学教授が亡くなった男性の部屋の前で献花し、男性の住んでいた団地の集会場で住民二十人と懇談しました。
北九州市は男性の餓死は一月としていますが、ある女性は、男性を四月ごろ見かけたと証言。「足が竹ざおのように細かった」「弁当も息子がハンカチに包んで持ってきていた」と話しました。また市が水道を止め、保護申請を認めなかったことを批判する発言が続きました。
一人暮らしの男性(52)が二〇〇四年に困窮し、亡くなっていたことも話されました。介護保険の減免申請で貯金通帳を見せろといわれ、「福祉にいくのは怖い。行くと怒られる」との発言もありました。
生活保護を受けている女性(70)は、眼鏡をかけたいと話すと、福祉事務所のケースワーカーから「本当に目が見えないのか」といわれ、「足をけられた」と発言。またデイサービスの利用も制限され「鬼や蛇になって身内から金をもらって来い」と罵倒(ばとう)する言動があったと述べました。
井上泰明町会長は事件後、末吉興一市長が「市の対応は適正。地域の見守りが不足している」といっていることに「地域でやれるだけのことはやってきた」と発言しました。門司校区自治連合会の猪原八郎福祉部長は「生活保護の申請を認めず、行政の責任を回避して、餓死した責任を全部住民におしつけるようなやり方は変えるべきです」と語りました。