2006年8月29日(火)「しんぶん赤旗」

“守られた民主主義”

逮捕・起訴自体が不当

ビラ配布無罪判決

新しい日始まった 荒川さん夫妻


 「言論と表現の自由の新しい日が始まった。勝利をみなさんと喜びたい」。二十八日、東京・葛飾のビラ配布弾圧事件無罪判決後、東京地裁前で荒川庸生さん(58)が語ると集まった支援者らは笑顔を見せうれしさをにじませました。


“控訴やめて”

 「被告人は無罪」。大島隆明裁判長が主文を読み上げると傍聴席からは拍手と歓声が上がりました。けさ姿で左手に数珠を持った僧侶の荒川さんは、裁判長に一礼。被告人席に戻り判決理由を聞きながら白いハンカチでほおをぬぐいました。傍聴席最前列の中央左寄りに座った妻の英子さん(48)は目をうるませました。「支援してくださった皆さんのおかげで勝ちました。うれしい」。判決後英子さんは、支援者らに感謝の気持ちを表しました。

 事件発生後、家族の平穏な生活は一変。仕事をしながらほぼ月一回のペースで行われる公判をこなす夫を支えました。守る会結成のために駆けまわりました。

 「なぜビラを配っただけで罪になるのか」との疑問を抱えつづけました。二十四日、英子さんは二十三歳の長男とともに裁判長に手紙を出します。「無罪判決を信じています」

 傍聴席で判決を待つ間、最近のビラ配布事件の判決を考え「不当判決」しか頭に浮かんでこなかったといいます。「現在の社会状況のなかで裁判長は勇気ある判決を書いてくれました。検察は控訴しないでほしい」と英子さんは話しました。


支援者ら喜び爆発

 荒川さんの無罪を求めてきた市民や宗教者など支援者らは判決に喜びを爆発させました。

 弁護士が「無罪」と書かれた、垂れ幕を広げると、傍聴席に入れず外で待機していた約二百人の支援者らは「おー」とうなるような歓声を上げました。

 判決言い渡し後、東京地裁を出てきた荒川さんを支援者は拍手で出迎えました。荒川さんは両手を空に突き上げ、ガッツポーズでこたえました。

 「荒川さんは(日本共産党の)『都議会報告』を配布して裁かれたので、私も証言台に立ちました。それだけに本当にうれしい」というのは、地元・葛飾区在住の木村陽治元都議団長。「都民の暮らしにとって、いかに『報告』がかけがえのないものかを証言しただけに、この無罪判決は荒川さんだけでなく、党都議団にとっての判決でもあるんです」。渡辺康信党都議団長は「新しい民主主義の芽生えだと思う。控訴させないようにみなさんと一緒に頑張っていきたい」とあいさつしました。

 神戸市から駆けつけた臨済宗妙心寺派尼僧は「宗教活動でも『教え』を広げるためビラを配布するので今回の逮捕には驚いた。判決が社会通念上無罪としたのは当然だと思う。民主主義が守られた」と語りました。

 千葉県船橋市の女性(69)は「うれしい。私はクリスチャンですが、宗教者として弱い人たちのために頑張っている人の言い分が認められた」と話しました。

 判決報告集会で支援者らは、「控訴しないよう求めていく」ことを確認しました。


解説

市民感情にそった判決

憲法判断には踏み込まず

 「一市民が日中、静かにビラを投かんしたことがなぜ犯罪になるのか」―。荒川さんの無罪判決は、こうした市民感情にそった判決であり当然です。判決は、国公法違反を問われた堀越事件や、公選法違反の大石事件など、言論・表現の自由をめぐる不当判決が続いているなかで、一定の良識を示したものといえます。

 ビラ配布は憲法で認められた言論・表現の自由、政治的自由に基づく活動です。もともと逮捕、起訴すること自体が不当であり、日本共産党の活動妨害を狙った弾圧であることが明白な事件でした。

 ビラをポストに入れるポスティングという社会的に当たり前の活動を、家宅捜索などの過大な違法捜査で、いかにも住民生活の平穏を乱す犯罪的な行為であるように描こうとする警察・検察側こそ憲法に照らして断罪されるべきで、控訴で裁判を長引かせることは決して許されません。

 一方で不十分な問題点も指摘しないわけにはいきません。

 荒川さんが配布したビラは日本共産党の都議会報告や区民アンケートであり、憲法二一条一項の保障する政治的表現活動の一つであり、民主主義の根幹をなすものです。荒川さんも公判で「有罪になるようなことがあれば、何も言えない世の中になってしまう」と訴え続けてきました。

 公安警察・検察が狙ったのはまさに、政治的市民活動の委縮効果であり、憲法を踏みにじるものでした。裁判所は、こうした当然ふれるべき憲法判断にはまったく踏み込みませんでした。

 さらに公判では住民の一一〇番通報をうけた警視庁通信指令本部が「共産党員?がビラのようなもの投げ込み」などと、管轄する警察署に注意を喚起する「重要ブザー」を押すなど、最初から日本共産党の活動妨害を目的にした違法捜査だったことが明らかになりました。判決は、言論弾圧のためには手段を選ばないという公安警察・検察の姿勢にもまったく言及しませんでした。

 自由と人権を踏みにじる政治弾圧を二度と繰り返させないために、引き続く警備公安警察・検察への追及を強めていく必要があります。(阿曽 隆)

国民救援会が会長声明

 日本国民救援会中央本部(山田善二郎会長)は二十八日、「葛飾ビラ配布弾圧事件の無罪判決についての会長声明」を発表しました。

 声明は、一連のビラ弾圧事件で有罪判決が続き、「『戦争をする国』づくりに反対する言論・表現活動への抑圧が強まる中で、ビラ配布の自由を認めた今回の無罪判決は画期的なもの」と指摘するとともに、署名や要請手紙など広範な支援の広がりに言及。

 そのうえで、「東京地方検察庁が今回の無罪判決を重く受けとめ、本件の控訴を直ちに断念し、今後二度とこのような言論・表現活動に対して弾圧することがないよう強く求め」ています。


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