2006年9月29日(金)「しんぶん赤旗」

日本の政治この異常

むなしく響く 安倍式 再チャレンジ


 「格差社会」「二極化」「勝ち組・負け組」「縦並び社会」「ワーキングプア(働く貧困層)」。これらの言葉に代表される日本社会の異常さは、「構造改革」の結果です。安倍晋三首相は、「再チャレンジ戦略」を掲げ、格差に立ち向かうような姿勢を振りまいています。果たして、その実態は…。 (金子豊弘)


格差拡大の根源放置

 「長期にわたって景気回復が継続しているにも関わらず、正規雇用は減少する一方、非正規雇用が増加」。今年の「経済財政白書」はこう指摘しました。雇用者の三人に一人が非正規雇用となりました。フルタイムで働いても人間らしい生活ができない労働者が増え、「ワーキングプア」が社会問題になっています。

 この原因をつくったのが企業の人件費削減。後押ししたのは歴代自民党政府による「雇用の流動化」政策でした。一九八五年に制定された労働者派遣法。その後、改定を繰り返し、二〇〇三年には製造業への派遣を可能にしました。政府は、「産業再生法」で大企業のリストラを後押ししました。

 失業率は高止まり。一年以上の長期失業者も増え、預貯金を取り崩しながらの生活です。生活保護世帯も百万世帯を突破しました。

 大企業はバブル期を上回る利益を上げています。〇五年の一人当たりの役員報酬(資本金十億円以上)は二千八百十一万円と、八五年比で二・四倍となりました。ところが、中小企業(資本金一千万円未満)の従業員一人当たりの給与はその十三分の一の二百十九万円にすぎません。

 格差の拡大、貧困の広がりの根源になっているのが利益至上主義の大企業の横暴です。ところが安倍首相は、「構造改革が進んだ結果、格差があらわれてきたのは、ある意味で自然」(『美しい国へ』)という立場。大企業の横暴を正すどころか「(企業は)金の卵を産む鳥」(『日経ビジネス』〇六年七月十七日号)としています。政権公約には「成長なくして日本の未来なし」とのスローガンを掲げ、大企業応援の継続を表明しています。

道州制で地方に犠牲

 東京では、マネーゲームに浮かれる“ヒルズ族”がもてはやされました。三大都市圏(東京、大阪、名古屋)の基準地価は上昇に転じました。一方、地方の中心商店街さえもシャッター通り化し、人影が消えました。

 一人当たりの県民所得は東京を一〇〇とした場合、最下位の沖縄は五〇に満たない状況です。

 消滅の危機にある集落は全国で二千にのぼるといわれています。耕作放棄地の増大や森林の荒廃は、洪水の発生の背景にもなっています。

 「都市と地方の格差」が拡大したのは、小泉内閣がすすめた「都市再生」戦略が元凶です。「都市再生緊急整備地域」を指定。建築規制を大幅に緩和し、超高層ビルの建設ラッシュを招きました。公共事業も生活に必要な地域の事業は削減し、都市部の大型事業に集中させました。

 また、政府は「平成の大合併」の号令のもと、市町村合併を押し付け、福祉と暮らしの施策の切り捨てを進めています。郵政公社は民営化を前に郵便局の集配局をすでに二百以上も廃止。地方切り捨てに拍車をかけます。安倍首相は、「道州制も視野に」といい、地方切り捨てを推進する立場です。

マネーゲームに拍車

 政府・日銀の超低金利政策によって、家計の利子所得が奪われました。利子収入の減少は三百四兆円(九一年から〇四年)に達します。その一方、企業は低い金利負担でもうけを拡大しました。小泉内閣は、〇三年には株式の譲渡益や配当にかかる課税を預貯金の利子課税(20%)の半分の10%に軽減し、富裕層のもうけを後押し。一億円以上の金融資産を持つ富裕世帯の純金融資産額は二百十三兆円と、〇三年に比べ五十兆円増えています。安倍総裁は「『貯蓄から投資へ』が実現するための制度を工夫したい」(『安倍晋三の経済政策を読む』)と、マネーゲーム推進路線を突っ走る姿勢です。


大企業中心から転換こそ

 「再チャレンジ」を掲げる安倍首相。ところが、格差社会を生み出した「構造改革」の加速を表明し、「再チャレンジ」についても「『再チャレンジ』というのは、セーフティネット(安全網)ではない」(『安倍晋三の経済政策を読む』)といってはばかりません。そして、「最も重要なのは起業の促進」というだけ。しかも掲げる政策は、ベンチャー企業に投資する投資家を優遇する税制です。

 日本共産党の志位和夫委員長は、「人間らしい労働のルールを破壊し、社会保障を破壊し、庶民増税を押しつけて、この住みづらい社会をつくってきた。その反省抜きに『再チャレンジ』といっても、むなしいばかり」と(二十六日の日本共産党議員団総会でのあいさつ)と批判します。

 格差社会を正すために日本共産党は、「異常な大企業中心政治」の転換を求めています。とくに安定した雇用と人間らしく働ける労働条件の確保のためには、「無法な解雇、雇い止めや、短期・反復雇用をなくす」「非人間的な長時間労働、違法のサービス残業を根絶する」「非正社員の均等待遇を実現する」(緊急提言「若者を使い捨てにするような働かせ方を許さないために」〇五年十月二十四日)などを求めています。

グラフ

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