2006年10月3日(火)「しんぶん赤旗」
共謀罪 導入根拠崩れる
「法原則に合わぬ」 99年政府主張
二〇〇三年以来、再三国会に提出されながら、国民の強い反対で廃案や継続審議になってきた共謀罪新設法案を安倍晋三首相は今国会で成立をめざすとしています。しかし、この三年間で、政府・自民党が導入の根拠としてきた主張が、日本弁護士連合会などの調査で根本から崩れています。
特に重大な犯罪
政府は共謀罪新設について、マフィア対策を目的とした「国連越境組織犯罪防止条約」締結にともなう国内法整備のためとしてきました。
ところが、同条約の審議過程で、日本政府自身が「共謀罪の導入は日本の法原則になじまない」と批判していたことが注目されています。
同条約第五条(原案当時は三条)は、締約国への共謀罪や参加罪への導入に触れています。これについて、日本政府が一九九九年三月、条約審議のため国連に提出した意見書は、こう指摘しています。
「日本の国内法の原則では、共謀や参加については、特に重大な犯罪に限定して処罰される。したがって、すべての重大な犯罪について、共謀罪や参加罪を導入することは日本の法原則になじまない」
「立法ガイド」も
政府・法務省が共謀罪新設法案提出後の二〇〇四年、国連は国内法作成のための「立法ガイド」を作成しました。
「立法ガイド」はこう述べています。
「国内法の起草者は、新しい法が国内の法的な伝統、原則、および基本法と合致するものとなることを確保しなければならない」
「第五条第一項の二つの選択肢は、共謀の法律を有する諸国もあれば、犯罪結社の法律を有する諸国もあるという事実を反映するために設けられたものである。これらの選択肢は、共謀または犯罪結社に関する法的概念を有しない国においても、これらの概念を強制することなく、組織犯罪集団に対する実効的な措置を可能とする」
「立法ガイド」は、英米法の共謀罪や大陸法の参加罪を導入しなくても、条約第五条の要件を満たすことが可能なことを認めているのです。
新たな立法不要
日本の刑法は実際に犯罪が行われた場合に処罰することを原則としています。共謀罪はその原則に反していることは、先の政府の意見書も認めている通りです。
しかも、現行刑法でも、「予備罪が三十一、準備罪が六あり、さらに共謀罪が十三、陰謀罪が八あり、合計五十八の主要重大犯罪について、未遂よりも前の段階で処罰することが可能な立法が存在」(日弁連意見書)しています。日弁連は、組織犯罪集団の主要犯罪を未遂以前に処罰できる体制がすでにあり、新たな立法は必要ないとしています。
アメリカが留保
条約を推進しているのは、国連本部にある麻薬犯罪事務所(UNODC)で、その資金の大半は日本とアメリカが出しているといわれています。
ところが、その条約を推進しているアメリカも、共謀罪に触れた条約第五条を留保していることが判明しました。
日弁連によると、国務長官は批准にあたって、条約第五条、六条、八条、二三条について留保することを提案。そのまま上院で議決され、国連事務総長に通知されていることから、第五条の留保は明らかとしています。
日本が共謀罪に触れた第五条を留保しても、条約を批准できるのは自明の理です。
政府は条約批准のために共謀罪が必要としてきましたが、いまやその前提が根本から崩れているのは明白といわなければなりません。(橋本伸)