2006年9月24日(日)「しんぶん赤旗」

安倍氏提唱 教育バウチャー制って?

所得で教育に格差


 自民党の安倍晋三新総裁は総裁選の中で「教育再生」の目玉の一つとして「教育バウチャー(利用券)制」の導入を唱えました。どういう制度なのでしょうか。

 四月十九日の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)でこんなやりとりがありました。

 小泉首相 教育利用券というのは具体的にどういうことか。

 宮内義彦規制改革・民間開放推進会議議長(オリックス会長) 最後は一人ひとりにいくら分というふうに渡すので「バウチャー」という名前が付いているが、今やろうとしているのは、生徒の数に合わせて公的補助を学校に対して分けていくべきではないか、ということ。

 つまり(1)保護者・子どもが学校を自由に選べるようにする(2)現状の学級数と教員数に応じてでなく、生徒数に応じて学校に予算を配分する(3)予算配分は公立も私立も同じに扱う―義務教育をこう変えようというのです。

 教育バウチャー制度は、規制改革・民間開放推進会議や日本経団連が導入を求めています。

 その狙いは何でしょうか。経済財政諮問会議では次のような議論がありました。

 吉川洋東大教授 学校が淘汰(とうた)される可能性がある。学校間で競争努力が生まれる。

 安倍晋三官房長官 人気のない小学校・中学校には生徒が来ない。

 牛尾治朗ウシオ電機会長 競争になって困るところは反対する。競争を歓迎するところはみんな賛成する。

 教育に競争原理を導入するというのですが、いまでも日本の教育は競争が激しすぎると、国連から批判されています。国連子どもの権利委員会は一九九八年、日本は「高度に競争的な教育制度のストレス」で「児童が発達障害にさらされている」と勧告しました。二〇〇四年の勧告では「十分なフォローアップ(手だて)が行われなかった」と重ねて批判しました。

 逆にフィンランドは競争のない教育制度で学力世界一を達成しました。『縦並び社会』(毎日新聞社)は、「地域間、学校間の格差が小さい平等な教育制度がこの調査結果を生んだ。われわれのやってきたことは間違っていなかった」「教育に社会の競争原理を持ち込むべきではない」というフィンランドの教育学者の声を紹介しています。

 保護者の負担はどうなるのでしょうか。

 安倍氏は、バウチャー制で「保護者はお金のあるなしにかかわらず、わが子を公立にも私立にも行かせることができる」(『美しい国へ』)と書いています。しかし、経済財政諮問会議で同氏は「私学の場合、授業料の差額はおそらく払わなければいけない」と言っており、矛盾します。

 問題は授業料です。生徒一人あたりの予算は同額でも、私立はさらに授業料を徴収できますが、公立は法律で禁じられています。つまり、公立が行うバウチャー分の教育は最低限で、私立で授業料を払えばバウチャー分に上のせした教育を受けられるようになるのです。

 一方、私立に現在の公立なみの予算を配分するには教育予算の増額が必要です。もし教育予算を増やさないなら、公立の予算を削って私立に回すことになります。公立の教育が落ち込む危険があります。

 教育バウチャー制では所得格差がそのまま教育格差に直結し、教育の機会均等を真っ向から否定することになります。(北村隆志)


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