2006年8月15日(火)「しんぶん赤旗」

政府は「国民保護」計画急ぐが

8市町村で継続審議 6月議会

沖縄に根強い慎重姿勢

本紙まとめ


 米軍の先制攻撃戦争などに自治体・住民を総動員する有事法制の具体化として、政府が全国の自治体に作成を求めている「国民保護」計画の関連条例案について、六月議会で全国八市町村で継続審議になったことが十四日までの本紙のまとめで分かりました。沖縄県では条例制定が39%にとどまっています。

 政府は二〇〇四年に成立した「国民保護」法など有事法制に基づいて、全国の自治体に計画策定を求めており、今年三月までに四十七都道府県の計画が承認されました。次の段階として、来年三月までに全市町村に計画策定を求めています。

 継続審議になったのは北見市(北海道)、西東京市(東京都)、池田町(長野県)、白馬村(同)、四万十町(高知県)、土佐町(同)、嘉麻市(福岡県)、志免町(同)です。

 これらの議会では「戦争を助長しかねない」「憲法違反」「時間をかけて慎重に審議すべき」などの意見が出されました。

 沖縄県で条例が制定されているのは四十一市町村の39%にあたる十六自治体で、全国の92%を大きく下回っています。「太平洋戦争の地上戦の経験から、住民に抵抗感がある」などの理由で、自治体は慎重な姿勢です。米軍基地を抱える沖縄市、宜野湾市、嘉手納町、読谷村などでは九月議会への提出のめどもたっていません。与那国町では、町議から慎重審議を求める意見が相次ぎ、当局が条例案を取り下げました。

 加茂市(新潟県)では「住民を戦争動員のための自警団に組織させるもで危険」(小池清彦市長)との考えから、計画策定を拒否しています。国立市(東京都)は「総合防災計画」を作成し、「国民保護」計画に代替させる方針です。

図

解説

道理ない計画押しつけ

 「内容の理解が追いつかない」…。「国民保護」計画の策定を要求されている全国の自治体当局・地方議員から共通して出される声です。

質問も答弁もなし

 「国民保護」計画の根拠となる「国民保護」法は、二百条近い法律です。さらに都道府県の計画と、百二十ページに及ぶ市町村「国民保護」モデル計画を読みこなし、「有事」(=武力攻撃事態等)やテロ攻撃など、事態に応じた住民の避難・救援計画、平素からの「啓発」や訓練計画などを作成しなければなりません。

 職員のリストラや合併などで多忙な自治体当局にとって、容易な作業ではありません。

 条例案が継続審議になった議会では、当局が質問にまともに答えられず、議員からもほとんど質問が出ない状況が起こっています。全国約千八百四十市町村中、成立した千六百八十四市町村でも条例にもとづいて計画が策定されたのは鳥取県の六自治体だけです。

 政府は、「今年度中に計画を作れ」と圧力をかけています。自治体側も「国が決めたことだから」と押し通したり、「交付金に影響が出る」と、筋ちがいの脅しをかけるところもあります。

 しかし、「国民保護」法に計画策定の期限は明記されていません。また、新潟県加茂市のように、計画を策定しないと判断した場合の対処についての条項もありません。「国が決めたことだから」というだけで押し切る理由はまったくありません。

国民の人権を制限

 「国民保護」計画は人権との関係でも大きな問題を抱えています。武力攻撃事態法では「国民の自由と権利」に「制限が加えられる場合」があることを明記しています。

 沖縄県で多くの自治体が慎重姿勢を示す背景には、太平洋戦争で国内唯一、住民を巻き込む地上戦の舞台になった歴史があります。旧日本軍は住民を保護するどころか、避難ごうから追い出し、あげくの果てには集団自決を強要しました。

 現在では、米軍が重大な障害になっています。米軍基地が集中する沖縄は、戦時になれば出撃拠点になります。住民が避難しようにも、米軍車両が優先されるのは目に見えています。また、基地を抱える自治体では、米軍基地内の通過を認めてほしい、との声もありますが、米側は難色を示しています。

 戦争になれば、住民の生命・財産は後回し―。沖縄県だけの問題ではありません。二〇〇三年に鳥取県が開催した「国民保護フォーラム」では、現職の自衛官が「一方通行の道路で避難民のバスと自衛隊車両がぶつかった場合、自衛隊が優先だ」との見解を示しています。(竹下岳)


 「国民保護」法 「武力攻撃事態法」を中核とする十の法律や条約で構成される有事法制の一つ。米軍の先制攻撃戦争の場合でも、政府が「武力攻撃予測事態」と認定すれば発動されます。各自治体は同法を根拠とする「国民保護」計画に沿って、住民への警報発令や避難誘導、救援、復旧などの「責務」を負います。(1)住民の土地・家屋や物資の強制収用(2)特定区域の立入禁止―など人権を大幅に制限する規定もあります。平素からの「啓発」や訓練の規定もあり、自治体は住民に「戦時意識」を植えつけ、周辺国への敵対意識を高める役割を担わされます。


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