2006年9月24日(日)「しんぶん赤旗」
主張
原発耐震指針
科学的な基準で安全確保を
政府の原子力安全委員会が原発の耐震設計審査指針を改定しました。地震に対する原発の安全性を審査する基準となる指針です。
日本列島は地震の活動期に入ったといわれ、二十一世紀前半に多くの地域で大地震が起きる可能性が指摘されています。しかし、今回の改定で、それにふさわしい科学的な検討が十分なされたとはいえません。
指針の再検討を
昨年の宮城県沖地震が東北電力の女川原発で想定されていた「設計用限界地震」の揺れを超えたことや、今年三月の金沢地裁判決が耐震指針の合理性に疑問があるとし、北陸電力の志賀原発2号機の運転差し止めを命じたことなどから、これまでの指針(旧指針)の妥当性は失われていました。
新しい指針には、想定する地震の活断層を五万年前以降に活動したものから、約十三万年前以降の活動が否定できないものへひろげるとともに、耐えるべき地震動の大きさの評価に新たな方法を導入するなどの改善がみられます。しかし、原発周辺にどのような活断層があるのかを調査するという最も基礎的なところで、根本的な問題を残しました。
活断層の専門家からも、次のような指摘があります。
これまで電力会社が行ってきた活断層調査では活断層の長さが過小評価され、それを行政が追認してきた。指針の改定にあたってはそういう誤りが繰り返されないようにすべきだ、と。
活断層の長さは、想定地震の規模と危険性の評価に直結するものです。今年六月には、中国電力の島根原発の近くにある宍道断層が、中国電力の評価した長さの二倍あるという研究結果も公表されました。政府の地震調査研究推進本部が国内の主な活断層について評価した地震規模は、多くの原発で許可申請時に電力会社が想定した地震規模を上回っています。
ところが、原子力安全委員会は、これらの最新の研究成果をふまえた指摘を正面から議論することを避け、問題を残したまま新指針の決定を強行しました。耐震対策のコスト負担を下げるために活断層の存在を値切ろうとする電力会社の思惑に追随するものです。
安全確保にふさわしい科学的で厳格な指針にするために、活断層研究の最新の到達をふまえた再検討を行うべきです。
原子力安全委員会は新しい審査指針を決定しながら、既設原発については電力会社に対して新指針をふまえた耐震安全性の確認を要請するにとどめています。
すでに電力会社は指針改定を見越した地質調査などに着手しています。中部電力は、浜岡原発の耐震補強工事も始めています。しかし、この工事でどの程度耐震性が向上するのか、何の保証もありません。
活断層調査の実態にメスを入れず、電力会社まかせの対策では、原発の安全性を確保すべき安全規制の役割は果たせません。
既設原発の総点検を
東海地震の想定震源域の真上にあり原発震災の危険が指摘される浜岡原発をはじめ、わが国の原発の多くは地震常襲地帯にあります。しかも半分以上が運転開始から二十年以上をへた老朽原発です。
それだけに、活断層の科学的な再調査を含めた既設原発の耐震安全性の総点検を行うことが急務です。そして、耐震補強などの安全対策をとるとともに、それでも安全の保証がない原発は運転を中止すべきです。