2006年10月19日(木)「しんぶん赤旗」

“英軍がイラクの治安を悪化”

現陸軍参謀長発言が波紋

各層から早期撤退要求

政府の失政批判も噴出


 【ロンドン=岡崎衆史】英軍のイラク駐留はイラクの治安を悪化させており、近いうちに手を引くべきだ―英陸軍制服組トップのリチャード・ダナット参謀長(大将)がデーリー・メール紙(13日付)で語った言葉が国内で波紋を広げています。


 約七千人の軍駐留をイラクの民主主義や復興支援のためと正当化してきた政府の主張が、現場を統括する軍最高幹部の発言で覆されたことで、英軍のイラク早期撤退要求や政府のイラク政策への批判の声が各層から噴き出ています。

各紙社説で支持

 参謀長発言の翌十四日、英各紙はそろって、この問題について社説を掲載しました。

 イラク戦争と軍駐留に一貫して反対してきたインディペンデント紙は、「大将は正しい。イラクからの撤退戦略を考えなければならない」と、この発言を全面的に支持し、英軍の早期撤退を要求しました。

 中道左派系のガーディアン紙は、「彼の発言は、閣僚たちが長く無視してきた軍と国民の現在の声を反映している」と述べました。

 保守系デーリー・テレグラフ紙も、「英軍は内戦を封じ込める支援をしているのか、それとも、駐留が武装勢力の抵抗(を強め、事態)を悪化させているのか。双方とも一部正しいというのが正直なところだが、日がたつにつれ、後者になりつつある」として、参謀長発言と同様の主張をしました。

 一方、野党と与党の一部は、政府のイラク失政を強く批判しています。

 保守党の影の国防相を務めるライム・フォックス議員は、「それ(参謀長発言)は現実に起きていることであり、もしも首相がそのことを知らないのであれば、驚きだ」と強調。自由民主党のミンギス・キャンベル党首は、「政府のイラク政策が一つひとつ崩壊している」と指摘しました。

 与党労働党内からも「今こそイラクの英米軍が状況を悪化させていることを認める時だ」(カリド・マフムード議員)と、厳しい意見が出されました。

メディア活発化

 発言の反響のあまりの大きさに、ダナット参謀長は、BBCラジオのインタビューで、「近いうちに手を引くべきだ」と述べた撤退時期については、「任務が実質的に終了したとき」と変更。「英軍の駐留がイラクの治安を悪化させている」との発言については、「国全体」ではなく、「一部の地域」に限定しました。

 これを受け、ブレア首相は、「彼は、私たちが言っていることと同じことを述べている」として、参謀長発言への全面支持を表明し、政府の公式見解との違いを打ち消そうとしました。

 しかし、軍首脳との亀裂を隠そうとする政府の企てを、メディアや国民の側は冷ややかにみています。オブザーバー紙十五日付社説は、「最高位の兵士が任務は達成されていない、われわれの目標を訂正すべきだというのならば、それは明らかに政府の政策への攻撃である。ブレア首相が亀裂を否定したのは弱さの表れである」と指摘しました。

 サンデー・エクスプレス紙十五日付が発表した世論調査によると、参謀長が最初のインタビューで表明したイラク駐留英軍の「近いうちの撤退」を支持する人は、74%に達しました。

 一方、メディア上では、参謀長発言をきっかけに、一般視聴者や読者を巻き込んで、イラク問題についての論議が活発化しています。有力メディアはこの問題についてのインターネット上での討論サイトも立ち上げました。

 スコットランドのアバディーンに住むマイク・オバレルさんは、BBCのサイトで、「最初から私たちはそこ(イラク)に行くべきではなかったのであり、撤退は早ければ早い方がいい。『近いうち』ではまだ不十分だ」と述べ、即時撤退を要求。これに多くの人が賛意を表明しています。


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