2006年9月14日(木)「しんぶん赤旗」

安倍氏

なぜ「集団的自衛権行使」か

解釈変更で 共同作戦拡大

明文改憲で “血の同盟”へ


 「世界でもっと日本が役割を果たすため今のままの解釈でいいのか」(八日、NHKインタビュー)。安倍晋三官房長官は自民党総裁選で、歴代政府が違憲としてきた「集団的自衛権」の行使について明文改憲とともに、その前にも憲法解釈を変更して可能にするよう主張しています。その狙いは何か。(竹下岳)


 “集団的自衛権の行使は日本を防衛するための必要最小限度を超えるもので憲法上許されない”(一九八一年の政府答弁書)―これが政府の見解です。集団的自衛権は「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されてもいないにもかかわらず実力をもって阻止する権利」(同前)だからで、海外での武力行使を可能にするものです。

 小泉純一郎首相も「歴代政府の考え方を尊重していきたい」との立場を表明してきました。安倍氏の立場はそれを踏み越えようとするものです。

 安倍氏は昨年十月、都内の講演で、憲法「改正」の必要を主張しつつ次のように述べています。

 「(日本国民は)海外での紛争に一緒に米国と肩を並べて武力行使をするという意識には至っていない」「(その前の段階で)集団的自衛権の行使をできると憲法解釈を変えることによって…日米が共同でいろんな対処もできる」

 つまり憲法改悪を通じ「米国と肩を並べた武力行使」を可能にする前にも、解釈変更によって海外を含めた米軍と自衛隊との共同作戦を最大限拡大しようというのです。

 安倍氏が解釈変更の検討対象に挙げている具体例も、(1)公海上での米艦船援護(2)イラクなどでの他国軍援護(3)「ミサイル防衛」での日米共同対処―などです(別項)。いずれもこれまでの政府の憲法解釈や現行法に反するものです。

 安倍氏が集団的自衛権の行使容認を急ぐ背景には、米国の強い要求があります。

 「日本が集団的自衛権の行使を禁止していることが同盟協力の制約になっている」。二〇〇〇年十月、アーミテージ前米国務副長官らが作成した「アーミテージ報告」はこう断定しました。

 翌年四月に就任した小泉首相は、直ちに集団的自衛権の行使に関する「研究」を指示。安倍氏も私的な勉強会「日本戦略研究会」を立ち上げ、同年七月の参院選後に、集団的自衛権の「限定的行使」に向けた準備を極秘に進めていました。

 小泉政権下では実現しませんでしたが、米側からの要求は絶えません。最近も、日米の艦船が公海上で「ミサイル防衛」の共同行動中に攻撃された場合、「米海軍は海自側を守るが、海自は(憲法上)米海軍を守れない」(ケリー在日米海軍司令官、神奈川新聞七日付)とし集団的自衛権の行使を求める声が上がっています。

 しかし、米側も、安倍氏も「限定的行使」で満足してはいません。

 アーミテージ氏は「日本も公海でなら集団的自衛権を行使できるという見解」だけでは「十分だと思いません」とし「日本がアメリカと対等な同盟パートナー同士として共同活動をする」よう全面行使を求めています(『Voice』九月号)。

 安倍氏は総裁選で「『世界とアジアのための日米同盟』を強化させ、日米双方が『ともに汗をかく』体制を確立」すると公約。「日米同盟の双務性を高めていく必要がある」と述べています。「軍事同盟というのは“血の同盟”」(『この国を守る決意』)というのが安倍氏の持論です。イラク戦争のような米国の無法な戦争で“ともに血を流す”体制をつくる―これが集団的自衛権の行使を容認する狙いであり、改憲の最大の目的です。

“新たな時代”に逆行

 しかし、イラクでもアフガニスタンでも米国の先制攻撃戦略は破たんしています。軍事同盟は前世紀の遺物になり、戦争と軍事力を放棄した憲法九条への世界的な注目が集まっています。安倍氏は「新たな時代を切り開く日本に相応(ふさわ)しい新たな憲法の制定」を言いますが、その目指す方向は二十一世紀の流れに逆らう「戦争をする国づくり」にほかなりません。


政府解釈とも矛盾

 「集団的自衛権は国家の自然権」と安倍氏は主張しています。一九六〇年の岸信介首相の「実力行使以外の集団的自衛権の行使はありうる」という趣旨の答弁を引用し、現行憲法下での解釈変更を正当化するのも特徴です。

 これについて浦田一郎・一橋大教授は、「現在の政府解釈では通用しない」と指摘します。

 まず「自然権」論については、安倍氏の国会質問に対して、政府は「集団的自衛権を行使できない以上、これを持っているかどうかは観念的な議論」「保有していないと言っても結論的には同じ」(〇四年一月二十六日、衆院予算委、秋山收内閣法制局長官)と答え、「自然権」論を全面否定していることを挙げます。

 岸答弁についても、「当時は政府解釈が未確定で、さまざまな見解が存在していた。解釈が確定した今日では通用しない理屈を、自分の都合のいいように使っているだけです」と指摘します。


 集団的自衛権 第二次世界大戦後の国連憲章で初めて規定されました。しかし同憲章の原則である集団安全保障(国連の合意に基づく集団的対処)がうまく機能しない場合の例外規定です。米国が軍事同盟を正当化し、自由に戦争に乗り出すことができるよう、憲章作成の最終段階でねじ込みました。

 実際、米国のベトナム戦争や旧ソ連のアフガニスタン侵略などの口実に使われてきました。最近では米国によるアフガニスタンへの「対テロ報復戦争」でNATO(北大西洋条約機構)軍が発動、参戦しました。


安倍氏が解釈変更問題で検討の必要を指摘している主な具体例

 「公海上で日本の艦艇と米国の艦艇が一緒に並走している時に、米国の艦艇に攻撃があった場合、日本の艦艇は見て見ぬふりができるのか」(8日、NHKインタビュー)

 (問題点)「対テロ戦争」のためインド洋に展開している米軍艦船が攻撃を受けた際、米軍艦船に補給活動をしている自衛隊艦船(護衛艦含む)が反撃することも可能に。

 「(イラクの)サマワにいる自衛隊が、イギリス軍がテロリストに襲われた時に、助けを求められても救援に行くことができないことになる」(2005年10月25日、都内での講演)

 (問題点)イラクで無法な軍事占領に反対する勢力と米英軍などとの武力衝突が起きた場合、自衛隊が「救援」の名目でその戦闘に参加することも可能に。

 「ある国から日本の上空を飛んで米国に向かっている(弾道)ミサイルをわが国が落とすという場合には、果たして集団的な自衛権の行使に当たるのか」(06年4月17日、衆院テロ特別委員会)

 (問題点)米軍の攻撃を受けた国が米国を狙って発射した弾道ミサイルを日本が迎撃することも可能に。日本は攻撃を受けていないのに、米国の戦争に参戦することに。


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