2006年9月2日(土)「しんぶん赤旗」
安倍氏の危うい政治姿勢
自民党総裁選で一日に出馬表明し、政権公約を発表した安倍晋三官房長官。同党内では安倍政権に向けた動きが活発化しています。しかし、安倍氏の政治姿勢は国民にとって危険きわまりないものです。
憲 法
戦争する国へ改憲を日程に
安倍氏は政権公約で「新たな時代を切り開く日本に相応(ふさわ)しい憲法の制定」を冒頭に掲げています。これまでも「次の内閣は、政治日程として憲法改正を取り上げる初めての内閣になるでしょう」(『安倍晋三対論集』)と語ってきました。
改憲を政治日程に乗せることを公約に政権党のリーダーに名乗りをあげたのは戦後初めてです。安倍氏の政権公約は歴史的にも重大です。
しかも安倍氏の憲法観は、現行憲法を「敗戦国の詫(わ)び証文」「占領時代の残滓(ざんし)」などと繰り返し攻撃するなど戦前回帰型。一年生議員だった当時、党大会で採択された「自民党新宣言」(一九九五年三月)の案に、「自主憲法制定」が盛り込まれなかったことに猛反発し、改憲論議をすすめる旨の文言を明記させた過去を持つ根っからの改憲派です。
一方で、海外での武力行使を可能にする集団的自衛権については、「私自身は現在でも行使できるという考えだが、憲法改正することによってクリアになっていく」(二〇〇五年九月十二日、民放番組)と述べているように、九条改悪で日本を米国とともに「海外で戦争できる国」にすることを狙っています。「軍事同盟とは“血の同盟”」「日米安保をより持続可能なものとし、双務性を高めるということは、具体的には集団的自衛権の行使だ」(『この国を守る決意』)と語っています。
教 育
国家統制へ基本法改悪狙う
安倍氏は政権公約で「教育の抜本的改革」を掲げました。著書では首相主導の「教育改革」の柱として、「自虐的な偏向教育の是正」を掲げるなど、侵略戦争を美化し、「戦争をする国の人づくり」をいっそう推し進めようとしています。
「愛国心」を強制し、政府が教育内容に無制限に介入する教育基本法改悪法案の強行を次期国会で狙っています。
安倍氏は政権公約で「学校、教師の評価制度の導入」を掲げています。著書『美しい国へ』によれば、学力、学校の管理運営、生徒指導の状況などを「国の監査官」が評価する仕組みです。国が問題校とみなした学校には、「文科相が教職員の入れ替えや、民営への移管を命じることができる」という教育の国家統制そのものです。
また義務教育段階から「全国的な学力調査を実施、その結果を公表するようにするべきではないか」とし、国連子どもの権利委員会で「児童が発達障害にさらされている」と批判された日本の「高度に競争的な教育制度」をいっそうひどくする姿勢をみせています。
経 済
「格差」当然視し、拡大させる
安倍氏は、「格差」を固定化させないための施策として政権公約で「誰もがチャレンジ、再チャレンジできる社会の実現」をあげています。
しかし、安倍氏といえば、「格差」そのものを深刻化させてきた小泉「改革」推進の看板役となってきた政治家です。雇用の破壊、社会保障の連続改悪など、「格差」拡大の原因となった「改革」路線を、党幹事長や官房長官として、国民にアピールする先頭に立ってきました。
国民の猛反発を受けた二〇〇四年の年金改悪でも、幹事長として公明、民主両党との間で「三党合意」(〇四年五月)を結び、改悪法を強行。自ら厚生労働委員会で陣頭質問をする徹底ぶりでした。
官房長官としても、「社会保障の在り方に関する懇談会」で、消費税率引き上げを含む最終報告をまとめ、経済財政諮問会議の議員として、福祉切り捨て、消費税増税を柱とする「骨太の方針2006」を策定しました。
著書でも「構造改革が進んだ結果、格差があらわれてきたのは、ある意味で自然なことであろう」(『美しい国へ』)とのべ、「格差」を当然視しています。
また、社会福祉政策を「社会主義的」と切り捨て、小泉「改革」について、「これまでやや社会主義的だった仕組みを、より市場経済性の高いものにした」(『安倍晋三対論集』)と賛美しています。
信 条
戦前の発想持つ「闘う政治家」
安倍氏は、政治姿勢について、「つねに『闘う政治家』でありたい」(『美しい国へ』)とのべています。「『闘う政治家』とは、ここ一番、国家のため、国民のためとあれば、批判を恐れず行動する政治家のことである」(同)といいます。
安倍氏は「祖父には確固たる自信があった」「『百万人といえども我ゆかん』の自負と覚悟で、政治生命をかけての歩みでした」(『この国を守る決意』)とのべています。「闘う政治家」像とは、祖父・岸信介元首相が、国民的な反対闘争がわきおこった安保改定を強行した際の姿勢と重なります。
国民の圧倒的な批判をさえ無視して強行するのが、「闘う政治家」だとすれば、危険な姿勢です。
安倍氏は、A級戦犯容疑者で、戦前、商工相などを務めた岸氏について、「皆が『とんでもないものだ』と思っているその戦前の時代に、強烈な自信を持つというのは、一体その背景にあるものは何なんだろう」(『「保守革命」宣言』)とのべています。
そして、「天皇中心の日本」として「一体感」をもった「国のありよう」を「断固として信じていた」ことに、「強い感銘」を覚えたといいます。「日本国民は、天皇とともに歴史と自然を紡いできたんです」「その中心に一本通っている糸はやはり天皇だと思うのです」(『安倍晋三対論集』)とものべています。
戦前の発想に強い親近感を抱き、国家主義的な考え方が政治信条の根底に流れていることがわかります。
安倍氏「政権公約」の基本的方向性
安倍晋三官房長官が一日発表した政権公約で示した「政権の基本的方向性」は、次の通りです。
文化・伝統・自然・歴史を大切にする国
〇新たな時代を切り開く日本に相応(ふさわ)しい憲法の制定
〇開かれた保守主義
〇歴史遺産や景観、伝統文化等を大切にする
〇家族の価値や地域のあたたかさの再生
自由と規律の国
〇教育の抜本的改革
〇民間の自律と過度の公的援助依存体質からの脱却
〇安心と安全を国民の手に取り戻す
イノベーションで新たな成長と繁栄の道を歩む国
〇成長なくして日本の未来なし
〇イノベーションによる経済成長
〇国際社会における規範形成力と存在感
世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのあるオープンな国
〇世界に向けた日本の魅力のアピール
〇日本の強さを生かした積極的貢献
〇世界の中で活躍、貢献する日本人を育てる