2006年9月18日(月)「しんぶん赤旗」
鼓動
Jリーグ観戦での自民党の“宣伝”
「政治利用しないで」
あふれたサポーターの良識
サポーターのクラブへの強い思いと、健全な感覚が、発揮された出来事でした。
日産スタジアムでJリーグの試合(横浜F・マリノス―川崎フロンターレ)を観戦した自民党の議員が、政治活動ととられかねない行為をしたことにたいする反応です。
■抗議に謝罪
経過はこうです。9日に自民党の横浜、川崎両市選出の国会議員、神奈川県議、市議が、横浜市連結成五十周年記念として、支持者2千人と試合を観戦。その際、市議が自分の名前入りののぼりをスタンド内に立て、党名の入ったうちわを配るなどしました。ハーフタイムには、マイクを使い支持者にあいさつをしたとも報道されています。
「宣伝行為をしないとの約束だった」という、マリノス側からの抗議で、後日、横浜市連は「誤解を招いた点があった」と謝罪しました。
こうした横浜市連の行為に加え、クラブ側も、試合当日にオーロラビジョンやプログラムで自民党の紹介をしていたという事実もありました。
この一連の状況を「異常」だと、真っ先に感じとっていたのが、その場に居合わせたサポーターでした。
試合直後から、自民党市議のホームページや、インターネット上のマリノス関連の掲示板にも、抗議の書き込みがあふれました。
「政治信条のために、スタジアムの熱狂を悪用しないで下さい」「スポーツを政治に利用するなんて最低です」「スポーツ精神へのぼうとくです」――。
その多くが「スポーツを政治利用しないで」という主張でした。そしてチームや試合そのものを汚されたという「悔しさ」「怒り」が、彼らを駆り立てていることが分かります。それは横浜以外のサポーターにも広がっています。
実際、Jリーグの管理規定にはスタジアムへの「持ち込み禁止物」の項目があり、「政治的、思想的または宗教的な主義、主張」を想起させるものの持ち込みを禁止しています。
スポーツが、思想信条の自由を前提に成り立っているからです。
どんな考え方をもった人も排除しない。同時にそれは特定の考え方や主張の表明の場でもないということを意味します。スタジアムには、だれもが気持ちよく応援や観戦できる環境が求められる。そのことを敏感に感じとった人々の声がここにあります。
■世論動かす
当初、この「出来事」を記事にした全国的なマスコミはありませんでした。しかし、サポーターのマリノスへの抗議がきっかけで、報道が出始めました。サポーターの健全な感覚が、世論を動かした形です。
横浜Mは「今回のことをしっかりと反省して運営に生かしていきたい」と語っています。
Jリーグは発足当初から、企業からの独立を目指し、「地域に根差したクラブづくり」を理念に掲げてきました。クラブの公共的な性格をサポーターが理解し、実践するなかで、しっかりした感覚がはぐくまれてきたのです。
今回の出来事が示したもの。それはサポーターの良識でした。(和泉民郎)