2006年10月17日(火)「しんぶん赤旗」

主張

「共謀罪」法案

新国民弾圧法の論拠崩れた


 犯罪の実行がなくても謀議だけで処罰することを可能にする「共謀罪」新設法案が、前国会から継続審議となっています。

 国民の自由を侵す「現代版治安維持法」と強い批判を受けながら、政府は「国際条約の批准のため必要」という一点張りで同法成立をねらっています。しかし、国会審議や日本弁護士連合会の調査を通じて、条約批准のために新立法が必要ないことがいっそう明らかになりました。新たな国民弾圧法を押し付ける政府の論拠はすっかり崩れています。

「条約」は新法求めず

 政府は、二〇〇〇年に締約された国連越境組織犯罪防止条約にもとづく国内法整備として共謀罪新設が不可欠だと主張してきました。

 同条約は、マフィアなどの国際的な組織犯罪を防止し、効果的に対処するために、一定の行為を「抑止すべき犯罪行為」として犯罪化し、国際協力を可能にするものです。条約第五条が共謀罪や参加罪(組織的な犯罪活動に参加する罪)の導入に触れており、日本政府はそれを共謀罪導入の根拠だと説明しています。

 前国会の最終盤になって、国連がつくった各国の国内法作成のための「立法ガイド」の正確な和訳が出され、条約批准のために共謀罪制定が必要条件ではないことが明らかになりました。「ガイド」は、各国の国内法が共謀罪や参加罪を持っていない場合でも「これらの概念を強制することなく、犯罪集団に対する実効的な措置を可能とする」とのべ、条約の趣旨に沿った取り締まりの実効性こそを求めていたのです。

 日本は、現行刑法でも五十八の主要重大犯罪を未遂よりも前の段階で処罰できる立法を持っています。現行法による組織犯罪対策で条約の趣旨を十分に満たしており、新立法など必要ありません。政府はこれを隠して、法案を国会に出しました。

 政府は条約の批准にあたり一部の留保はできないと説明してきましたがこれもウソでした。この条約を強力に進めているアメリカ自身が、国内の事情から第五条を留保して条約を批准しています。日本も同様の対応で、共謀罪の制定なしに堂々と条約を批准することが可能です。

 日本政府は一九九九年に、国連の条約審議で、「共謀罪の新設は日本の法体系にはなじまない」と導入に否定的な立場を表明していました。ところが、国内法化の作業に入ってからはこの常識的な立場を一転させ、恣意(しい)的な条約解釈を前面に共謀罪を持ち出しました。

 共謀罪法案は、六百十九もの犯罪を共謀段階で取り締まるものです。会話や自白が証拠となるため室内盗聴など違法捜査の拡大やいっそうの自白強要に結びつき、国民は二十四時間、警察の監視下におかれます。

 政府はかつて国連でとった立場を変え、乱用による人権侵害の恐れが強いこの法案を出すにいたった理由を説明していません。しかし「隠すほど現れる」で、条約にことよせ、新たな国民弾圧法規をつくるという政府のねらいはあけすけです。

廃案以外にない

 安倍晋三首相は十三日の参院予算委員会で「この法案は必要だ」と答弁し、共謀罪法案の成立に固執する姿勢をとりました。自民、公明の多数をもってしても採決を強行できなかった前国会。そこで示された広範な国民の批判、反対の世論を顧みない態度です。

 今の国会で共謀罪を廃案に追い込み、その息の根をとめるために、反対の世論と運動を強めましょう。


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