2006年8月28日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
フジロックで考えた
自然・環境・格差社会
ことしで十周年を迎えたフジ・ロック・フェスティバル(七月二十八―三十日)には、のべ十三万一千人が参加しました。フジロックは夏のイベントの定番となってきた屋外型ロックフェスティバルの先駆け的な存在でもあります。新潟県の苗場スキー場をいっぱいに使った会場は、十三のステージのほかにNGO(非政府組織)村などの色とりどりのテントが鮮やかです。最新作のアルバムを出したレッド・ホット・チリペッパーズ(レッチリ)が四年ぶりに参加。海外、日本のアーティストらの音楽を楽しみながら、自然や環境について考えるフェスティバルとなりました。(伊藤悠希)
3日間でのべ13万人
フジロックには、海外と日本のアーティストが出演しました。日本のアーティストは加藤登紀子、矢野顕子、アジアン・カンフー・ジェネレーションなどが参加。海外からはレッチリのほか、フランツ・フェルディナンド、ザ・ストロークスなどが出演しました。レッチリのステージでは約三万五千人が彼らのパフォーマンスに見入り、踊っている人も。
参加者はお目当てのアーティストが出演する会場に移動したり、会場内をぶらぶらして新しくお気に入りのバンドを見つけたりします。
「電気グルーヴ(日)とモグワイ(英)を見るために参加した」という会社員(23)=埼玉県=は「観客が多くて自然と盛り上がる」。和歌山県からバスツアーで参加した大学二年生(21)はフジロックのためにバイトでお金をためてきました。「緑の中で音楽を聞くことが気持ちいい。みんなが楽しんでる雰囲気がいい」
「NGO村」に13団体が参加
会場内にはNGO団体がテントを出してそれぞれの活動を紹介する「NGO村」があります。ことしのテーマは「地球温暖化・災害・格差社会」。参加したのは十三団体です。
その一つ、「ナイス(NICE)」は九十八カ国でワークキャンプを実施しています。今月、インドネシア・ジャワ島地震(五月)の被災地の子どもたちに文房具を届けるため、フジロックの参加者にメッセージを書いてもらっていました。
フィリピンを活動拠点にしている「I CAN(アジア日本相互交流センター)」はごみ処理場でごみ拾いをして生活していた人々に対する医療支援、職業訓練を行っています。テントでは職業訓練を受けた人たちがつくった商品を販売していました。
フジロックの一部ステージとNGO村の電力をまかなっているBDF(バイオディーゼル燃料)を提供している「自然エネルギー推進市民フォーラム」。太陽光の電力で無料の携帯電話充電サービスもしていました。
若者の実態ステージ討論
NGO村の近くにあるステージではゲストを迎えてテーマごとに討論。テーマの一つは「格差社会」です。若者の実態調査をしているNGOからの報告や「格差社会を自己責任と結びつける理論はおかしい」という発言も。
「スロー」をキーワードに「環境・文化・エコビジネス」運動をしている「ナマケモノ倶楽部」や、自分のお金の預け先を考え直そうという国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」のプロジェクト「エコ貯金」の取り組みが紹介されました。
東京から参加した会社員(23)は、宿泊費を浮かすために車中泊です。二年ほどフリーターでしたが、いまは正規社員に。「収入のいい人を探さないと子どもも産めないんじゃないかと友達と話題になるんです。いまのままでは若い人は使い捨てみたい。何か行動を起こした方がいいのかなとこのステージに来たんです」
NGO村幹事の木村真樹さん(29)は「『格差社会』は知ってほしいテーマ。いま、若者はしいたげられ、声を出す機会が少ないのも現状です。しかし、自分たちの未来は自分たちでつくらなければ」と話します。
みんなで協力ごみの分別
会場には、ベニヤ板で作られた幅五メートルほどのごみ箱。十四カ所に置かれています。「わりばしはこっちの袋。紙皿はつぶしてここへ。ペットボトルのふたはこっち、ラベルをはがしてそこへ」。ごみの分別案内をするボランティアは「A SEED JAPAN」です。
ボランティアの女子学生(21)は「分別を呼びかけると、きちんと分けてくれるし、言わなくても一人ひとりが理解して分別してくれます。何回もやっているからみんな協力的」と話します。
会場に入ると配られるごみ袋は昨年回収したペットボトルをリサイクルしたもの。トイレットペーパーは紙コップをリサイクルしたものを使っています。
「A SEED JAPAN」はフジロックの参加者にリサイクルやごみを出さない意識を持ってもらおうと「ごみゼロナビゲーション」を設置。ボランティアの案内で分別作業を体験します。
分別体験に参加していた女性は「フジロックには毎回参加しています。分別の仕方はフジロックで学び、家でもやるようになりました」と話していました。
お悩みHunter
「負け組」は嫌だから有名大学に入りたい
Q いま有名大学をめざして受験勉強中です。先が見えない世の中ですが、ぼくは「負け組」にはなりたくありません。有名大学へ行って、それなりの給料、生活を自分でつかみとりたいと思っています。有名大学を出ても「いつリストラにあうかもしれない」という人がいます。でも、「負け組」はいやです。ぼくの考えはおかしいですか。(高校三年。東京都)
お金より、生き方で勝とう
A 有名大学に入り、「負け組」にはなりたくないとのこと。これだけ「下流」、二極化、格差が話題に上ると、不安に襲われるのもわかります。二〇〇〇年、日本の相対的貧困率は米国に次いで何と第二位の13・5%。それもたったの0・2ポイントの差。今年、トップになっていても不思議ではない。貧富の差を測るジニ係数も日本は国際平均を上回り0・314。多くの富が一部の人に集中しています。
生活保護世帯は百五万件。この支給基準以下の所得の絶対的貧困者は、〇二年で10・8%も。貯蓄ゼロ世帯は23・8%。どこから見ても、底なしの貧困化と二極化は進んでいます。しかし、大切な点はこれらは、決して天災でも自然現象でもないこと。人為的な政治や経済政策の結果にほかなりません。日本は「別の国」になったのです。
「負け組」になりたくない今の気持ちから、もう一歩踏み込み、この背景や原因を探るのはどうでしょうか。つまり、個人的満足に終わらせず、多くの仲間とこの現状を変革してほしいのです。金よりも、生き方において「勝ち組」になってほしいのです。そういう高いモチベーションがあれば受験勉強の効果が上がること間違いなしです。
ホリエモンや村上ファンドの元社長のような、マネーゲームの生き方はたとえ「勝ち組」でも惨めだと思いませんか。
教育評論家 尾木 直樹さん
法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。