2006年9月5日(火)「しんぶん赤旗」
そもそもけいざいワールド
??? 貧困の国際比較って???
OECD(経済協力開発機構)が今年七月に発表した報告の中で、日本の「貧困率」が、先進国の中で二位になったといっています。「貧困ってどうやって国際比較するんですか」。読者からの疑問もよせられました。そういえば、最近まで、日本は貧困率で五位だったはずなのに、何で二位になったんだろう。(吉川方人)
「絶対的」と「相対的」
さっそく調べてみよう、と思いましたが、報告をまとめているのはOECDの本部。パリにあるらしい…。
パリまでの出張許可も出なかったし、フランス語もわからないので、電子メールで、「OECDが貧困を調べているのはなぜですか」と聞いてみることにしました。
日本への報告書の貧困に関する章をまとめたランドール・ジョーンズさんに日本語で質問すると、英語で答えてくれました。
「OECDの重要な役割の一つは、失業率や投資など国際的に比較できる統計を準備することです。所得分布と貧困は比較が難しいのですが、不平等と貧困は、社会にも個人にも否定的結果をもたらし、社会的疎外をつくりだす重要な問題だからです」
貧困を比較する方法には、「絶対的貧困」と「相対的貧困」があるそうです。
「絶対的貧困率」は、生活に必要な物資をもとにして、「何万円」というような額を貧困基準として決めるもの。OECD報告の国際比較では、ある時点での貧困基準を国ごとに決め、貧困層の増減を見ます。
OECD報告で使われている「相対的貧困率」の定義は、「中央値の50%未満の等価可処分所得を有する人々の割合」というもの。
例えば、九人の人口の所得では、小さい方から五番目の人の所得が中央値になります。十人の場合は、五番目と六番目の人の所得の平均が中央値になります。
可処分所得は税などをひいた自由に使えるお金のこと。「等価」というのは、世帯人数の影響を修正する係数をかけたものです。こうして測った貧困基準以下の所得の人口の大きさを比率として比較するわけです。
日本は米に次ぎ2位
要するに、相対的貧困率は、「所得の順番で並べて、真ん中の人の所得の半分以下の所得の人たちの、人口に占める割合」ということです。
これを人口全体で計算すると、日本は、二〇〇〇年の時点でOECDに加盟する二十五カ国の中でメキシコ、アメリカ、トルコ、アイルランドに次いで五位となります。相対的貧困率は15・3%です。
さらに、十八歳から六十五歳の労働年齢人口に限って計算してみます。比較できる対象が、十七カ国に減りますが、日本の相対的貧困率は13・5%で、アメリカに次ぐ二位になります。今回、OECDの報告で話題になったのはこの数字です。
日本の政府は“格差拡大は高齢化のせい”などといっていますが、労働年齢人口(十八歳から六五歳)でも、日本の貧困率は際立って高いことがわかります。
社会支出の弱さ要因
こんなに貧困率が高くなったのはなぜか。OECDは低所得の非正規雇用が急増しているからだといっています。加えて、OECDの統計は、貧困層にたいする社会的支出が弱いことも大きな要因であることを示しています。
日本は、相対的貧困率を税金と所得移転で3ポイントしか改善させていません。フランスでは改善前の相対的貧困率24・1%を税と所得移転で18・1ポイント改善して6・0%に、ドイツでは、20・5%から12・5ポイント改善して8・0%にしています。
OECD加盟諸国の多くの国では、貧困の改善が政策課題となっていて、相対的貧困に陥っている層の半分を税金と社会給付システムで救済しているのです。
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