2006年8月21日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

漁師さんいらっしゃい


 今年の夏、久しぶりに海や山に行き“こんなに自然豊かな所で働き、暮らせたら”と思った方も多かったと思います。そうは言っても、地縁も血縁もない土地では、希望はしても方法が分からない、というのが現実です。そこで今回は、特に参入がむずかしいとされる漁業就業への道や、漁村で頑張る青年たちの活動の一端、自治体の支援のようすを紹介します。


都心で就業支援フェア

 炎天下となった今月五日の土曜日。都心の国会議事堂近くのビルで「漁業就業支援フェア」が開かれました。

 午後一時の開会には、百人ほどの参加者で会場はいっぱい。三十代前後の男性が中心ですが、なかには、十代の若者や子どもを連れた四十代前後の夫婦の姿もみえます。

 フェアは、北海道から沖縄まで各地から上京した漁協、水産会社、自治体の担当者が、漁師を希望する参加者と机をはさんで面談する趣向です。会場のスクリーンに漁業現場の様子が上映されたあと、「漁師希望者」を募集する側の各団体が「うちへ、どうぞ」と自己紹介。そして面談が始まりました。

自然の中で働く

 いすで独り、資料をみていた青年に、声をかけてみました。埼玉県で福祉関係の仕事をしているというその男性(24)は「私は人との接触が苦手で…」といいながら、動機をこう語りました。

 「これまでアルバイトを点々としてきました。こんどは自然の中で本格的に仕事をしたい。海も魚も好き。住みやすい関西地域の漁村を希望しているのですが…」

 たどたどしい日本語の女性がいました。東京で働いていた夫(41)について、二人の子を連れて来場した外国人妻(29)。不安そうに夫の面談を見つめています。

 日本海の離島・島根県隠岐郡海士(あま)町から「新住民」募集で上京した人に会いました。町役場の濱中香理・産業創出係長です。

 人口二千五百人。高齢化・過疎化が進む同町ですが、昨年度は五人家族を含め六十人の新住民が島外から来たといいます。三十―四十代が中心ですが、なかには「金持ちにはなれないかもしれないが、自然相手の仕事がしたい」と、第二の人生を島にかける五十代の人もいるといいます。

 五日のフェアの結果を、後日、帰島した濱中さんに聞きました。

 「高校生や三十代など五人ほどと話はできたのですが、(来島を)約束できる人はいませんでした。“異なった環境で生活したい”とか“親元から離れたいため”“漁師にでも”という人が多かった。でも今は漁師の方が大変な時代です。町としては本当に漁師をやりたい人、自分の能力や気力を生かしたい、という人を求めているのですが」といい、生半可な就業希望者には厳しい意見が返ってきました。

 このフェア。実は今年はこれが二回目です。

 「五月にも東京と大阪でフェアを開き、合わせて二百二十人参加しました。そのうち六十六人(男性ばかり十七歳から四十八歳まで、平均三十四歳)がいま、漁民になるための六カ月研修を受けています」と説明してくれたのは、主催者・大日本水産会漁政部企画課長の松沢正明さんです。フェアは全国漁業協同組合連合会と共催で水産庁の後援です。

定着促進に予算

 「五日のフェア参加者は九十八人でした。(水産会社や漁協など)三十八団体が面接し、一応マッチング(組み合わせ)ができたのは三十五人でした。都会の人を地方へというのがフェアの狙い。地元漁村では(後継者の成り手が)足りない。それに、都会の人を(漁村に)呼び込んで活性化を図りたいという狙いもある」といいます。

 受け入れのため自治体の支援制度も拡充しつつあります。山口、島根、鳥取、長崎の各県などでは、漁業新規就業者の定着促進のための貸し付けや助成金を支給しています。先ほどの海士町では、町営住宅や空き家をリフォームして用意。漁業だけでなく農業や第三セクターなど雇用の場も世話しています。

 水産庁も今年度から、新規就業者確保・育成支援事業費(新規)として二億円を付け、漁師研修への講師代、教材費などを補助するようになりました。(篠田 隆)


岩手・山田町

若手グループに助成

養殖事業視察や学習会

地図

 岩手県山田町は、人口二万五百人、世帯数七千二百の水産業を基幹産業とする町です。

一割以下に激減

 一九六〇年代までは、年間五千トンから九千トンの水揚げがあったイカ釣り漁業の盛んな町でしたが、昨年は二百六十トン、七千三百万円の水揚げしかなく、イカ釣り漁船も最盛期の一割以下に激減しました。

 イカ釣り漁業に代わって漁船漁業の中核を担ってきた秋サケ漁(延縄=はえなわ)も昨年は百四十七トン、三千八百万円の水揚げに低迷し、赤字のために廃業する漁業者が増えています。

 二〇〇五年度の山田町の漁業生産額は三十三億九千八百万円です。八四年の八十四億円の半分以下です。このうち漁船漁業は、イカ釣り、サケ延縄、その他で一億二千四百万円です。

 定置網漁業では十二億二千万円です。浅海の養殖漁業では十二億八千万円で、内訳はカキ養殖で九億八百万円、ホタテ養殖で一億八千万円、ワカメ養殖で一億七百万円、コンブ養殖で六千七百万円などとなっています。

 磯漁業は二億七千七百万円で、アワビが一億二千四百万円、ウニ一億二千四百万円などです。

 不漁と魚価安で、漁協の経営も累積赤字が増大し、〇五年度決算では、五つの漁協と山田漁連の累積赤字の合計額は十六億四千二百万円です。

 八八年には二千三百四十五人いた漁協の正組合員も、〇五年四月一日現在では千三百八十二人と、六割以下に減少しています。

 三十九歳以下の若い組合員は、百人くらいしかいなく、後継者不足は深刻です。

 漁業不振は、店を閉じる商店を続出させる大きな要因の一つとなり、地域経済と税収入の減少、滞納の増大など行政運営にも重大な影響がでています。

 山田町では、漁業後継者対策として、〇一年度に町内の若年漁業者で組織した「水産・21世紀会議」に、年間百万円の活動費を助成しました。

 同会議は、国内外のカキ養殖事業の視察、学習会の開催などを行い、三カ年の活動を終了しました。同会議のメンバー十四人は、山田の漁業を担う若手漁業者として、漁協役員に就任する者もでるなど、第一線で頑張っています。

 〇四年度、〇五年度はより若い漁業者で組織した「水産グループ21」に年百万円の活動費を助成しました。同グループは三重県、北海道などのカキ養殖事業視察、学習会の開催などを行いました。

 同グループのメンバー十三人は大変若いので、「21世紀会議」メンバーのように第一線で漁業を担うところまでにはなっていませんが、将来に期待しています。

これから漁協が

 〇六年度の後継者対策費は予算に計上されていません。第一期、第二期の後継者対策は町が直接、若年漁業者を組織し、活動を助成してきましたが、今後は漁協が後継者対策を企画し、これを行政が支援する方向を町当局は考えています。

 日本共産党町議の私は、沿岸漁業振興と漁業所得を増大させるために、(1)資源保護の観点からトロール漁業の規制(2)カキ養殖の密殖解消と品質向上―など政策を提言し、その実現に努力するなど、頑張っています。

 (山田町議・佐藤照彦)


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