2006年9月14日(木)「しんぶん赤旗」

75歳以上の医療保険制度

都道府県単位の「広域連合」

国いいなりの危険も


 六月の国会で自民、公明が強行成立させた医療改悪法にもとづき二〇〇八年四月から七十五歳以上の高齢者を対象にした新たな医療保険制度(後期高齢者医療制度)がスタートします。運営主体は、新たにつくられる「広域連合」。都道府県単位で全市区町村が加入するという仕組みですが、多くの問題があります。


声が届かない

 いま厚生労働省は九月中に、全都道府県で広域連合設立に向けた準備委員会の設置を完了するよう求めています。さらに、広域連合設立規約を各市区町村の十二月議会で議決し、〇七年二月までに、都道府県知事の許可を得て、広域連合を発足させる予定です。

 広域連合は独自の「議会」を設置し、保険料などの条例を定めます。「議員」選出方法は、制度上は住民の直接選挙も可能です。しかし、「現実は直接選挙は無理。実際は、市町村議会などでの間接選挙になる」(厚労省)と想定しています。

 このため、広域連合議会の構成は、首長、助役、市町村議会議長などで占められ、住民が運営に参加できる仕組みは困難になっています。

 住民との関係が遠くなる一方、国には「助言」の名をかりた介入や、「財政調整交付金」を使った誘導など大きな指導権限を与えています。このままでは、広域連合が、国いいなりの“保険料取りたて・給付抑制”の出先機関になる恐れがあります。

自治の建前にも

 もともと広域連合というのは、廃棄物問題など「広域的に処理することが適当な事務」を複数の市町村でおこなうとして、一九九四年の地方自治法改定で導入された制度です。

 総務省によれば、介護保険、ごみ処理、汚水処理、消防などをおこなう広域連合が三十四道府県に八十二連合つくられています(〇四年三月)。

 本来、広域連合は市区町村から自発的に発議するものです。これまでの広域連合は市区町村の判断で脱退もできました。

 ところが、新しい後期高齢者医療制度は従来の広域連合と違い、法律によって市区町村に広域連合加盟を義務づけました。高齢者に保険料値上げや差別医療を押しつけるための内容やスケジュールを一方的に決めて、脱退も認めないというのは、「地方自治の建前にも反する」との指摘もあります。

住民の参加を

 「住民の声が届かない」――。国会審議で、日本共産党の小池晃参院議員がこの問題を追及しました(六月八日、参院厚生労働委)。小池氏は、福岡県でつくられている介護保険広域連合を例に、住民との関係が薄くなっていることなどを紹介。「七十五歳以上にとって切実な保険料条例や減免規定が、高齢者の実態からかけ離れたところで決められる懸念がある」とただしました。

 これに対し、厚労省の水田邦雄保険局長は「七十五歳以上の方々のご意見を踏まえて運営すべきことはその通り。何らかの形でそうした努力をしていただきたい」と答弁しました。

 広域連合議会には、住民による請願や、条例制定の直接請求などが地方自治法で保障されており、住民の運動がカギとなっています。

 福岡県介護保険広域連合の「議会」には、住民団体が議会傍聴を系統的におこない、その内容を住民に知らせながら制度や運営の改善を求める運動を続けています。

 今年十二月の市区町村議会では、「規約」の審議が焦点になります。ここで「市町村議会への報告義務」「議員定数の公平配分」「後期高齢者の意思反映の仕組み」「情報公開の徹底」などを盛り込ませることが重要です。また、広域連合の「議員」となる首長などに、高齢者の実態に応じた保険料設定、市町村に住む後期高齢者からの意見聴取――などを議会で要求することも必要です。

 広域連合設立後も、市町村議会で積極的に、後期高齢者医療の問題を取り上げるチェック機能を市区町村議会が果たすことです。

図

 後期高齢者医療制度 七十五歳以上の高齢者が、現在加入している国民健康保険や組合健保などを脱退させられ、後期高齢者だけの独立した保険が創設されます。

 すべての後期高齢者が、介護保険と同様の「年金天引き」方式などで保険料を徴収されます。保険料は、高齢者数の増大に応じて自動的に値上げされます。保険料の滞納者は保険証を取り上げられ、「短期証」「資格証明書」が発行されます。

 また、後期高齢者は、診療報酬も他世代と「別建て」にされます。「後期高齢者の心身の特性にふさわしい診療報酬体系」を口実に診療報酬を引き下げ、「手抜き医療」になる危険があります。


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