2006年9月4日(月)「しんぶん赤旗」
経産省研究会
「成果主義に構造欠陥」
“労働者の意欲低下 職場疲弊”
企業に成果主義を導入した結果、人件費は下がったが、労働者のやる気や協働意識は低下した―経済産業省の研究会が、いまの成果主義には「構造的な欠陥」があるとする報告書をまとめていたことが分かりました。研究会は「人材マネジメントに関する研究会」(座長=守島基博一橋大学大学院教授)。企業が「短期的成果」ばかり追い求めて、人材育成を軽視していることにも警告を発しています。
報告書は「現在の成果主義は導入の契機がコスト削減にあった」とし、人件費の抑制では「効果を上げた」ものの、社員のモラールアップ(士気向上)や業績向上に関しては「思うような効果は上がっていない」と厳しい評価を下しました。
そして、「予想していなかった問題点」として、(1)賃金などの処遇に対する納得感の低下(2)個人競争激化による協働意識の低下(3)人材育成機能の低下(4)現場の疲弊とプロセス(目標達成までの過程)管理の弱体化―の四点をあげました。
「チーム内のメンバーでさえもライバルと見なして仕事」をしなければならず、「個人間の競争意識は高まるものの、意欲が高まらない」と指摘。管理職同士も「個人間競争」に追われ、「優秀な部下の疲弊、他の多くの部下に対する育成面での軽視」につながっていると分析しました。
また、企業が「売上やコストなど目に見えやすい目標や短期的成果の目標に偏る」結果、「マネジメント側が人材育成を軽視することや、社員個々人がストレッチ(ワンランク上の仕事への挑戦等)を避けようとする事態」になっていると懸念しています。
「目標管理制度」が実際には「結果管理制度」になり、「部下が必要とする支援は十分に行われず、インプットのない中でアウトプットばかりを要求される“疲弊”状況が職場に広がり、すでに長い時間を経過してきている」と述べています。
同研究会は、経産省産業人材担当参事官室の委託調査として約一年かけて検討を行い、八月に報告書をまとめました。成果主義が批判を浴びているなかで、企業の人事政策のあり方を研究することが目的です。
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肯定派さえ厳しい評価
解説
経済産業省の研究会がまとめた報告書は、いま全国の職場で問題になっている成果主義賃金の欠陥をほぼ全面的に認めました。
「成果に応じた処遇といっても評価が公平でない」「チームでする仕事なのに評価は個人ごと」「全員が競争相手なので職場がバラバラ」といったことが、成果主義を導入したどこの職場でも指摘されてきました。競争に追われ、長時間労働、精神疾患の激増も社会問題になっています。
研究会が指摘した「構造的な欠陥」は成果主義の本質です。組織全体で分担して仕事をしているのに、あえて個々の労働者に優劣をつけて賃金で差別するなど、もともとむちゃな話です。それをあえてするのは、国際競争に勝ち抜くためという口実で労働者の犠牲によるコスト削減を狙っているからです。そのために成果主義で労働者を競わせ、総人件費を抑制しようとしているのです。
研究会の立場は、働く人の意欲を向上させる「真の成果主義」をつくりあげていかなければならないというものです。そうした研究会の報告書ですら、「構造的な欠陥」があるとまでいわざるをえないところに、現状の深刻さがあります。
(山田俊英)